出身国:フランス
生年月日:？
使用機材:RC-505,RC-505MkⅡ
戦績: 🥇French Beatbox Championship 2019
Grand Beatbox Battle 2021 top4

ループステーションのみならず、Beatboxにおける楽曲にはどこかしら歪さが残るものである、と筆者は愚考する
そもそもの音が人間の口から出ているのだ
Beatboxならば和音は出来て2音
ループステーションを用いれば和音という問題は解決されるが、それでも限界がある
その限界の中でいかに表現を突き詰めるか
楽器で出せない音で、人間の声で、いかに自己の音楽を作り上げるかが魅力だと考えている

その点を突き詰め、ビートボックスという枠を飛び越えるルーパーの1人がChris TheOdian、旧名 GOATENBERGだ
彼は決してバトル向きのルーパーではないように思う
先だって述べたBreZとは、ある意味で真逆の魅力をもつルーパーである
単純な歌唱力、声の魅力で言えば東西見回しても彼を上回るルーパーは数える程だ
動画として出された音源とライブ音源にさしたる差異は無く、彼は自身の楽曲をステージ上で全うする

2020年に行われたフランス大会での予選パフォーマンス

途方もない熱量に圧倒されるわけではない
思わず跳ね踊り喰らうタイプのパフォーマンスではない
しかし、いつまでも聴き続けたい心地良さや、たゆたう音に呑まれる感覚がそこにはある
低温で煮つめたような、じわじわと沁み渡る歌声の魅力を持ったルーパーだ

元来彼は国際大会への出場が頻繁だったわけではない
筆者が掘る限り彼のループステーションでのパフォーマンスは
2017年のBreZとのタッグ、SCAMTALKまで遡ることができる

盟友BreZとのタッグ SCAM TALK

当初はどちらかと言うとChrisのカラーの強いタッグだったように思う
音楽ワークショップで出会った2人は、タッグループという形で非常に完成度の高いカバーを連発した
2019年にはブラインドオーディション、The VoiceにもSCAM TALKとして出場している

The voiceでのSCAM TALKのパフォーマンス

また、彼は同じくBreZを含むS.Q.U.I.Dというクルーにも所属している
奇しくも組む相手にスター性があるプレイヤーが多いためか、彼個人にフォーカスされることはそう多くないように感じる
YouTubeチャンネルの登録者も1000人強と控えめ
2019年のフランスチャンピオンであるにもかかわらず、だ

2020年、彼は満を持してGBBの扉を叩く
初めて出したGBBへのwildcardだったが結果は見事通過
その後Covid-19の世界的流行を鑑みて大会は2021年に延期され、無事開催された
予選での彼は、やはり他のルーパーと比べても毛色が異なって見える
甘い声で観客に向けて歌いかけ、訴えかけた
そもそもLoopstationを用いてリタルダンド？
うーん珍しい

バトルにおいてもそのスタイルが変わることはなく、2021年のwildcardにて1位通過を果たしたDICEを下し、彼は1/4ファイナルへと進む
BIZKITとのバトルで惜しくも敗退するが、特筆すべきはその後のスモールファイナル、Rythmind戦である
おそらく誰もが度肝を抜かれたあのバトルだ

1R、2R共にChris TheOdianは彼らしいパフォーマンスを行った
攻撃力こそ高いと言い難いが、彼の音楽を十分に味わえるステージだった
最後のラウンド、Rythmindがマイクを手に取った時にそれは起こる

不意に、AC/DCのBack in blackが流れた
誰もが知る名曲である
Rythmindの目配せと共に、おもむろに前に出て歌い出すChris TheOdianを見た時の筆者の感情は、筆舌に尽くし難い
Chrisの音域ではない
しかし彼は歌い上げ、エアギターまで披露した
会場は熱狂し、一時勝敗を忘れる
Multiverse Beatbox BattleでALEXINHOがHaters love meをプレイし、バトル相手のBreZがマイクをとったあの瞬間のように
これを"粋"と言わずして何と言おう

2021年のGrand Beatbox Battleは大変に不祥事が多く
その後に禍根を残すものであったと言って良い
当時大会を楽しんだ人の心に暗い影を落とす部分が少なくなかった
しかしこの瞬間、バトルを忘れ舞台を楽しむ2人の姿がある限り、GBBの輝きは損なわれないと筆者は思うのだ

swissbeatboxによる公式動画がまだ出ていないため動画は後日追加