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粉飾決算 塀のあっち側とこっち側

粉飾決算をすると、民事責任のみならず刑事責任を問われるリスクがある。
上場会社なら有価証券報告書の虚偽記載が典型的だけど、中小企業でも粉飾決算で金融機関から融資を受ければ詐欺罪に当たる可能性がある。
…と書くと、「いやいや、中小企業は皆やってるよ」という声が聞こえてくる。そうでなければ、あんなに金融機関が苦労する必要はないハズなのだ。

ではどうして中小企業はかくも平然と「粉飾決算」を行うのか?
それを理解するには、粉飾決算か否かの線引きがどこにあるのかを解明する必要があるように思われる。
ここからは完全に私見だが、ポイントは二つ…と最初は思った。
すなわち、
 ① 税法基準といえるかどうか
 ② 事実関係の問題か、評価の問題か
の二つの観点だ。
でも書き始めると、この二つは表裏一体といってもいい関係にあると思い当った。その話は後述するとして…

まず①について、別の記事でも書いたように、引当金は会計上は計上すべき場合であっても、税法上(貸倒引当金等、ごく一部を除いて)損金として認められないため、会計士の財務諸表監査を受ける必要のない会社では、そのような引当金(例えば賞与引当金や退職給付引当金)を計上する実務慣行がほとんどない。また、減価償却費も税法上は上限が決まっているだけで下限についての制限はないので、儲かっていない時に減価償却をちゃんとやる動機があまりない。
で、このように税法に沿って会計処理された決算が粉飾決算ということになると、そもそも税法が詐欺の片棒を担いでいるような話になってしまう…なので、おかしな話ではあるのだが、「(犯罪としての)粉飾決算とまでは言えない」ってことになっているように思われる。
なんといっても、法人税法では「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(法人税法第22条第4項)に従って課税所得を計算する旨定めているのだから。

次に②について。
例えば在庫が1億円計上されていたとする。事実として何も在庫がなければ、これは架空在庫であり、粉飾決算を認定する要素となるだろう。
でも、実際に仕入れて倉庫に存在しているけれども、何年も売れずに残っている場合はどうだろう?
会計上は評価減しなければならない状態だが、「今後も売れる見込みがない」かどうかは評価の問題だ。誰も「絶対に売れることがない」と証明はできない。
あるいは売掛金(売上債権)についても、架空売り上げに基づいて計上された売掛金は事実関係として存在しないから、計上していれば粉飾と言えるが、単に相手先の資金繰りが悪化して払ってくれないだけの場合、今後も回収できないかどうかは評価の問題となってしまう。
もう一つ、明らかに粉飾と認定される事例をあげると、借入金を簿外処理していた場合。これは評価の入る余地がない、事実関係を偽っているものだから、完全にアウト。

なんとなく塀の向こう側とこっち側の境目が見えてきただろうか?

①と②が表裏一体と書いたのは、例えば在庫について、税務上は物理的に廃棄しないと損金として認めてくれない。売掛金の貸倒処理にも事実関係に基づく厳格なルールがある。引当金も含めて、評価によって費用計上しても、税務上は認めてくれないことが大半なのだ。
だから、「評価に基づく費用は計上しなくてもセーフ。事実と異なる処理はアウト」というのは、「税法で損金と認めてくれないものは費用計上しなくてもセーフ。税法が想定しない資産計上や負債の未計上はアウト」というのとかなり近いことを言っているわけだ。



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