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『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』を考える

はじめに

「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」を見終えたのは半年くらい前で、感想を書いていなかった。今回SEED FREEDOMの公開に際し、SEED及びDESTINYのスペシャルエディションHDリマスターを見たので、アニメ版を含めて振り返ってみようと思う。結論から言うと、結構楽しめた。傑作とは呼べないかもしれないが、良作ではあると感じた。


序盤の展開について

まず感じたのが第一話の出来の素晴らしさである。続編の楽しみな点は、前作の後の空白の期間に何が起こったのか、映像や会話から推測することである。カガリとプラントのデュランダル議長の会話はそうした想像を掻き立てると同時に、作品のテーマと今後の方向性をよく示していたと思う。さらに主人公であるシンの過去と、戦う動機がよくわかるようになっている。その後のEDの入り方も含めて、ワクワクが止まらなかった。

第一話に限らず、序盤ではオーブの理念の犠牲者ともいえるシンや、パトリック・ザラ前議長の権威を利用するユニオス7のテロリストなど、前作の戦争の負の面にアスランやカガリが直面する。そしてまた新たな火種が生まれる、と続編として完璧に近い展開だったと思う。


三人の主人公

〇アスラン・ザラ

アスランは三人の主人公の中で一番好きなキャラである。現実世界にいたら面倒くさそうだが、物語の登場人物としてはよくできていると思う。相変わらず感情と立場、理想と現実のあいだで悩みまくっている。DESTINYの主人公として一番ふさわしいのはアスランだと思う。というかこの物語は彼の視点で描かれているように感じた。スペシャルエディションでは彼のモノローグまで入り、それが顕著である。

より大局的な世界全体の平和を考えるタイプで、彼の乗るモビルスーツの名からもそれはわかる。彼の最大の欠点はバカ正直なやり方しかできない点で、それが周りの人間を傷つけることになったし、自らを危険な立場に晒すことにもなった。

コントロールできるのかは分からないが、三人の中で一番種を割るタイミングが適切だった。途中までMS戦の活躍は控えめだったが、本気なら他の二人にも劣らないだろう。

〇キラ・ヤマト

SEEDで心に深い傷を負ったキラだが、二年たってもそれは癒えていないようだった。オーブの状況を見て決意し、戦うことになるのだが終盤までずっと彼の思想には一種の諦めのようなものを感じる。大局が見えていないのにも関わらず、仲間を守るため戦うのは身勝手と言われても仕方なく、より大きなことのために悩み続けるアスランとは対照的である。こうしたキラの悪い部分にしっかりとスポットライトが当たっていたのは良かったと思う。

ただ、彼が嫌なキャラになっていたかと言うと、全くそんなことはない。自分の仲間を守りたいという思いは誰よりも強かったし、ここぞというタイミングでのみ戦闘に介入していたからだ。

SEEDではクルーゼに言い負かされ気味で、戦いの後は放心状態になっていた。しかし今作は、デュランダルに自分たちが戦い続けると決意を示した。これは彼が大きく成長した証拠だろう。

〇シン・アスカ

主人公を交代させられたとも言われるシンだが、最初からこの物語の主人公はシン一人ではなかったように思う。戦闘能力は最初から最後まで凄まじく、戦い方も多彩で的確。フリーダムを撃墜する戦闘では研究による対策や、意表を突く胴体の分離など勝利に値する戦いぶりだった。その強さには恐怖さえ覚えた。

最後までザフトとして戦い続けるが、アスランに敗北。最初から見ていれば彼が優しいやつなのはわかるが、途中からは力をつけ調子に乗った痛々しさが強調されていた。最後に挽回のチャンスさえ与えられていたらまた違ったかもしれない。まさに不遇である。


ラウ・ル・クルーゼとギルバート・デュランダル

クルーゼとデュランダルに共通する考えは、世界に絶望していることだろう。違うのはアプローチで、クルーゼはそれを破壊してしまおうとし、デュランダルは徹底した管理でそれを良いものにしようとした。これはコーディネーターという人類の業に対するそれぞれのけじめとも言えるかもしれない。

どちらも世界から争いがなくならないのは、人間の欲や意思のせいであるとしている。その二人に対峙するのが人間の欲望の果ての存在ともいえるキラであるというのは、何たる皮肉だろう。さらにデュランダルに至ってはクルーゼと同じ遺伝子を持つレイ・ザ・バレルにすら否定されてしまう。これを見るにとてもディスティニープランがうまくいくとは考えられない。

もっとも、遺伝子操作が原因で歪んだ世界で、それぞれの遺伝子に立ち返るという方法は間違ってはいないように思えるし、結果として彼のやり方が正しかったということにもなり得る。


良かった点

SEEDに続き演出や艦隊戦はすばらしい。主人公三人の考え方や立場のちがいがよく分かるようになっており、それが面白かった。わりかし綺麗にまとまった前作に比べると混沌としているが、それも含めて楽しめた。


気になる点

デスティニープランについては、説得力、有効性に欠けると感じた。ここをもう少し掘り下げれば、物語に深みが出たと思う。


最後に

なんとか映画の前にまとめることができた。シリーズ合わせて98話と長いが、飽きることなく楽しめた。OP・EDはSEEDの方が好きなものが多い。映画ではどんなことになるのか、楽しみである。

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