烏枢沙摩明王がトイレの神様になるまでの流れを勝手に推測する


きっかけと目的

先週のこんなツイートがありました。
周回遅れですが呼ばれたのでこの機会に「わたしのかんがえた『烏枢沙摩明王がインドから日本に来て厠神になる経緯』」をまとめます。

用語

お経や翻訳の中から探してきているので表記揺れや違う表現が多々あります。
わかってて併用している表現だけでもまとめておきます。

世尊、釈尊、仏:お釈迦様

金剛手:金剛手菩薩

無動明王:不動明王

摩醯首羅、大自在天:シヴァ神 インドの主神の一柱、破壊担当

蠡髻梵王:梵天、創造神ブラフマーとされる。巻貝みたいな髪型ややってること的に↑ではないのか

ウマー、パールヴァティー:シヴァ妃 仏教では烏摩妃。ドゥルガーもシヴァ妃。多数の名と側面があるが同一存在のはず。

穢跡金剛、穢積金剛、受𩞾金剛、不浄金剛、火頭金剛、烏瑟娑摩、烏蒭沙摩、ウッチュシュマ(あといろいろ):烏枢沙摩明王 インドの火神アグニと同一とされる。

では、順を追って並べていきます。

『初会金剛頂経』降三世品

インド密教の仏たち」 春秋社 森 雅秀 著 にあった考察です。
(手元に本がないので私の脳内でかなりずれてる可能性あり)

ナーランダ寺院遺跡から発掘された降三世明王

http://air.w3.kanazawa-u.ac.jp/photo_database/India/Bihar/nalanda_mus/nalanda_plate/nalanda17.html Trailokyavijaya

上半身は失われてるけれど、踏んでるのが男女二人なら降三世明王もしくはその前身と思われます。

と、その足の間にいる方のアップです。

http://air.w3.kanazawa-u.ac.jp/photo_database/India/Bihar/nalanda_mus/nalanda_plate/nalanda18.html Vajranucara

炎の中にいて、剣と盾を持ち、逆立った髪をヘアバンドでまとめています。

初会金剛頂経降三世品の一節について」(白石 真道, 酒井 真典 著) PDF
 梵文をもとに複数の訳が見られます。
 この訳でいうと、

・世尊が一切如来の心呪を取り出した。

・世尊の代理である金剛手が従うように告げた。

・大自在天従わず。

・調伏の指示は世尊、実行は金剛手。諸天と大自在天を心呪で死に至らしめる。(そして生き返らせる)

・金剛手の足の裏か胸から出現した金剛随行鬼が最終的に大自在天と夫人をとらえて裸にしてさらした。

・金剛手に踏み殺された大自在天夫婦は地上に生まれ変わって最終的に如来となった。

 このエピソード自体には降三世明王の名は出てきません。
 金剛手が心呪を使うのは、仏法の世にするため。諸天と大自在天はいきなり何のことだと驚いて抵抗しています。

 状況を表す像、サンスクリット経典が残っていることから、この話が一連の流れのかなり古いところにあります。

参考
降三世品の思想背景について」(宮坂宥峻 著)PDF

こちらによると、「金剛手灌頂タントラ」が『初会金剛頂経』降三世品に影響を与え、そのカウンターにデーヴィー・マーハートミャが成立しているのではないかと。
(降三世明王の真言に出てくるスンバ&ニスンバの名がヒンドゥー教経典ではデーヴィー・マーハートミャ以降だが、仏典ではそれ以前から出てくる、デーヴィー・マーハートミャはスンバ&ニスンバに男神が全て敗北しているのが前提で、女神が反撃に入る話)

穢跡金剛説神通大滿陀羅尼法術靈要門


・涅槃に

・蠡髻梵王が慢心し、天女と戯れ中で呼び出しに応じない

・数々の不浄で障壁を作った。この障壁に触れた者はことごとく死んでしまった。

・釈尊の左心から出現した不壞金剛が障壁を指差して大地に変えた。

・蠡髻梵王発心して自ら如来(釈尊)のところへ赴く。

 ざっくりすぎですが、いつ、誰を相手に、指示役、実行役、障壁、処理方法、結果だけ並べました。
 配役が多少変わり、何でもめているか具体的になってきました。
 そして障壁登場です。不浄と書いてあるけれど具体的に何かは言ってません。指差しただけで解決しました。

底哩三昧耶不動尊聖者念誦秘密法

・摩醯首羅が

・慢心して一切の穢汚で四面を囲んだ中に住む。

・無動明王が仏の命を受け、受𩞾金剛を化して捕らえる。

・諸穢は(受𩞾金剛が)食らった。

 配役がまた変わりました。そしてこっちでは障壁食らいました。
 まだ糞便って書いてないはず。

 降三世品の後の二つの経典で、「慢心している」「不浄物の障壁」要素が加わりました。そして、指示役、実行役、補助(最前線)役がずれていきます。降三世品で金剛手が執拗に大自在天を責め、金剛随行鬼が裸に剥いて連行していたのが、不壞金剛または受𩞾金剛が障壁を打ち破ったところでほぼ勝敗決して解決に至っています。

 この間に、「不浄物ではない障壁」のエピソードがあったかは調べきれませんでした。また、お釈迦様に対抗してるのが帝釈天で不浄物の障壁を成し、烏枢沙摩明王が食らう、というバージョンがあるようなのですが、出典がわからず探し続けています。

 さて、烏枢沙摩明王の前身火神アグニに障壁を払う話があるかインドの古典叙事詩や聖典を見てきました。

ラーマーヤナ


 シヴァ神はヒマラヤの娘ウマーと結婚し、寵愛しました。
 力のある二人の間の子は強すぎて誰も対抗できないとすべての天人は困って子作りしないでほしいとシヴァ神にお願いしました。
 承諾されたものの、シヴァ神はたまっていたものを大地に放出。
 大地も山も森も満たしたそれを片付けてほしいと神々は火神アグニと風神ヴァーユに依頼し、アグニが精液の海に飛び込んでヴァーユの支援で燃やし、シュヴェータ山と最上の葦原が生まれ、火神からスカンダが生まれました。(生まれるまでにあと1エピソード)

 伏せてるとわからないのでたまってたもの書きました。
 話の骨子も配役も目的も上記の経典と全然違いますが、トラブルがあり、指示されて火神が何かを片付けるところまで単純化すると似てきませんか。

パドマプラーナ

 シヴァ神はパールヴァティーに魅了され、1000年出てこなかったので、神々の要望により火神アグニがオウムの姿で宮殿に侵入した。邪魔が入ったのでシヴァは外に精液を出し、アグニが飲み干して外に吐き出したので湖ができた。(その後いろいろ中略してスカンダ誕生)

 この前に、「悪魔ターラカを倒すための子を作ってほしいと神々がシヴァ神にお願い」しています。ラーマーヤナと逆です。
 この「悪魔を倒す力を持つスカンダお誕生」エピソードは、ガンジス川の女神ガンガーやスバルの女神クリティカ、火神アグニを切り離せずにいろいろ発展していきますが、今回は詳しく触れません。
 大事なのは、山や湖や戦神が生まれるほどの量と万物の根源であり重要な精液ということです。
 そして「宮殿に女性と立てこもる」「飲む(食う)ことでで片付けた」ことがこの文章中必要なことでした。

 そして、不浄に対するアグニについてもエピソードを探しました。

マハーバーラタ

(前略)
 アグニは聖仙ブリグに、「なんでも食らう者になれ」と呪われました。
 自分は神の口であり自分が食べたものは神の食料になるのに、なんでも食うものになったら儀式も神も穢れてしまう、と、アグニは全ての儀式から身を引きましたが、ブラフマーにより、火に触れた時点で全て浄化されているのでなにを食べても清浄であると慰められ、アグニは儀式に戻りました。

 なんでも食べるものになれと呪われて激怒するってことは、それまでは聖別されたもの以外アグニ(と神々の食べ物、供物)にしてはいけなかったようです。ギーとかソーマとか。
 ここで浄化されていないものも含めて何でも食べて燃やす完全浄化神を保証されています。

 精液については、雨(天からの恵み)がインドラの精液だったり、上記のシヴァ神のエピソードの副産物が偉大な神以外にもいいものであったり、アグニの精液から金銀銅が生まれたり、重要な液体と呼ばれていることもあり、不浄物ではなくそれこそ重要な液体扱いのようです。

推測


いろいろ紹介したものからなんとなくの推測をします。

・世尊が大自在天を含む諸天を調伏させるエピソード(諸天側には特に理由なし)
 降三世品、金剛手灌頂タントラなど

 →何かに男神が敗北して力を失ったので、代わりに女神が力を得て返り討った
 デーヴィー・マーハートミャ

・世尊が諸天を調伏する理由が俗人にはよくわからないので大自在天が反抗的だったことを追加(涅槃の際、天女を侍らせて宮殿にこもっていたなど)
 穢跡金剛説神通大滿陀羅尼法術靈要門(世尊から不壞金剛が出て穢物の障壁を消す)
 底哩三昧耶不動尊聖者念誦秘密法(大無動明王が受𩞾金剛を出して穢物の障壁を食らわせる)

・大自在天(シヴァ)反抗エピソードとして別の話を挿入したのでは。

・元エピソードで散らかしたのは精液だが、そのまま翻訳(あるいは筆写)できずに濁した。その後穢物と濁してある最強の不浄物なら糞便だろうと解釈されたのでは。

 以上です。
 夏休みの自由研究として提出する先もないので、こちらに披露して終わりにします。

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