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【音】CITTA’ ’93(CD)


90年代のラリーズを象徴する重要ライブ音源が公式リリース

かつて91年にリリースされたオフィシャルCD3作品('67-'69 STUDIO et LIVE , MIZUTANI , '77 LIVE)のリマスターが2022年に再発され、その後注目された「裸のラリーズの完全新作のリリース」
その音源として選ばれたのは、1993年2月17日に川崎にあるライブハウス “ CLUB CITTA' ” で開催された公演でした。
その音源の詳細に入る前に、ひとつ記しておきたい事がありまして、それは下の画像について。

雑誌「et cetera」付録EPレコード・ジャケット

実はこの日のライブ音源は過去に一部リリースされており、それは1996年に発刊された雑誌「et cetera」の裸のラリーズ特集、その付録EPレコードのB面に『永遠に今が』と題された曲が収録されました。盤に詳細情報は記されていませんでしたが、聞けばすぐ分かり93年のチッタ公演の演奏でした(※この音源に関しての詳細は別途、「雑誌 “et cetera”」の記事でまとめて記したいと思っています)。
水谷さんが生前ご自身でチョイスされリリースした音源なので、ご本人も納得の内容だったことの証でしょう。

それの公演全体をリリースされるということで期待が高まりました。更には8チャンネルのデジタルレコーダーによって記録されていることが判明し、かつてないクオリティでのリリースとなりました。


アルバム全体の所感

アルバム・ジャケット

2023.6.28発売。
ジャケット写真には、写真家であり裸のラリーズのオフィシャル・フォトグラファーだった中藤毅彦さんの作品が使用されました。
この写真はコラージュになっています(水谷さんの背景はもともと白で、そこに水面の波紋を合わせて印象的なアート作品に)。水谷さんと相談しながら制作されたそうで、その仕上がりには御大の意志も込められています。
また中藤さんの写真は表面だけでなく裏も内側も、アルバム全体でフィーチャーされており、90年代当時の裸のラリーズ、水谷さんの姿の様々が堪能できます。


 ・出演メンバー
水谷孝 : ボーカル、リードギター
石井勝彦 : サイドギター
高橋ヨーカイ : ベース
野間幸道 : ドラム

なおこのチッタ公演の4日前には吉祥寺バウスシアターでライブを開催してますが、その時とはベース(ドロンコさん → ヨーカイさん)とドラム(サミーさん → 野間さん)のメンバーが代わっています。なおベースのヨーカイさん交代に関しては明確な事情があり、バウス出演時ドロンコさんは体調不良だったらしく、チッタでは急遽ヨーカイさんに交代されたようです。


CD内容物(CD2枚組、ライナーノーツ、ビジュアルペーパー)

アルバムは2枚組で、Disque 1は比較的コンパクトでキャッチーな演奏が並び、特に水谷さんのボーカル…詩をたっぷり堪能できる感じです。
対してDisque 2はハードな爆音ロックサイドといった趣で、収録曲は2曲ですが、合計で60分超の長尺演奏、爆音ギターをこれでもかと味わえます。


なお余談ですが、(名称に迷いましたが)ライナーノーツと共に付いている写真が載っているビジュアルペーパー、こちらにはこの日に実際に演奏している石井さん、ヨーカイさん、野間さん3人の姿が写っていて、これはかなり貴重なのではないでしょうか、僕は初めて見ました。


閑話休題。
それにしても驚愕レベルの音質の良さです。各楽器の音の分離の良さで、それぞれの演奏を明確に聞き分けられます(特にDisque 1)。水谷さんの詩を聞くのが好きなので、特に歌を堪能できるDisque 1はかなり繰り返し聞いています。
また今作を聞いて気付いたサイドギターの細かいフレーズ、こんな音を鳴らしてたんだとアレンジが面白かったです。
リズム隊の非常にタイトな演奏を従え、水谷さんは縦横無尽に演奏して表現されてます。


曲別の所感

 1. 夜、暗殺者の夜
Disque 1 スタートです。
ドラムの音から曲にインするというラリーズではあまりない導入から、ゴリゴリのノイズが大発生、そして比較的ゆったり目のリズムで代表曲が演奏されます。

 2. 記憶は遠い
サイドギター石井さんの奏でるメロディがとても美しい演奏。楽器演奏の軸を石井さんに任せたように、水谷さんは大半を歌に集中されてます。
抑揚の効いた感情のこもった歌声で、かつては「僕」という一人称が、ここでは「俺」に。そしてギターソロをひとつ入れてからの歌の終盤、かつては「お前が後を追うことはないと思いつつ」と歌っていたのが、ここでは「お前が後を追うことは“ない”」と断ずる形に。

 3. 夜より深く
'77バージョンのダークなメロディ演奏で、ヨーカイさんの奏でる不穏なベースラインにのって初っ端から爆音ギター、その後は再び歌に集中されてます。
ここでも面白いのがサイドギター石井さんで、歌詞「血と狂気を〜」「お前の中心まで〜」の部分で差し込まれるギターフレーズにより、味わい深さが増してます。
そして最後は轟音ギターパートへと入っていき、そのまま次曲へとなだれ込んでいきます(この曲の演奏としては比較的短めです)。

 4. 永遠に今が
前曲から繋がって始まり、初っ端から爆音ギター、フルスロットルでぶちかまします。轟音ながら音の分離がいいので、ドラムのハイハットの音がかなり印象に残ります。前述のとおりこの演奏は後に雑誌「et cetera」のEPレコードにも収録されます(※このCDとはソース違い)。
歌のあと再び轟音ギターが入り、かなりの熱演、金属的で重いフリーキーな演奏です。そしてギターがその大音量ながら、正確なリズムを刻むベースやドラムもまた凄いタフネスさです。
曲の終わりは残念なことに途中でフェードアウトしていき終了します。

 5.白い目覚め_1993
メロディは『夢割草』と同じで、歌詞は『白い目覚め』中心で歌われてますが、ところどころオリジナルの詩も混じっています。
 “苦しいことをしすぎると 俺の心は傷つくのさ もっと傷ついて 傷ついて もっと傷つく”
そしてのたうち回るようなギターソロへ。

 6.鳥の声
個人的にはこの日の演奏の白眉で、イントロからエンドまで素晴らしい完璧な流れです。
特に後半のギターソロ、まさに泣きのギター、呻き、噎び泣いてるような気持ちがそのまま音になっているようで、鳥肌が立ちます。

 7.Darkness Returns 2
ここからDisque 2です。
湿り気を帯びた前曲の演奏から一変、泣きの感情を吹き飛ばすような、ドライでダークな轟音ギターから始まります。
メロディ的には『氷の炎』がベースで、歌詞はオリジナルで今の時代(1993年当時)を見つめています。
 “時代が変わっても 俺は変わりはしない 時は俺のためにあるわけじゃない お前のために時代があるわけじゃない”
そして何よりこの演奏の主役は爆音ギターで、Disque 1の『永遠に今が』も相当な激しさでしたが、こちらはさらに密度が濃くなって重みが増していると思います。

 8.The Last One_1993 
前曲に続き、さらにさらに、の大音響、大爆音、大轟音。40分に迫る超長尺爆音演奏。徹底的。

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