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走れ!走れ!オレたち⑦加筆修正版

天上界その六

 方位盤でのジャイアントランニングがスタートした。
 先頭に立ち走り出したのは馬と犬の一団だ。疾風の如く駆けるその姿は見るものを勇気づけ期待するに十分な見事な走りである。
 牛たちも一斉に走り出す。果敢に走る雄牛たちの中に当然に乳牛も交じっており、その揺れる迫力のオッ〇イは雄牛のやる気を高揚させ男神たちをも虜にする。
 小さいながらも鼠たちは駆ける大型動物の駆け足の合間を華麗なステップワークで前へ前へと走る。
 竜(辰)は一人参戦で真の干支だ。親戚のヤマタノオロチは蛇と被るし、首のひとつが寝違えて登録抹消らしく、今回はパブリックビューイングでどこからか応援しているらしい。
 猪の一団は重戦車が走るが如く、まさに猪突猛進で止まること知らずの圧巻の走りを見せる。
 猿たちは頭脳戦を繰り広げる。駆ける牛たちの背中に乗り、仲間と交代をしながら走る。長期戦をにらんだ賢い戦略だった。
 例の羊も走っているはずだが肉眼では追えない。時折、走る群れの中からしぶきのような液体があがるのは羊の涎なのかもしれない。
 蛇たちはとぐろを巻いて数千匹が一つにつながり、あたかもタイヤのようになって回転し走る。理にかなった方法で健闘しているが、表面の蛇は痛そうだし、見た目、気持ち悪い。
 鶏たちは羽をバタバタさせながら駆けている。飛ぶな駆けろと言われたが元来飛べないのにと内心思いながらも、これまた健闘していた。

 干支を含む動物たちの走りは凄まじく、方位盤を囲む神々や従者たちはその迫力に興奮し、大漁旗を振り、飛び跳ね、うぉ♪うぉーぅ♪うぉーう おー♬と、地上界のサッカーとやらでやってる例のあの歌で動物たちを応援している。行ける!これなら方位盤は動く!と誰もが信じたが、彼らの懸命の走りにも方位盤は動く様子をみせない。
 
 段々と時間が絶つにつれ、動物たちにも疲労の表情が見て取れ(個々にどんな表情かは割愛する)神々たちも一抹の不安を隠せないでいた。

 それは一匹の牛の転倒ではじまった。避けようとした仲間が次々と転倒、その中に馬と犬の一軍が突っ込み雪崩現象が起きた。蛇はクラッシュで分解し、鞭のようになって猿や鶏たちを撥ね飛ばす。鼠は下敷きになり、猪はブレーキが効かずその中に突っ込んでいく。多くの動物たちが方位盤の外へ弾き出され、そんな事故が方位盤のあちこちで起こっていった。
神々とその従者たちは弾き出された動物たちをトリアージし、救護テントへ運ぶ。奇跡を信じ始まったジャイアントランニングの地は一転、戦場と化した。

 このままでは方位盤は動かない。武官は自身が手を出せないもどかしさに焦っていた。目の前で次々と動物たちが傷ついていく…彼は意を決して大年神に進言した。

「神よ、我々も走りましょう!」
「なんと?」大年神は鼠の手当てをしながら聞き直した。
「このままなら方位盤は動きませぬ。干支たちは弱ってきています。ここは神々と我らが加勢し走るのです!!我らの法力を加勢して走るのです」
武官はもはや首筋の♡マークを隠そうともせず言った。

「それは…できぬ」
大年神は首を二度三度と振り、そう言った。
「なぜ、出来んのです!」武官は詰め寄る。
「この方位盤は干支の力でしか動かせぬ。我らが走ったところで、わが神力を使ったところで無駄なのだ」

「無駄と?…お恐れながら神よ、あの動物たちは傷つきながらも懸命に駆けております。この天界を、地上の人間とあらゆる命を守るために!」
武官は方位盤でいまだ走る干支たちと、その周囲で傷つき倒れた動物たちを指さしながら大年神に強い口調で言う。
「あの者たちの命に我々が応えなくとも良いというのですか!?あなたは我らの力は役に立たないと仰せられる。しかしそれでよいのですか!?あの者たちが走る力は法力などではありませぬ!あれは、あれは、愛です!誠の愛の力!それに応えぬ我々に、何もしないで見ているだけの我々に!…」

「そこに愛はあるんか!?」

大年神は心をうたれた。なんだかどこかで聞いたような台詞とは思いつつも
心をずきゅん、どきゅんされた。

「武官よ、相わかった!我らも駆けようぞ!皆よ、立ち上がれ!そして方位盤へ!!我らも走ろうぞ、ゆけぇ~!!!」
大年神は再び力の限り扇を振る。

うぉーーーーー!!!!神々とその従者たちの雄たけびが天界に響き、焦燥感に打ちひしがれていた方位盤に熱気が戻る。周囲の神々とその従者たちは次々と方位盤へ駆けあがり走り出す。

守衛館のやぐらの上でその感動の光景を見ていた弁財天は、琵琶をエレキギターに持ち替え、フルボリュームでシャウトする。

走れー!♪走れー!♪オレ―たーちー!♪ ながれーる なんとかー、かんーとーかー♪♬
地上界で走ると言えば爆〇のこの名曲だ!地上界の大人の事情で歌詞は若干違った。

方位盤上は神々と従者と動物たちの共演によるジャイアントランニングに活気を戻した。しかしいまだ方位盤は動こく気配はない。

その頃お釈迦様と寅さんとうーちゃんは、その歌声が聞こえるところまで近づいていた。

地上界その六

 首都東京、皇居前広場は異様な熱気が渦巻いていた。今や電波障害によってTV局はまともに放送ができない状態ではあったが、あらゆる手段を使い【走れ!走れ!地球を救えプロジェクト】が拡散。優に百万人を超える国民が集まっていた。全国各地でも同様に人は集まり始め、憲政史上始まって以来のジャイアントランニングがスタートを迎えようとしていた。そして世界でもあらゆる通信手段を駆使し、世界同時スタートの時を50億を超える人が今や遅しと待ち構えている。なんとそのスタートのコールを、たまたま来年のG7議長国予定だった岸辺総理がすることになった。

 岸辺はスタートラインに立ち、全世界に語る機会を得た。マイクがN〇Kのアナウンサーから渡される。

 「世界のみなさーん!日本の~岸辺でーす!いまー、われわれはー!人類史上!いや!地球たんじょー以来!最大の危機を~迎えていまーす!!」(同時通訳あり)

 「われわれはー!、この手でー、いや、もとい、この足でー!自らが走ることによってー!世界中で同時に走ることによってー!このちきゅうをー、すくう~~!」ちょっと涙ぐみ、声が裏返った。

 「この足で~~走り~!!大地を蹴って~!地球をまわす~!!」

うぉぉぉぉーーー!
大歓声が岸辺のまわりから響く。

岸辺も叫びながら思った。政治家を志してから30有余年、この国のトップに立ち、そして今、世界のリーダーシップの先頭に立っている。今なら支持率100%だ。
・・恍惚の表情だ。横に同じランニングウェアに着替えさせられ伴走させられる宝田教授は、涙と鼻水をぬぐおうとしない岸辺の顔を見つめていた。

その時、どこからともなく音楽が流れ聴こえてきた。シャウトするその曲は例のあの曲だった。

走れー!♪走れー!♪オレ―たーちー!♪ ながれーる なんとかー、かんーとーかー♪♬

大人の事情で歌詞は若干違うがあの曲が全世界に天から流れた。

岸辺はチャンスを逃さなかった。50億が足を揃え駆けだすにはこれしかない、今だ!
打ち合わせした段取りをすべてちゃぶ台返しし、岸辺はコールした。

「いくぞぉーー!!」
うぉおおおおおおおおーー!!

50億を超える人類最大の♬走れ―走れー♪がスタートした。
先頭を走る岸辺は流れる涙と鼻水をそのままに走る。

伴走をする宝田は両手にぴーちゃんをそっと抱いていた。
宝田も奇跡を願っていたのだ。

つづく

走れ!走れ!オレたち①   
走れ!走れ!オレたち②
走れ!走れ!オレたち③
走れ!走れ!オレたち④
走れ!走れ!オレたち⑤
走れ!走れ!オレたち⑥


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