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第5回 関根史織ファンクラブ

sticoの音源は、「象と話す女」「Speak Easy」の2枚が発売されている。

現在、各地CDショップやAMAZON(大手ネットショップ)、ストリーミング配信サービスでは入手できず、特定の通信販売(DGP)かライヴ会場での販売のみという流通みたい。

発売からは既にしばらく経ってはいるけれど、「ファンクラブ」としては、ベタにレビューやっておきたいところだったので、このタイミングで決行します。

(音源、在庫がある限りはこちらから買えそうです。)

1st EP「象と話す女」

象と話す女

明らかにキング・クリムゾンの『Elephant Talk』のタイトルオマージュ。

であるが、内容は『Elephant Talk』と直接的な接近はしておらず、むしろ関根嬢がコメントしている「チャップマンスティックを演奏しまくるバンド」というsticoの方針を体現した、象徴的なスティックリフから始まる。

チャップマンスティックは大きくギター弦とベース弦とで、(ステレオ想定の左右で)別々のエフェクトがかけられる特徴があり、それが冒頭からわかるようなイントロ。また、弦を「はじく」のではなく、「押さえる」だけで音を出せるからか、ギターリフとピアノリフが折衷したような印象もあるのが新鮮。このあたりは、スティックを世に広めたトニー・レヴィンが、むしろより音域の拡大したベース的(あるいはパーカッション的)な使い方だったことに比べると、関根嬢のオリジナリティがよく出ている部分だなと思う。

Sticoの結成当初のライヴでは、「Talkしてください」(「ロックしてください」?)といった、おそらく仮タイトルの曲でゲストを迎えた演奏を行っており(当時はオフィシャルに?動画がアップされていたようだが今は見当たらない)、筆者がライヴで実際に聞いた時には、ラッパーのダースレイダーを迎えて、直接的に『Elephant Talk』寄りのヴォーカルライン(演説的なニュアンスがあるやつ)にSticoのアンサンブルを充ててもいた。

そういった音源やライヴでのプロットが数年後には違う形で、また違う音源やライヴ演奏に直接的/間接的に反映されていると思われるので、その観点からもこの1stEPの1曲目は象徴的なものだと思っている。


変な棒(instrumental)

インスト曲。ジャムセッション的な趣があり、1曲目が関根嬢とチャップマンスティックを象徴する曲であるとして、2曲目のこちらは、よりドラムスとベースとの3ピースアンサンブル全体、そして個々が扱うフレーズの輪郭がわかる形でバンド紹介をするイメージだろうか。

ベースのtatsuさんがテクニカルにゴリゴリやっていて、ドラムスのオータさんも細かくも典型的なリズムから、徐々に幅広く大きなニュアンスまで発展させていくようなイメージ。

1曲目と同じく、主にギター/ピアノ的なリフやソロをスティックで奏でているが、途中からベース的な裏メロがベースとは違う音域で効果的に加わり、低音の二重構造が出来上がるとこは特徴的。ヴォーカルがない分、よりわかりやすくエフェクトの違いや楽器それぞれの音、音域、音量の変化が刻々と感じられる。一旦ブレイクを入れて、冒頭へイメージ回帰する曲の構成は、今時珍しく感じてしまう気もしたり。


ひとり暮らし

個人的にはヴォーカルや全体の空間のイメージから「Toddle賛歌」であるように感じる。パッと聞きで明るくはない、むしろ仄暗さ。強くはないけど確実にある光のニュアンスや、地味であることの肯定感。地に足をつけるということ。

また、BaseBallBearファンにとっては、関根嬢ヴォーカルの『Love Sick』『Typical Girl』のような、小出祐介さんの歌詞、メロディラインに由来する「印象の薄い」「暗いOL」などに通じるイメージも引きずってありつつ、この曲は関根嬢作詞・作曲であり、表面的な地味・暗さとは別に、根幹には主体性や自立的なスピリットがあって、とても良い歌・曲だなと思う。

チャップマンスティックの正しい使い方(instrumental)

Sticoのバンドアンサンブルとしてのテクニック、語彙力が全開といったイメージのインスト曲。ニューウェーブ感がかなりツボで、スティック主軸のバンドでこういうアイデアの曲を発信するのは、ほんとクリエイティブで面白いと思う。

かつてライヴ(配信)で初めて聞いた時は、あまりにかっこよくてその後のアーカイブス期間に何度も繰り返し聞いた。特別に西田修大(Gt)もゲストとして加わり、さらにヨシダダイキチ(エレキシタール)+松下敦(Dr.)の2ピースも途中から加わるという豪華レア編成だったわけだけれど、今後のライヴイベントに対してもそういったセッションなどが期待できるし、実際にいかようにも発展性(編成やアレンジの可能性)がある、とてもポテンシャルが高い曲だと思う。

(音源とは違う編成とアレンジも色々加わったパフォーマンスだったので、今誰かが読んでも伝わることは少ないと思う。1st、2nd音源の曲は第3回で扱ったライヴ配信で初めて聞いたものがいくつかあった。)

(リリース当時の記事。関根嬢のコメントも掲載されてる。)


2nd EP「Speak Easy」

スピークイージー

優しく落ち着いた曲想、そしてかなりポップス(歌謡曲)的な内容で作ってあると思う。

ドラムスとスティック弾き語りの2人編成で録ったアルバムとは思えないくらいバンドアンサンブルになっていて、3人分の仕事をやってのける関根嬢が素晴らしいし、オータさんのドラムスの演出がほんと上手い。効果的だけどやり過ぎない感じ。

 病気じゃない

個人的には、歌詞は1stEP収録の「ひとり暮らし」と対になった内容だと思ってる。「誰かと」や「みんなと」でなく、敢えて「ひとり」に拘る姿勢は、『若者のゆくえ』『(What is the?) Love & Pop』『孤独のシンセサイザー』『光蘚』のような曲で表現される小出祐介さんのそれと重なるとも言えるかと。

1曲目の『Speak Easy』、4曲目『アルフォンソとダイアン』もかなり批評性のある歌詞だなと思うし、その批評性が歌詞の主人公(リスナーや関根嬢自身)にも向けられていると思う。その様が俯瞰的な、自分の感情(本音や実際の行動)とは離れた距離から見えてるのが特に似てる。

曲としてはダブのアプローチが効果的に採用されていて、夢遊病的でもある歌詞の内容とあいまって、より強い陶酔感。特にユニークな印象がある1曲になってる。

absented lover(instrumental)

関根嬢、ベーシストにしてはというか、ベーシストであるが故というか、スティックのギターパートでは結構アッパー、ハネ感のあるグルーヴ出していてノリノリなの良い!

tatsuさんのベースがないからこそ、1stEP以上にスティック1本でこれだけのことができるっていうのを堪能できる1曲。内容としてはニューウェーブ感を抜いた『チャップマンスティックの正しい使い方』みたいな。

特にスティックのギター的な上物としての側面、関根嬢がギター持ったらこんなプレイガンガンやるのかなwとか。ところどころカウントしてたり、曲名を声に出すとこも、レコーディングだけどライヴ感入ってていいよね。

アルフォンソとダイアン

イントロ=歌い出しで、歌もの的な印象を高めた作品。

1stEPの『象と話す女』と酷似したリフワークが採用されている。というか、今のところsticoの曲は全曲において、既に他で使ったある音形のバリエーションや発展をところどころ使っていて、似たフレーズの転用はたくさんあると思う。

であるからこそ、違うところは強調されるし、何度も印象づけられるsticoのフレーズは、ミニマル的な堆積や発展が面白い。2曲目のダブのアプローチとかはまさに分かりやすくそういった意欲だと思う。

関根嬢はプログレマニアだし、トニー・レヴィン好きだけど、直接的にプログレ的な展開の多さや長尺、シンフォニックなアプローチ、クリムゾンやトニーの追従というわけではなく(それももっとやりたい/やるのかもしれないが)、スティックを使うようになってしばらく経った今でさえ、まだまだスティックの面白さや可能性を楽しんで追及している真っ最中で、これからさらにかっこよく、面白い作品出てきそうだなと感じる。

(リリース当時の記事。関根嬢のコメントも掲載されてる。)


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