プロセス

ネット炎上のメカニズム:ネット炎上の拡大プロセス

日々、様々な話題がネット上を駆け巡っています。これまでの事案から、典型的なネット炎上の進行状態を仮定してみました。
下の図をご覧ください。

プロセス


ネット炎上の生成プロセス

図のように、ネット炎上の進行状態をLEVEL 1~4に分けて現象を整理してみたいと思います。

LEVEL1 :ネット炎上の成立

プロセスLEVEL1

 
ネット炎上の構成要件は、燃焼の三要件に対比してネット炎上の拡散要件(火種、拡散メディア、話題)の3つです。
これらが成立して初めてネット炎上が発生することになります。内容については、以下の記事を参考ください。

LEVEL1では、多くはネット上で話題が発生しただけで、あまり多くの人には知られていない状態です。私も顧客企業のリスク対応の支援をさせていただいていますが、この状態で相談を受けることがほとんどです。
例えば、社員が友人と服務上の些細な秘密を投稿してしまったなどです。

この時点では、多くの場合、当事者だけで問題の解決が図れます。しかし、組織としてはその事実を把握し、再発を防止する手立ての検討や、LEVEL2に移行してしまうリスクを管理しておくことが大切です。

話題によっては、たった一人のインフルエンサーが反応するだけで簡単にLEVEL2に遷移します。なるべく早期の対応が必要です。


LEVEL2 :ネット社会で認知

プロセスLEVEL2


以前、タレントの有吉弘行さんが「ブレイクするということは、『バカ』に見つかるってこと」との名言を述べられたことがあります。
バカという言葉は適当ではありませんが、「ネット炎上の三要素」が事案と関係のない大勢の人々の目に触れた状態がLEVEL2です。

LEVEL1から遷移するきっかけは、まとめサイトやインフルエンサーによる拡散などがあります。彼らが話題を拡散するモチベーションは、より多くの人に反応してもらうことです。そのためには、事案と関係ない大勢の人々にとって、関心をもってもらえる話題であることが必要です。

また、我が国においては、Yahoo!ニュースに取り上げられることで一気に認知度が高まるような実感があります。もはや世間に知れ渡った問題として組織的な対処が必要な段階です。

 ずいぶん昔ですが、製薬会社の女性社員が社内の飲み会で、睡眠薬「ハルシオン」を不正使用しているとの暴露発言をTwitterに投稿しました。


女性社員のフォロワーは30名程度であり、友人だけが見ているつもりで投稿されたように思われます。
投稿後すぐに友人が削除するように注意しており、本人も後で消す旨の返信をしていますが、すぐには削除しませんでした。もっと早い時点で削除していれば、LEVEL1でとどまったかもしれません。

結果的には、「製薬会社の飲み会で薬を使用する」ことは、事案と関係ない大勢の人々にとっては、とても違和感があり面白い話題として、一気に関心が高まりました。

すぐに、まとめサイトが乱立し、このツイートは大勢の目に晒されることになりました。
そして、ついには会社が謝罪リリースを発表する事態にまで発展しました。こうして、この事案はLEVEL2にもとどまらず、LEVEL3に移行してしまいました。


LEVEL3 :リアル社会で認知

プロセスLEVEL3

最近の例であれば、昨年の日本大学のアメリカンフットボール部の危険タックル問題があります。

多くの人々が大学トップの考えを聞きたがっていましたが、最後まで沈黙を貫かれました。今春の大学志願者数が減少に転じたとの発表があった際には、この事件が少なからず影響していると話題になりました。


しかし、1年以上が経過した今日、あまり話題にも上らなくなりました。

このように、直接的な影響もあったようですが、このまま過ごして事件が風化すれば、志願者数もそのうち回復するのかもしれません。

そういう意味では、沈黙は適切な対応であったとの評価される方もおられるでしょう。
しかし、今このタイミングでは表出せずとも、多くの人にあまり好ましくない印象を植え付けてしまった対応であったことは、間違いないでしょう。先々何らかの現象となって表れてくるかもしれません。

いずれにせよ、このタイミングでの「火種」の判断と行動が、結果に大きく影響するといえると思います。


LEVEL4 :イメージの定着

プロセスLEVEL4

マスメディアにも大きく取り上げられ、さまざまなメディアで繰り返し報道が続けらる状態です。
ネット炎上という言葉では収まらない、社会問題として世間が取り扱うまでに育った状況です。

象徴的な例としては、2014年ごろに表面化した牛丼チェーン店すき家での過酷なアルバイトの勤務実態が大きな話題があります。
象徴的な話題として、たった一人のアルバイトが深夜の店舗運営(接客、調理、会計など)を任される過酷なシフト形態が注目を集めました。

この事案をきっかけに、本来複数人で履行するタスクを、たった一人で行うことを「ワンオペ」と称するようになりました。一人で子育てすることを「ワンオペ育児」というようにもなりましたね。

すき家では、そのような評判が広まり、人手不足が深刻となり、深夜に運営できなくなる店舗が増えてゆきました。当然、企業の業績にも深刻な影響を与えることとなりました。

この話題をきっかけに、さまざまな過酷なアルバイト勤務の実態が話題になりました。例えば、学生アルバイトに定期試験よりシフトを優先することや、違法に長時間の勤務を強要したり、知らない間に仕事用具を賃金から勝手に天引きされたりといった理不尽な事例がネット上やマスメディアを賑わせました。

 このタイミングでは、危機管理対応事案として発生した意見に対して個別に対策するというより、将来を見据えて定着しつつあるネガティブな企業イメージを抜本的に変えることに着手することが、建設的な行動だと思います。

実際、すき家を運営するゼンショーは、この状況を受けて「ワンオペ」の廃止を宣言しました。アルバイトの不満や要望を吸い上げるシステムも構築しています。
業績も影響の大きかった2015年3月期に赤字を計上した後は、堅調に推移しています。すべての問題が解決できているわけではないと思いますが、以下のような、V字回復を称賛する記事を目にすることも少なくありません。

ここ数年、長距離バスの運転手や宅配ドライバーの厳しい労働環境、パワハラやセクハラなどに代表されるハラスメント関連など、発端は特定の企業だった話題が、業界全体・社会全体の課題として取り上げられることが増えてきました。当事者企業でなくても、企業運営に改めるべき重大な課題として受け止め、対処することが必要なのだと考えます。


【書いた人】
福田 浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長 多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。

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