僅かな祈り

高校の同級生が亡くなったのだそうだ。こんな文章を書いておきながら、私にとっても、この文章だけの情報しかない。理解も、この文章だけを理解している。そんな感じだ。そんな感じの関係の、同級生だった。
就業時間中にメッセージアプリに通知がともり、見ると社会人になってから顔を合わせてたまに話をする高校の同級生からで、文面は、また、別の同級生から、そのまた別の同級生が亡くなった旨のメッセージが来たので転送する、というものだった。いくつか並ぶ、聞き馴染みのある名前と、葬儀が行われるらしい斎場の名前がちぐはぐだった。
「そうなんだ。びっくりした。なんで?」
「わからん。でも、病気とかなんとかって言ってたよね」
「中学のときに手術したようなことは言ってた気がする」
「ああ、そんな話あったね」
短いメッセージのやりとりにきりがついたところで、上司が見計らったように資料の作成をお願いしてきたので、私はスマホのバックライトをオフにした。それから、別に同級生からも連絡は来ないし、私も、亡くなった同級生の葬儀には行かない。彼が亡くなった、という情報だけが、心に残る。あどけない顔だけがふっと思い出されて、すぐに資料の数字の波にのまれていった。

夫と大喧嘩をした。いや、している。
ずっと、したままになるのかもしれない。どうなるのかもよくわからない。でも、夫と喧嘩をするといつも、どうしてこんなにぶつかってまで大泣きしてまで一緒にいなければいけないのだろう、と思う。別に、こんなにしんどいんだったら別れたらいい。法律上で結ばれているだけで、別れてもなんの不都合もないのに、と。泣いて鼻水がでてきて、おろしたてのセーターで拭くのはいやだったから、ユニクロのタイトスカートのすそをぐいっと無理に伸ばして、ねばった鼻水を拭いた。
泣くのはいつも私だけだ。夫は何も言わないで、ぐっと押し黙ったまま、スマホをいじる。いじって、不貞寝をして、また、口をきくことはない。一緒にいるのに、おそらく、お互いにずっと孤独でありつづけている。客観的に見ればひどくばかげている状況なのだが、泣いている私はいたって真剣で、スマホをいじる夫も、いたって真剣なのだと思う。
夫と喧嘩をして泣くたびに、毎回のようにもう泣いてたまるもんか、と思う。思いながら、また、次に喧嘩をしたらどうしよう、と思うとまた泣けてくる。ひどい涙腺だ。ひどい涙腺だが、疎遠の同級生の訃報にはびくともしなかった。別に罪悪感があるわけではない。そういう、関係ではなかっただけだから。でも、泣き虫ならそういうことで泣いてもよかった気もした。ひどい涙腺だ。

今も夫は私に背中を向けてスマホをいじりつづけている。
私はやっと引いた涙の名残で熱い瞼をなでながら、亡くなった同級生の葬儀になんとなく思いを馳せる。誰か、涙する同級生がいたのなら、少し弔いになる気がした。あつかましいながら、そんなことを祈って、冥福を、祈った。

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みなもとはなえ

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Letter to ME

自分へ送る日々の備忘録(その2)
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