見出し画像

イケてるMac①

自分から能動的に動いたことは、これまでの人生でほとんどない。縁もゆかりもない静岡の田舎にいるのは確かに自身の選択だが、強い意志や目的があったわけじゃなく、思い付きできょを構えたまでである。

30歳を過ぎて就職した時も、正直なんの会社かよく理解しないまま入った。単に静岡に住みたいと思い、そのためには定職につかなければならないから入社したので、ホントどこでもよかったのだ。
お世話になって26年間、動機はどうあれ自分なりに貢献はしてきたつもりだし、ボスから嫌われなければそこで現役を終えていただろう。結果として潮時しおどきだったと思うのは、世界を蹂躙じゅうりんしたパンデミックの余波と、無関係ではない。
むしろそのまま居残り、管理職の立場から組織の皆さんに”ある行為”をなかば強制していたなら、今ごろ取り返しのつかない後悔にさいなまれていただろう。

一事が万事ばんじ、流されてきたと言えなくもないが、むしろ「自分事が他人事ひとごと」みたいな感覚が、常にあると言った方が正確か。
追い込まれたとして、その時抱く怒りやら恨みやら切実さが長続きせず、過ぎてしまえばすぐに痛痒つうようを感じなくなるというのは、特技かもしれない。

音楽も、聴くのは好きだが楽器を習おうとは思わない。好きな曲も、カラオケで歌いたいと思ったことがない。
お付き合いでマイクを握らざるを得ない現役時代、僕の十八番おはこは『あざみの歌』だった。場をしらけさせるのに絶好の一曲で、それ以上歌えと催促されないからたいへん重宝する。本当は『ゴンドラの唄』といきたいところだが、難しすぎてこちらは断念せざるを得なかった。

会社を辞めてメッセージ動画を商売にしようとしたときも、若きクリエーターが制作してくれるというのが前提だった。それが打ち合わせのため彼のスタジオを訪問するうち、アンタいつ寝てんの?くらいにハードワークであるのを知る。仁義に厚い人間で、過去の経緯から手伝ってくれると言ってはくれるものの、とても甘えられる環境じゃないと思った。

どうせった映像つくるわけじゃなし、自分でやってみるかと決めた。流れに任せるこれまでの人生、その中ではかなり大きな決断である。人の作った作品を享受するだけだったこのワシが、かりそめにも表現する側になるんかい!
大がかりなものだけ、相応の報酬で彼の手を借りようと考える。
では、そのために何が必要になるんだ。僕の半分近くも若い師匠の指示に従い、機材をそろえ始めた。

まず、編集用のパソコンであるが、MacBook Proマックブックプロにしろという。
えーっ。気取ったにいちゃんがスタバでクリエイティブな仕事してるぜってていでキーボード叩いてる、あのMacぅ~?(個人の感想です)
こいつぁオイラも、意識高い系デビューだぜ。

Macはネットで買っても値引きがない。だったら買った額だけポイントのつく量販店がお得だというので、彼の付き添いでお店に出向く。
最初だから高スペックはいいやと、動画用としては最低限のメモリー8gb・容量256GBの13.3 インチを購入した。
専用マウスは品切れで、Mac関連の商品は入荷の時期がわからないという。なんだかわからないが師匠のすがまま注文し、届くまでは指で操作しろと言われた。

それって、すんげぇやりにくくないのか?

イラスト hanami AI魔術師の弟子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?