仲介事業者、プロが感じ取る不動産市況の悪化。


コロナ禍で急速にしぼんだ経済活動。遅効性の強い不動産業界には、今後本格的に数字としても表れてくると見られるが、国土交通省が8月21日に発表した地価動向調査「地下LOOKリポート」によれば、2020年第2四半期(4月1日~7月1日)に下落に転じた地点が増加した。

全国主要都市100地区を対象に調査。下落地点は、前回調査の4地区から38地区へと大幅に増えた。一方、上昇地点は前回の73地区から1地区と激減。下落した地区が上昇地区を上回るのは2012年第2四半期以来のこととなる。

昨年10月の消費税率の8%から10%に引き上げて個人消費が大きく落ち込んでいたところに新型コロナウイルス感染拡大の影響で商業店舗やホテルの経済活動が停滞したことが響き、過去7年間で緩やかに上昇してきた地価に急ブレーキがかかった格好だ。

◎業況DIは賃貸・売買とも過去最低

そうした不動産の市場の変調を肌で感じているのが仲介現場に身を置く不動産のプロたちである。

アットホームの地場の不動産仲介事業者の景況感調査(4~6月期)は、賃貸・売買といずれも同社が調査を開始した2014年1~3月期以来の最低値を記録している。

業況DIを見ると、賃貸仲介は首都圏が前回1~3月の43.6から25.9に、近畿が同40.7から23.4に大幅な落ち込み幅となった。売買仲介は、首都圏が前回の39.8から26.6に、近畿圏が同37.9から22.8に落ち込んでいる。

コロナによる外出自粛要請を受けて、地方から東京圏に転勤する法人客が激減したり、学生の入居の延期、法人契約の入居延期などが影響した。

部屋の更新時期を機に引っ越しを予定して人が引っ越さずに賃貸契約を更新するなどもあった。学生や会社員、法人などで例年ならばこの時期に需要が増えるはずが想定以上に停滞したことが浮き彫りとなっている。

実際、総務省が6月末に発表した人口移動報告でもそれが裏付けられている。今年5月の住民基本台帳に基づく外国人を含む全国の移動と都道府県の移動の合計は30万861人と前年の同じ月と比べて11万7628人に減り、28.1%と大幅な減少幅となった。1~4月までの移動者数はいずれも前年とほぼ変わらないが、5月に急減している。ステイホームで引っ越しによる人口移動が抑制されたことが要因である。

◎住まい選びの基準に変化の兆し?

消費者の動向としては、賃貸仲介事業者からは「問い合わせ自体が減少しており、コロナ影響で内覧がキャンセルになった」などの声が上がる。売買仲介事業者からも、「申し込み後や契約後のキャンセルが何件かあったが、こんなことは過去18年間で初めて」(東京都足立区)など。不動産取引の意欲がしぼんでいる。

都内の仲介事業者コロナ禍で住まい探しの条件や取引の仕方にも変化が出ている。在宅勤務(テレワーク)を導入する企業が増えたことで、賃貸では「通勤時間を主要条件にしない人が数人いた」(東京都小金井市)や、売買で「東京からの移住の相談が増えた」(京都市)などのコメントを事業者が寄せている。

住まいの間取りとしても、「静かな場所でゆったりとした間取り、子どもと距離が置ける部屋がある物件」や「仕事部屋を確保するために部屋数をプラス1で間取りを考える人や、敷地内でも遊べる環境を求めて戸建てのニーズが増加した」(賃貸:神奈川県鎌倉市)、「戸建て需要が多かった。逆にマンションは一切なかった」(売買:京都市)や「築浅戸建てや建売希望が多い」(売買:大阪市)など。売買仲介のDIを見ると、首都圏が前回の39.8から26.6に、近畿圏が同37.9から22.8に落ち込んでいる。

今後の動向については、緊急事態宣言下の需要の蒸発に伴う取引の喪失からの回復を想定しており、賃貸部門では6月の見通しについて、首都圏で33.1、近畿圏で34.5とともにアップする見込みとしている。

売買でもDIは首都圏が32.6、近畿が29.9に上昇する見通しを示している。とはいえ、コロナ禍で急減した反動増の側面が強く楽観論は聞こえてこない。





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