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ヨハン・ユスト・シューシャルト(Johann Just Schuchart :London. ca.1741-1753))破損したテナージョイントの修復記録 2

テナージョイントの状態を観察

・ソケット部分に折れ、欠損
・数カ所に割れの修復痕がある(修復年代は不明)ここからの漏れはなし
・ソケット下端から最小径にかけて破損と腐食がひどく大きく広がったまま
・過去に修復を試みたときの蜜蝋が内径に残っている
・ソケット周辺の木部は腐食が進んでもろもろになっている
・テノン部分の漏れがひどい(おそらく腐食による劣化、木がスカスカ)

この状態から、コンサートで使用可能な状態にする修復の手順を考えました。

修復手順

1,作業工程

・内径の掃除(蜜蝋の除去)
・湾曲の修正
・木部の腐食・テノンの漏れを修復(樹脂を含浸さる)

・内径データの調査
・データに基づきソケットを制作&試奏
・内径の修復&試奏
・最小径の大きさ・深さを決めて制作&試奏

・内径の修復・最小径決定
・ソケット部分の修復(ソケットの固定、欠損部分の修復)

2,調律
・当時のイギリス式運指の調査
・トーンホール・内径の修正

以上が私の考えた手順です。
2023年10月

以下、写真で説明します。


内径の掃除(蜜蝋の除去)

お湯(熱湯)につけることで蜜蝋が溶けだします。
溶けた蜜蝋は一番下に固まり、内径を塞ぎますが細い棒で押し出せば簡単にとれました。

湾曲の修正
全体を再度お湯(熱湯)につけ、木製の器具で固定、まる一日放置します。

木部の腐食・テノンの漏れを修復(樹脂を含浸さる)

木材専用の強化樹脂に浸し、気泡が出なくなるまでまって、24時間乾かします。

内径データの調査

参考文献は以下のとおり
・Dart, Mathew (2011) :The baroque bassoon: form, construction, acoustics and playing qualities. Doctoral thesis, London Metropolitan University.
・Eric Halfpenny:The Evolution of the Bassoon in England, 1750-1800

特にDart博士の研究論文はロンドンの楽器についてのセクションがあり次のような楽器について記述がある。また内径データも掲載されており、大変役に立った。

• T.ステインズビー、
• ステインズビー・ジュニア、 • C.ゲドニー(x2)、
• J.J.シューシャルト(データなし)、
• ミルハウス・ニューアーク、 • T・カフサック

データに基づきソケットを制作&試奏
最小径の違うソケットを2本作ってもらいました。

 2023年11月26日、ソケット1を使い、最初の試奏。
全体にピッチは低く、オクターブが全然音痴である。

改善の記録はまた次回!!


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