みなもとはなえ

私のいろいろな詰め合わせの場所です。 メール:blocklock8214★gmail.com(★→@)

苦しみなんかどうでもいい

背中が痛い。夫が帰ってこない。疲れた。もうみんなうるさい。どうしたって報われない世界で、どうしてこんなに何かを求めたいと思っているのか、それすらも本当は嘘なのか自己暗示なのか、毎日迷子になって苦しんでいて、でも、そういうこともすぐ忘れる。だって背中が痛いし夫は帰ってこないし疲れているしみんなうるさいし。

世の中陰鬱でみんな晴れ晴れとしないで、晴れ晴れとしないということをまたみんなが言い募って、私

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ランクヘッドとわたし

中学生のころからずっと好きだったランクヘッドというバンドがいる。
初めて聞いたのは中学二年生のとき、スペースシャワーだかでたまたま「体温」が流れていた。ぞわっと鳥肌が立って、あ、これだ、と思った。

いつの時代もその流れに乗っていればそう思うのかもしれないけれど、私が中学二年のときは、いろんな邦楽ロックのバンドが出始めていた。BUMP OF CHIKENとかロードオブメジャーとかBaseBallB

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あせも

小さなころからあせもがよくできる子どもだった。背中がいつもかゆくて、汗をかくたびにかゆくて、お風呂に入るとよくしみた。母には、お風呂にしっかりはいればあせもはよくなるんだ、と言われて、もともとお風呂が嫌いだったから、お風呂につかるという行為がもっと憎々しく思えた。お風呂につかるとまた汗をかいて、また背中がかゆい。いい加減にしろ、と思いながら、扇風機にあたっていた。寝汗もすごいから、といって、私が寝

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カレンダーをめくる

二度寝して昼頃に起きてくると外がひどく騒がしくて、道路を挟んで向かい側にある小学校から子供の歓声や大人の応援の声が、大きなざわめきとなって聞こえてくるのだった。次は、徒競走です、という声と聴き馴染みのある「ギャロップ」が流れて、ピストルの音が青い空に吸い込まれていった。夫はテレビゲームをしながら流れ聞こえてくる曲に合わせて鼻歌を歌う。びっくりするほど夏の気色が動いている。洗濯物を干しながら鼻のあた

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時代のはざまで(小説)

濃紺の遮光カーテンは分厚いのに、外の光を受けて透き通っている。淡く、部屋中が青く染まっていて、まるで海の中のようだ。ぴちゅぴちゅと聞こえる鳥の声は幻想的で、私は自分が夢の中に揺蕩っているような気もしていたし、意識は明晰で何のわだかまりもなくまぶたもひらくので、あっと驚くほど美しい目覚めを迎えているのにも気づいていた。でも、すぐに起き上がるのはなぜか悔しくて、もう一度目をつむる。が、二度寝の余地はな

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去りゆく日々に(小説)

女の柔らかく白いふくふくとした手が自分の頬を打ち付ける音を聞きながら酒井田がまず気にしたのは、女の涙でもなく女にたたかれる己の世間体でもなく、女がこの飲食代を払うだろうか、ということだった。パチンとし響いた音も、まるで三文芝居の一場面のようだったが酒井田は何も感じない。ただ、己の懐は寒いので、どうにもここの飲食代ばかりが気になるのであった。酒井田の逡巡を読み取ってか、女はますます涙をその瞳に盛り上

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