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フェリ、ボッレ&フレンズ【Bプロ】

“Bプロでは、巨匠ジョン・ノイマイヤーがイタリアの有名女優を題材に、フェリを起用して創作、彼女の復帰作の一つとなった『ドゥーゼ』より、「フラトレス」を上演。ノイマイヤー自身が来日して監督、指導に当たり、彼が選んだハンブルク・バレエ団のダンサーたちがフェリと共演します。そしてフェリ、ボッレとの共演でなじみあるマルセロ・ゴメス、メリッサ・ハミルトン、上野水香に加えて、バレエ・ファンから厚い信頼を寄せられる実力派のシルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコのペアも参加。”
(NBS: https://www.nbs.or.jp/stages/2019/ferri-bolle/ )

文京シビックホール 大ホール
8月4日 15時~17時
S席 ¥18,000-

小さい頃から習ってて親に連れられたりしてバレエ観賞には馴染みあったもののちゃんと自分のお金でしっかり追うようになったのはここ半年、だけどボッレは知ってた。なんでだ。というか溺れていく初期段階でボッレとザハロワの白鳥の湖を見てふぉーとなってたので覚えてたんだろうなーザハロワしか目に入ってませんでしたけど。と、いうことでボッレの話題になってたOpus100を目当てにチケットを取りました。私にしてはそこそこ良い席、1階後方中央。フェリは名前は聞いたことあるな?くらいであとは全く知らない状態、ノイマイヤーはボリショイのロミジュリくらいしか(私の)レパートリーなかったので今回のノイマイヤー・ガラで爆増。

<Bプロ>

~第一幕~
「バーンスタイン組曲」
振付:ジョン・ノイマイヤー 
音楽:レナード・バーンスタイン
出演:アレッサンドラ・フェリ、シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ、カレン・アザチャン、アレクサンドル・トルーシュ、マルク・フベーテ

シルヴィア・アッツォーニのアメリカンで元気な若い女性像がとても素敵でした、ブロンドのポニーテールが揺れるかわいさ。フェリのS字のすごい(すごい…)足を見ると若干不安になるので(不安定な気がしてしまう、慣れの問題)、アッツォーニの安定感ある体躯が好きだな~と思った。正直1曲目なのであまし記憶がない…

「リベルタンゴ」
振付:高岸直樹 
音楽:アストル・ピアソラ
出演:上野水香&マルセロ・ゴメス

女子、って感じがするんですよね。女性じゃなくて女子。好みの問題です。日本人だからというわけではなくタイプ的に今回のメンバーでは超異質だなぁと思った。

「オルフェウス」よりパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー  
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキーほか
出演:ロベルト・ボッレ&シルヴィア・アッツォーニ

※オルフェウスあらすじ:(ギリシャ神話)ある日、伴侶であるエウリュディケが蛇に噛まれて死んでしまう。オルフェウスはハデスのもとへ行き、エウリュディケを連れ戻したいと願い出た。ハデスは”二人が地上へ帰りつくまで後ろを歩く彼女をふりむいてはならない”という条件で送り出した。地上へ着く直前オルフェウスはついに振り返ってしまい、エウリュディケは黄泉の国へ吸い込まれるように消えてしまった。

Opus100を目当てに来たけど「この演目にチケット代払った」1曲目。オルフェウスの話自体知らないまま見たけど、アッツォーニ素晴らしかったですね。あとからあらすじを調べたんですが、ヒトであるオルフェウスとヒトではなくなってしまったエウリュディケの対比が二人の性質によってよく表現されていたと思いました。目の前にいるボッレは麦畑を走り回っているようなとても健やかな青年に見えました、44歳とはとても思えない、眩しいけれど只人の青年。ヒトであることを意識して役作りをしてきたように見えるではなく、ボッレそのものがそういう”質”の人間であるが故にオルフェウスが如何にエウリュディケと遠いイキモノかというのを感じました。ノイマイヤーはオルフェウスをボッレにと作ったそうですが、そういうとこを引き立たせたかったのかな?ボッレ、すっごい陽属性だもんね。対して、アッツォーニはエウリュディケをヒトではない存在として憑依させていたように思います。客席の意識を引き寄せるダンサーだなと思いました、バレエにアンテナ張るようになってまだ数か月ですが現役の彼女を見る機会に間に合って本当に良かった。オルフェウスが振り返ってしまい、ヒトではないなにかに壊れ朽ちていく様子が恐ろしくも同時にとても美しかった。

~第二幕~
「TWO」
振付:ラッセル・マリファント 
音楽:アンディ・カウトン
出演:ロベルト・ボッレ

光の残像がボッレの美しい肉体によって描かれる美しさ。若干マッスルショーな気がしなくもなかったですが、とても良い時間でした。シンプルな音と光と己の肉体だけ。中心の闇に周囲の光を映し出すような、光を引き寄せるような風に見えました。ギエムの曲だったとあとで知って某所で見てきたんですが、彼女のTWOは闇と光を引き裂くような鋭い作品で随分印象が違う。鋭利なギエムと、柔和なボッレというところでしょうか。ギエムのTWOをリアルタイムに見てる人にとっては物足りなかったのかもしれないけど、暗闇に浮かぶ彫刻のような肉体と光の残像を映し出すボッレのTWO、目を奪われました。準「この演目にチケット代払った」1曲です。

「アモローサ」
振付:リッカルド・グラツィアーノ 
音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ
出演:シルヴィア・アッツォーニ&マルセロ・ゴメス

TWOとOpus100に挟まれてあんまり記憶がない…んですが、オルウェウスとまた違うアッツォーニが素敵だった断片的な…ゴメスの記憶がないです本当にごめん。SNSではすごく評判良さそうだったのにー笑

「作品100~モーリスのために」
振付:ジョン・ノイマイヤー 
音楽:サイモン&ガーファンクル
出演:ロベルト・ボッレ&アレクサンドル・リアブコ

お目当て”Opus 100-for Maurice”です。なんだかよくわからないけど話題作品なんだな?と思ってチケットを取ったわけですが、当時の私よ、良くやった。もちろんわからないなりに見た程度ですが(なぜならリアブコを私は知らないので)、素晴らしかった。バックグラウンドを知っている観客が涙するのも頷けます。私もどっぷり浸れる知識があればよかったな、精進したい。モーリスのために、と副題がついているだけあってかどこかベジャール風味を感じました。2017年のベジャール来日Bプロ(ボレロ他)を見た空気感が少しだけ風吹いたような、少し懐かしい気持ち。鏡合わせのような二人ではないからこそ、独立した人間が肩を並べて互いを分かち合い鼓舞して時に溶け合って歩んできたんだと、そんな風に思いました。言葉にするのはとても難しい作品ですね、でももっと見ていたいと思う終わりでした、わからないけどでもまだ見ていたいまだ終わらないでほしいもう少し二人で踊ってくれないかと願いながら降りた幕。改めて、頭で理解することは必ずしも必要じゃない心に訴えかけてくる何かに浸るだけで十分なときもあると思わされる、教えてくれたOpus100でした。

~第三幕~
「フラトレス」(「ドゥーゼ」より)
振付:ジョン・ノイマイヤー 
音楽:アルヴォ・ペルト
出演:アレッサンドラ・フェリ、アレクサンドル・トルーシュ、カレン・アザチャン、カーステン・ユング、マルク・フベーテ

Bプロラストを飾ったのはドゥーゼより第二幕フラトレス。浄化された魂がただ浮遊しているような、精神的な神聖さを感じる一幕でした。フェリが椅子に腰掛け片腕を横一直線に伸ばすだけでなんと美しいこと!こんなにただその瞬間を額縁に入れたいと思うのも久々。まるでそこだけ時間が止まってるような不可侵の美しさ、肉体だけではない存在そのものの美しさを、ただ在るがままに佇ませることが出来るフェリは世界でただ一人だけですね。フラトレスを成立させられるダンサーはフェリだけだしフェリが本当に表舞台を去っていったらこの作品は封印されるんじゃないかとまで思いました。それくらい、この人にしかなし得ない。
まぁどういう流れのものなのかはさっぱりでしたが。ドゥーゼが人の名前だということすら知らなかったし。翌日になって調べたら伝説的なイタリア人女優を描いた全二幕のノイマイヤー作品で、フェリ復帰へ贈ったあてがきの話だとか。ハンブルグのトレイラーを見てみたらびっくり、第一幕はドゥーゼの生きている頃の話で90分、ダンサーも多いし色もカラフルだしセットもちゃんとある。初演でこれは第二幕開いたとき客席目がテンだっただろうな…落差……。落差があるからこそ、俗世と離れた精神世界がより強固に映るんでしょうけど。
魂が浮遊している、ただそれだけの空間だけれども、シンプルなセットと照明が美しく朝からまた次の朝へ移り変わるような春から春へ季節が移り変わるような、そんな印象を受けました。周りは時間が進んでいるけど、でも魂たちはそこを浮遊するだけなので彼らに時間という概念はないんですよね。ただ流れ、舞うだけ。
非常に精神性の高い演目(ドゥーゼが、ではなくフラトレスが)なので、賛否両論なのかもしれないですけども、私はノイマイヤー・ガラの幕閉じに相応しいラストだったと思います。客席に寄るでもなく客席を切り離すわけでもなくフラトレスそのままただ浮遊するようなエンディングに目を奪われ、私の「フェリ、ボッレ&フレンズ」は終了です。


見に行って良かったです。正直客席環境としてはなかなかに最悪でしたしシビックは二度と行きたくないなと思いましたけど、それを凌駕する作品とダンサーのすばらしさを全身に浴びました。アフタートークで「日本の観客ならわかってくれるだろうと思い、あまり他で見ないような演目を選んだ」と話していたそうで、嬉しいというほど私は”日本の観客”に含まれている自覚を持ててないですが、でもそう思っていてくれから見れた作品ばかりだったと思うのでありがとうという気持ちでいっぱいです。出来れば、もっと若いお客さんに見てほしかったなとほとんど外野の私は思ってしまいましたが。勿体ない。とは言っても私は鑑賞仲間いないので誘う人もいないんですが、宣伝頑張ってくださいなNBSさん。煽り文句微妙だったと思うぜ!また来年とか、来てくれたら嬉しいですね。というかボッレがインスタにあげてたあれはローマ劇場?野外の半円形劇場でやっていたステージをなまで見たい!!