見出し画像

「知らない人んち」第1話:リユース!

【登場人物】
YouTuber きいろ     筧 美和子
アク  シェアハウス住人 戸塚純貴
キャン シェアハウス住人 秋山ゆずき
ジェミ シェアハウス住人 長井 短

フリマアプリで生計を立て、命をかけるシェアハウスの3人。無謀な計画にきいろは巻き込まれ…。

○1階・和室
きいろ、子供が描いた家族の絵を手に、逃げるのを思いとどまる。
きいろ「面白いものが撮れるかも・・・」
気配を感じて振り返ると、アクが立っている。
きいろ「・・・!」
アク「次は君の番だ」
きいろ「私はただ・・・たまたまあなたたちと会っただけっていうか、誰でもよかったっていうか」
アク「誰でも?」
きいろ「嘘です。皆さんが、優しそうだったから」
アク「後戻りはできないよ。この家のことを知ってしまったんだから」
きいろ「いやぁぁぁぁあーーー!」

○1階・リビング
きいろ、電動バイクを必死に漕いでいる。与えられたTシャツとジャージ姿で。
部屋に置かれた電動バイクで、汗だくのきいろ。
きいろ「ツカレターーーー」
きいろがペダルを漕ぐのをやめると、電動バイクにつながれたメーターがガクンと下がる。
リビング全体の明かりが暗くなった。
キャン「きいろちゃん!漕いで!」
疲弊するきいろを、代わりにスマホで撮っているキャン。
ジェミ「かわいそうじゃない。この子、見かけによらず運動音痴みたいだし」
ジェミはテーブルできいろを見ている。
アク「ダメだ。客人とはいえ甘やかすわけにはいかない」
アクはキッチンで夕飯の準備。
キャン「だって。きいろちゃんファイト!」
きいろ「今どき自家発電なんて」
ジェミ「止められたのよ」
きいろ「それは私も経験あるけど、電気代ぐらいちゃんと払おうよ」
反応がない。
キャン、アク、ジェミは顔を見合わせる。
きいろの心の声「そうだ。ここ、普通の家じゃなかった。住んでるんじゃなくて、きっと勝手に居着いているだけだ。ここの住人がいなくなったのも、この人達が・・・」
 × × ×
(インサート)
家族を描いたこどもの絵。
入ってはいけない暗室。
 × × ×
アクが持つ包丁が、ドシンとまな板に下りる。
きいろ「!」
アクは小ネギを刻んでいる。
アク「最悪、ろうそくはある」
キャン「ていうかウチら最先端のことをしてるんだよ。ダイエットにもなるし一石二鳥」
ジェミ「まあ。ものは言いようだけど」
きいろ「じゃあガスは?」
キッチンで湯を沸かしているアク。
アク「カセットコンロがある」
ガスはカセットコンロ。
きいろ「水道は?」
ジェミ「こないだ大雨だったから」
バケツがいくつも。水が満タン。
きいろ「これじゃ避難生活と一緒・・・まさか」
  × × ×
テーブルに座っているきいろ、アク、キャン、ジェミ。
きいろ、浮かない顔でスマホに向かって自撮り撮影。
きいろ「(自撮り)これから念願の晩ごはんでーす。きょうのごちそうは~」
カップラーメン。
キャン「アク、奮発したね」
アク「言ったろ。客人を振る舞うのはもてなす側の礼儀だって。10個300円で落札した。期限ギリギリだからな」
キャン「普段は庭のハーブを食べてるんだよ」
ジェミ「雑草でしょ」
キャン「まあまあ。炒めれば同じだって」
きいろ「・・・」
「いただきます」とそれぞれ箸を持つ。
ジェミ「・・・」
きいろ「食べないの?」
ジェミ「味噌味は無理だって言ったじゃない」
キャン「私の塩味と交換する?」
ジェミ「ごちそうさま」
ジェミ、部屋を出ていく。
きいろ「・・・」
キャン「気にしないで。ジェミ、好き嫌い多いから」
アクは黙々と食べている。
キャンは「私、もらっちゃおう~」と食べる。
空気が重い。
きいろ「(撮るのをやめて食べる)・・・」

○1階・和室
きいろ、子供の絵を見ている。
スマホで自撮りを始める。
聞かれないように小声で、
きいろ「(自撮り)やっぱり変です。ここの人たち。一刻も早く、真実を暴かなくてはいけません」
  × × ×
(リフレイン)
アク「後戻りはできないよ。この家のことを知ってしまったんだから」
  × × ×
きいろ「でも、もしかして、私も共犯? ああーーーーもう! とにかくはやくこの絵に描かれた家族を見つけ出さないと。ユーチューバーきいろ。ファイト!」

○1階・リビング
きいろ、自撮りしながら忍び足で入っていく。誰もいない。

○2階・階段
きいろ、忍び足でのぼる。
どこからか話し声がする。
きいろ「誰かいる・・・」
女子部屋のドアは閉まっている。
男子部屋も閉まっている。
きいろ、声の場所を探して歩く。
アクの声「だから言ったろ。あいつには気をつけろって」
キャンの声「ジェミはそんな子じゃないって」
声は暗室から。
きいろ、暗室の前で足を止め、ドアの前で耳をすます。
キャンの声「それより、あのきいろって子、どうするつもり?」
きいろ「!」
キャンの声「なんとかしてよ。これ以上踏み込まれたら」
その時、きいろのスマホが充電切れでピピピと音が鳴り始める。
きいろ「(慌てて)・・・」
暗室のドアが開き、出てくるアクとキャン。

○2階・浴室
浴室の中でしゃがんで息を潜めているきいろ。

○2階・暗室の前
アクとキャン、暗室から出てきた。
アク、鍵をかけて、キャンと一緒に廊下を進み、階段を降りていく。

○2階・浴室
きいろ、浴室ドアのすき間から見ている。
きいろ、深い溜め息をつく。
バスルームには、使いかけの子供シャンプー。髭剃り。
きいろ「ここの人はどこに・・・」
出ようとして、つまづく。
浴室にはロープとバケツが。その中には真っ赤な液体が入っていて。

○1階・和室
きいろの叫び声「きゃあぁぁぁぁーーー」
きいろの私物を見ているキャンとアク。
声に、二階を見上げる。
キャン、きいろが脱いだ黄色のコートを手に取る。
アク、テーブルの下にある、家族の絵画を手に取る。

○1階・リビング
テーブルでパソコンやスマホを前に作業しているアクとキャン。
きいろが駆け込んでくる。
きいろ「私の洋服・・・」
キャン「帰るつもり?」
きいろ「・・・」
アク「それならここに」
ソファに、きいろのコートや洋服、かばんなどが置いてある。
きいろが触ろうとすると、
キャン「もうそれはあなたのものじゃないの」
きいろ「えっ・・・」
アク「たったいま、売れて人手に渡った」
きいろ「どういうこと?」
キャン、スマホの画面を見せる。
フリマアプリで、きいろのコートが1000円でSOLDとなっている。
きいろ「無理無理無理!これは私のだし」
アク「ここはただのシェアハウスじゃない。モノを売って、お金を得て生きている。つまりリユースするくらし。物質社会への抵抗だ」
キャン「売るのは、この家にあるもの全部。ここにあるのは、全部その辺で捨てられたゴミ。それを私たちがもう一度、きれいにしてあたかも未使用のように売る」
アク「ゼロから何かを生み出す喜びを、君も味わうがいい。人生やり直したいんだろ?」
きいろ「もう意味不明!」
アク「それにこの家にはルールがあって。売上が最下位の人間はこの家のローンと、あらゆることを背負わなければならない」
ジェミが来る。
ジェミ「勝手に開けたの誰!」
アク「君が探しているのは、コレかい?」
鍵だ。
ジェミ「返して」
 × × ×
(インサート)
空き地。
ジェミが何か掘って入れたものは鍵だった。
あとで掘り返して手に入れたアク。
 × × ×
アク「君は僕らが集めた骨董品の数々を独占して最下位を免れようとした」
ジェミ「違う!」
アク「でも安心しろ。もう最下位じゃない。新しい最下位は」
と、きいろを指す。
きいろ「!」
きいろ、逃げ出そうとする。
アク「逃げても無駄だよ」
きいろ、足を止める。足もとにカメラがある。
きいろ、振り返る。
あちこちにカメラがあって撮られている。
アク「君だけがユーチューバーかと思ったかい? 僕らもユーチューバーなんだ。リユースする暮らしに人はいつまで耐えられるか。君のことはもう全世界の人が知っているよ」
きいろ「・・・」
 (了)


サポートが糧と自信になります!