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[小説]ボクとおじさんの物語〜始まりは干し芋だった #シロクマ文芸部 (1543文字)



[小説]ボクとおじさんの物語〜始まりは干し芋だった

「始まりは干し芋だったな…」

そんなことを思い出しながらコンビニの干し芋を手に取ったボクは、レジに向かった。
昨日からの大風にも耐えた桜には、淡いピンクの花がひらきだしていた。



あれは、こんな桜の季節だった。




ボクは背中に視線を感じ、振り返った。
おじさんがこちらを見ていた。
「しまった…」
おじさんは、ボクをスーパーの奥の部屋に連れていった。
マグカップにお茶を注ぐと、大きな段ボールの中をガサガサとして菓子パンをテーブルの上に置いた。
「おじさんも今から晩飯なんだ…いっしょに食うか?」
袋入りのソーセージパンをむしゃくしゃ食いだした。
ボクもパクパクと食べた。

「母ちゃんは?」
「東京」
「飯は誰と食うんだ?」
「ばあちゃん」
「ばあちゃんは今、家か?」
「うん、たぶん寝てる」
おじさんは、お茶をすすっていた。

「…父ちゃんはいないよ…。
母ちゃんは東京で働くからって…今はいない。
幼稚園の頃から、ばあちゃんと2人なんだ」
「ばあちゃんは具合悪いのか」
「冬、風邪をひいてから具合が悪くて…
風邪ひいてても豆腐とサバ缶を入れた鍋とかうどんとか作ってくれた…
最近はゴホゴホ咳をして寝込んでる…
母ちゃんが送ってきた箱の中から、煎餅とかビスケットとか食べたりしてた…」

おじさんは立ち上がって「食うか」と言って、袋をバリッと開けてポテトチップスをくれた。
それをパリパリ食べながら言った。

「…ボクはポットのお湯は沸かせるんだ。
お湯が沸くと、ばあちゃんは起き上がってカップ麺を作ってくれるんだ」
「学校は楽しいか?」
「学校?勉強は好きってわけじゃないけど、給食があるから行くよ、そりゃ」
「偉いな…今は春休みだろう、メシはどうしてたんだ?」
「終業式からは、菓子パンとか食べてたけど、もう無くなってしまった…」

「ばあちゃんと来てるスーパーで何か買おうと思ったんだ。お小遣い358円あったから、カップ麺を買った。
でも、ばあちゃんの好きな干し芋までは買えなかった…

次の日、ばあちゃんの財布から105円もらってスーパーに来たら干し芋は250円だった。
…思わずリュックに入れたんだ。
何にも知らない、ばあちゃんは嬉しそうに『うまい、うまい』って干し芋を食ってた。
それから、何回か…ごめんなさい」

おじさんは、じっとボクの話を聞くと口を開いた。
「毎朝、開店前ここに来いよ。店の前の掃除を手伝ってくれるか?」

ボクは草むしりしたり、ほうきがけをした。
おじさんは、
「ありがとな。これバイト代な」
そう言って、昨日の惣菜や菓子パンを袋に詰めた。おじさんとスーパーの前のベンチに腰掛けてジュースを飲んだ。
「桜が咲き出したな…桜はな、寒い冬がないと咲かないって聞いたぞ…きれいだなぁ。」
見上げると桜の花びらがボクの顔にもチラチラと落ちてきた。
「ばあちゃんも良くなるといいな…
明日も来いよ…」



あれから、30年の時が過ぎた…
ボクは4月から働く新しい職場に向かっていた。
春の嵐に煽られ、通りがかりの80前の男性が転倒した。
コンビニから出たボクは、その人に駆け寄って声をかけた。
「大丈夫ですか?お怪我はないですか?」
「あ、ありがとうございます。大丈夫です」
聴き覚えのあるその声を聞いた途端、あの時の記憶が甦った。
「…おじさん?」
「え?」

おじさんに、あの時のボクだと言うと驚いて、昔みたいにくしゃくしゃな笑顔で喜んでくれた。
桜があの日みたいに、2人の上に咲いている。




ボクは今、ちょっとだけ銀色になりかけた「ひまわり」のバッジをつけて働いている。
あの日、おじさんのようになることを誓ったボクは猛勉強した。
今のボクがあるのは、すべてあの日のおじさんのおかげだと思っている。

ボクは今、弱い立場の人を護ることの出来る弁護士でありたいと思っている。


(1543文字)



小牧幸助さん
いつもありがとうございます😊
企画参加させて頂きます♪
よろしくお願い申し上げます!

#シロクマ文芸部
#始まりは




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