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ノート

去りゆく日々に(小説)

女の柔らかく白いふくふくとした手が自分の頬を打ち付ける音を聞きながら酒井田がまず気にしたのは、女の涙でもなく女にたたかれる己の世間体でもなく、女がこの飲食代を払うだろうか、ということだった。パチンとし響いた音も、まるで三文芝居の一場面のようだったが酒井田は何も感じない。ただ、己の懐は寒いので、どうにもここの飲食代ばかりが気になるのであった。酒井田の逡巡を読み取ってか、女はますます涙をその瞳に盛り上

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