2019年サッカーイラン代表の戦術:或いは偉大なるキャプテン・ショジャイー



イラン代表紹介ラスト投稿。最後はアジアカップでの試合をちょろっと見た感じの戦術解説と、筆者の愛するイラン代表キャプテンのマスード・ショジャイー選手について紹介していくよ。いつもより丁寧だよ。でも筆者は正直戦術を見る目があんまり無いのでそっちの方は参考程度にしてもらえるとありがたいよ。

・チーム状況と戦術

イラン代表はこれまでのアジアカップ2試合で、どちらも4-3-3の布陣を取っている。ただ戦い方は守備重視で組み立てとかほとんどワントップのアズムンに放り込んでたロシアW杯とは打って変わって綿密に構築されたビルドアップと才能溢れる攻撃陣による魅力的なサッカーを魅せている。今回最も特徴的なのは開いた両サイドバックを起点としたビルドアップからウイング・センターフォワード・インサイドハーフと連動したパスワークで相手守備陣を華麗に崩してのけるサイドアタック。今回はイングランド・チャンピオンシップのレディングに所属するアンカーのブスケツ型MFエザトラヒやクロアチアの名門ディナモ・ザグレブの超攻撃右サイドバックのモハラミなど多くの主力を欠いてはいるが、これまでは順調にグループリーグを勝ち進んで決勝トーナメント進出を決めている。

初戦は低い位置で4-4-2のブロックを敷くイエメン代表相手に、サイドバックを開いてインサイドハーフを三列目に落とし、ビルドアップに参加させる事で空いたハーフスペースをセンターフォワードのアズムン+内側に絞ったウイングのタレミとトラビに入れ替わり立ち替わり侵入させる事でイエメン代表の守備陣形を難なく崩してチャンスを量産し、5-0の大勝を収めた。

第2戦ではスタメン変更があり、右サイドバックを対人守備の強いレザイアンから組み立て・ドリブルの上手いガフォリへ、また初戦で右ウイングを務めたトラビを外してグッドゥスを左に配置し、タレミを右ウイングに置いている。ベトナム代表の守備を崩す為ウイングがインサイドハーフの位置まで下がる動きが散見された。ベトナム代表は守備的な4-3-3でボールの配給元となるイラン代表のインサイドハーフへの強いプレッシングとワントップの快速で狡猾な動きの得意な10番グエン コン フォンをCBの間に配置、裏へのロングボールで何度もイランゴールを脅かした。ただベトナム代表はイラン代表のインサイドハーフを起点としたハーフスペース攻略や、インサイドハーフへとプレッシングにより空いたベトナムDFライン前スペースへの中盤飛ばし攻撃は殆ど潰しているが、サイドバックを起点としたサイドアタックには全くと言って良いほど対応しきれず、2失点を喫した。また何度も得点チャンスを作ってはいたものの結局は決め切れず、イラン代表は2-0でベトナム代表に勝利。

イラン代表の問題点としては、ベトナム代表のカウンターアタックに何度も崩されかけた中盤の守備や攻撃の起点を作る目標にされた左サイドバックのハジサフィの位置が挙げられるだろう。組み立て時も主なボールの供給元となるインサイドハーフやその周りのスペースを潰されると機能不全に陥りやすいように見える。ただ組み立ての上手い両サイドバックはスペースを消されても質的優位と周りの選手とのスムーズな連動でかなりの高確率でチャンスまで持っていけるため、今後はサイドバック周辺のスペースにおいて質的優位を持てない対戦相手にどう対応していくのか、という点が1つの見所と言えるのではないか。

全体的にチームとして意図を持った連動性や判断力は日本代表以上のスムーズさを持っており、かつ多種多様な戦型に対応できるチームだ。


・偉大なるキャプテン

マスード・ショジャイー(Masoud Shojaei)

背番号: 7

イラン代表のキャプテン。ポジションは主にインサイドハーフ。元々は放っておくと永遠に相手の態勢・動いた方向の逆を取り続けていそうな体捌きに裏打ちされた変態的な上手さのドリブル突破と正確なキックが持ち味のウイングで、レアル・マドリーを一人でキリキリ舞いさせる程の圧倒的な実力とファールで削られたら必ず報復する漢気を持っていた。通称ペルシアの魔法使い。リーガ・エスパニョーラで活躍した2人目のアジア人(1人目は元イラン代表のMFジャバド・ネクーナム)。2014年ブラジルW杯でも右サイドのウイングとしてスピードに乗った破壊的なドリブルカウンターアタックを遂行し、アルゼンチン代表をあと一歩のところまで追い詰めたが、ウルトラの星からやって来たメッシの左足に母星の違いを見せつけられチームは敗退。それからスピードがドンドン落ちてしまったのか、サイドでドリブル突破を仕掛ける回数は激減し、ポジションもウイングからインサイドハーフに移っている。とはいえウイング時代に逆取り魔人としてならした体捌きと中長距離のパスセンスは未だ衰えず、経験豊富なMFとして17-18シーズンのギリシャスーパーリーグ優勝に貢献した。しかもそのシーズン開始時は優勝したAEKアテネではなく同じギリシャリーグのパニオニオスに所属しており、シーズン途中で貴重な戦力として引き抜かれているのだからまさに天晴れである。

ただショジャイーさんは2018年のロシアW杯に至るまで代表チームではかなり苦しい境遇にあった。ショジャイーさんは所属していたパニオニオスでイスラエルのクラブであるマッカビ・テルアビブと対戦する為イスラエルに入国したのだが、イスラム教のシーア派を国教とするイランはイスラエルを国として認めていない。そういった背景からショジャイーさんはイスラエルに入国した事実によって激おこなイランサッカー連盟から、同じくパニオニオスで同僚であったハジサフィ共々代表を更迭される憂き目に遭う。そうして2017年はほぼイラン代表の試合には呼ばれなかったが、代表に招集しない理由を一貫して「政治的な理由ではなく純粋にスポーツ的な理由」からであると主張し続けたカルロス・ケイロス名将の尽力によってか、自身のフェイスブックでイランという国を心から愛している旨の投稿を続けたおかげか最終的にイラン代表復帰を果たしている(しかし何故かハジサフィは結構早い段階で代表復帰を果たしており、代表更迭→復帰の流れにおいてサッカーイラン代表関係者達の間で実際にどういう事が起きていたのかは今も不明なまま)。

そんな苦境の中、AEKアテネのレギュラーメンバーとしてギリシャスーパーリーグ優勝に貢献したその身で臨んだ2018年ロシアW杯、ただショジャイーさん本人の出場は初戦となるモロッコ戦の1試合のみに留まっている。しかしその試合4-1-4-1の右インサイドハーフで出場したショジャイーさんはアヤックスで絶好調の10番タイプ・ジヤシュやめっちゃ市場価値の高いドリブラー・ハリトら攻撃能力の高い選手を多く要するモロッコ代表の猛攻を、かつての姿からは似つかわしくないほどハードワークの守備、それでいて天才ドリブラーとしての在りし日を思わせるボールタッチによるキープ、華麗なパスミスによるピンチ演出といった派手さは(※一部)ないが縁の下の力持ちとして何物にも代え難い大きな価値ある1-0の勝利に貢献した。

若手の台頭によって今回のアジアカップでの出番はさほど多くはないと思われるが、イラン代表選手の中で最も豊富な経験を持つ選手の1人であり絶対的なキャプテンとしてチームを盛り上げ支えてくれるだろう。アジアカップを最後にケイロス名将と一緒に代表引退が噂されており、最後の大きな国際舞台になるかもしれないので筆者は一ファンとして切実に応援したい。

かつての雄姿

最近のプレー


イラン代表紹介シリーズは今回で終わりだよ!日本代表との試合が楽しみだね!!


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