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【おすすめ絵本】なめとこ山の熊

本日は、宮沢賢治が描く、山で生きる男の物語を紹介します。
自然と人間との距離が狂い始めていると感じる現代。自然に対してどのような覚悟で人間が向き合うべきなのか、その答えの一つを示してくれる一冊です。

作:宮沢賢治 絵:中村道雄 出版社:偕成社

なめとこ山の熊

小十郎は、なめとこ山の熊捕り名人。
本当は「熊を殺したくない」という気持ちをかかえつつ、他の仕事を選ぶことができず、家族を養うために熊に銃を向け続けます。

私の好きな場面は、小十郎が熊の母子と遭遇する月夜の幻想的なシーン。
熊の言葉も理解できるようになった小十郎は、偶然出会った熊の母子の微笑ましい会話に聞き入ります。
熊の母子の会話に胸がいっぱいになった小十郎は、母子に気が付かれないように、音を立てずにこっそりと、その場を離れるのです。

熊に対する愛情・懺悔・敬意。
様々な感情を抱きながら、小十郎は生活のために熊の命を奪います。

現代において、人間社会は多くの命の犠牲の上になりたっています。
生物の命を奪うという行為を直接体験することが非常に少ないため、見えにくくなっている一面です。
しかし、見えにくいけれども見ようとする努力を続けることが大切なのではないでしょうか。

熊と真摯に向き合った小十郎に訪れる物語のラストは、荘厳で神秘的。

素朴で美しい木目の組み木絵が、宮沢賢治の世界を柔らかく包んでくれています。

読み手のその時の心境や心の成長により、読み返すたびに新しい発見がある一冊です。

楽しい絵本の時間をお過ごしください。

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