「あなたのがんは治らない」といわれました

がん治療に関する「目標」「目的」のすれ違い

がん患者さんは手術をするなら「がんを取りきってもらいたい」と願い、抗がん剤治療をするのであれば「これでがんを根治したい」と願う方が多いと思います。
それは人として当然の願いです。

卵巣がんは婦人科がんのなかで最も抗がん剤の感受性が良いがんと言われています。
(参考)がん研究会有明病院 がんに関する情報 卵巣がんの治療
初回化学療法は「がんを根治する」ことを目標に複数の抗がん剤を使い治療を行います。
しかし再発を繰り返した場合などは「がんが大きくなるのを抑えながら患者さんが生活の質を保ちより良い日常生活を送ること」を目標とする治療になります。

そういった「治療の目的」や「治療の目標」を共有することの大切さは以前もこのnoteで書きました

しかし患者会をしていて感じるのは、患者会に相談をされる患者さんの多くは主治医と「目的」や「目標」がすれ違って辛い思いをされているのだということです。

「あなたのがんは治らない」と言われました

(モデルはいますが個人が特定されないように配慮し一般化しています)
Aさんは5年前に手術を行い卵巣がんと診断されました。
そして標準治療(その段階での最善の治療)である抗がん剤治療を行いました。
その後、職場に復帰。
2年後に再発をし抗がん剤治療を行いましたが、1年弱で再再発。
再再発治療は効果が見られず現在は単剤の抗がん剤の治療をしています。

治療に関しては「主治医が提案したものを受けているのだからきっといつかがんが治るはず」と信じ、抗がん剤の種類が変わるたびに「この抗がん剤が効いて卵巣がんが治ればいいな」と前向きに考えてきました。
Aさんのいう「治る」はがんが体のなかから消滅することでした。

しかし今回も抗がん剤が効かずにAさんのがんは大きくなってしまいました。
主治医はAさんに治療薬の変更を告げました。
Aさんは治療が効果をあらわさないことにショックを受けました。
主治医に「次の抗がん剤は効きますか?がんは治りますか?」と尋ねました。
すると主治医は「Aさんの卵巣がんはもう治りませんよ」と告げたといいます。
Aさんはショックを受けられ患者会に連絡をしてこられました。

がんを根治したいという患者の思い、でも・・・

がんが進行していたとしても、再発を繰り返したとしてもAさんのように「治りたい」と思う気持ちはとてもよく理解できます。
私自身もいまある疾患の治療を行っています。
その疾患は一生付き合うことになるものと理解しています。
それでも「根治したい」「薬を飲まない生活になればいいのに」と考えてしまいますから。

実は「あなたのがんは治らない」と患者さんに言ってしまう婦人科の医師は意外と少なくありません。
これまでにいろんな患者さんからこの言葉を告げられたという相談を受けています。

例えば抗がん剤が(卵巣がんのなかで比較的抗がん剤の感受性がよいとされる漿液性がんに比べて)効きづらい組織型のがんに罹患した患者さんに主治医がこういったそうです。
「初回治療が効いても、あなたの卵巣がんはいずれ再発します」
「あなたの卵巣がんの組織型は顔つきが悪く、かつ進行しているわけですから治ることはありません」
(この患者さんが100%再発するという科学的根拠はありません)

また、卵巣がんが再発した患者さんが主治医に
「卵巣がんが再発した場合はもう絶対に治りません
「これからは卵巣がんと仲良く付き合っていく治療をしましょう」
と言われたという話も。
(卵巣がんを根治できなくとも、治療により体力を落とさないよう生活の質を保ちながら治療をするという目的に変えることは理解します。しかし絶対に治らないってどうして言えるんだろうと思いますし、”仲良く”ってセンスがない言葉ですね)

そういったときにいくら私が
「同じ組織型ですが再発していない患者さんもおられますよ」
「再発したから絶対治らないなんてありえないですよ、再発治療後に再再発を長期間しておられない患者さんもおられますよ」

と伝えても患者さんにはなかなか響きません。
「自分に対して”治らない”と医師がいった言葉が呪いのように耳にこびりついてどうしても不安が消えない」と患者さんはいいます。

がんを根治したいと願ってこれまで治療をしてきた患者さんにとって、たとえその願いを叶えることが難しい状況になったとしても
根治は難しい、だけど今後治療でがんが大きくなることを抑えながら日常生活をよりよく過ごすということが期待できるので治療しましょう
ということをすぐに理解し受け容れることはなかなか難しいです。
これまでの治療が効いていないという事実を受け止め、悲しみ、これからどうなるのか、これからどうしようかと考え、徐々に現実を受け止め受け容れていくのではないでしょうか。

治らないなら治療する意味はどこに

Aさんは私に「治らないのに治療をするのはどうして」と尋ねました。
「いまAさんの体のなかにある卵巣がんを根治はすることは難しいのかもしれません。」
「しかし卵巣がんが大きくなったり悪さすることを抑えながら、仕事を続けたり日常生活の質を保ちながら生きられることを目標と主治医はしているのではないかと思います。」
として
「ただ私からは主治医のお考えが必ずしもそうだとは言えませんので主治医に確認されてはどうでしょう」と答えました。

するとAさんは「治らないなら治療したくない」と私に告げました。
抗がん剤治療は決して楽ではありません。
だから「治療をしないという意思決定をすること」を私は否定できません。
ただその場合は
「主治医が提案する治療を受けた場合と比較しどう違うか」
「短期的にどういうことが起きるか」
「長期的にどういうことが起きるか」
などを検討し
「予想されることが起きた場合にどういう対応をするか」
も考えたうえで家族など周囲の人の気持ちも聞いたうえで意思決定をしてほしいとAさんに告げました。

まとめ

「がんは治らない」と主治医がいうときには患者さんの卵巣がんの進行期や組織型で医師が治らないと決めつけ、必ずしもそうならない(根治する可能性だってある)のに言っている・・・つまり根拠を示せないのに言っている場合がある。

卵巣がん治療の過程で根治することは難しくいと判断される場合はある。
ただし、がんが大きくなったり転移をして痛みや辛さを起こすことなどを抑えながら日常生活の質を保って生きていくことを目標に治療を行う場合もあり、「治らない」けど「治療する意義はある」として主治医が説明している場合がある。

患者さんにとって「がんを根治できない」ということを受け止め「がん治療をしながら生活の質を保っていく」ことに目標に切り替えることをは難しい。
だからこそ治療の過程において良い結果が出た場合とそうではない場合を徐々に話し合い共有していくことも大切ではないか。
治療の際には短期的に予想されることや長期的に予想されることなどを話し合い色々な可能性を考えながら、たとえ、”治療の目標が変わったとしてもその時点において最善の治療をおこなっていくんだ”ということを”主治医と患者が合意し信頼関係を構築してほしい”と思います。

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片木 美穂

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