見出し画像

「喫茶店のホットケーキを啄ばむ君の名は?」


ホットケーキが食べたいのよ、あたし。

ううん、パンケーキじゃないわよ。
ホットケーキよ。

今流行りのフワフワ系は
どうも苦手な女よ、あたし。


いいの、いいの。
何も乗っかってなくていいの。

フルーツだの何だの
ぜんぜん乗っかってなくていいのよ。



子どもの頃に行った喫茶店は
煙草とコーヒーの匂いにむせかえるような場所だった。


テーブルにはインベーダーゲームが埋め込まれているの。

食事も出来てゲームも出来る優れものよ、奥さま。



あたし、クリームソーダとミックスジュースで
いつも迷うのよ。


クリームソーダのさんらんぼが好き。
ふやけて味のないさくらんぼを
そりゃあ大事に食べてたわ。

クリームソーダの時は戦いよ。

アイスを突っつき過ぎると
ソーダの泡がぶくぶくと溢れちまうからね。



ホットケーキの焼ける匂いがすると
今も胸が高鳴るわ。

冷凍はダメよ。

あの喫茶店のマスターが焼いてくれたやつよ。


真っ白いお皿の縁には
気取った模様があって、

ナイフとフォークなんか
紙ナプキンでギチギチにくるまれてるのよ。

上に乗っかった四角いバターと
申し訳なさそにそっと添えられたメープルシロップ....

銀のさ、
ちっこいのに入ってるのよね、シロップは。



あたしの食べ方はこうよ。

二枚に重なったホットケーキを
一枚づつお皿に並べて、バターを満遍なく。

そして、上からメープルかけてまた二段に戻すの。


ううん、食べる時は二段で食べたいのよぉ。


ナイフとフォークなんて
こんな時にしか使わないもんね。

うんと気取って食べるのよ。


左手のフォークが
何だかしっくり決まらないの。

結局、全部切っちまって
ワンフォークで食べるのだけんど....



煙草とコーヒーと大人たちの会話。

テーブルゲームのミサイルの音と
昭和ポップスがBGMよ。


最後の一口が食べれなかったあたし。
途中でお腹いっぱいになるのね、きっと。

あたしのお皿に残って干からびたホットケーキを
いつも摘んで食べてくれる....

あれは、いったい誰だったのかしら?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?