大企業の学閥は存在するのか?

 大企業にはしばしば学閥があるという噂がある。特定の大学の人間ばかり出世したり、特定の大学の人間ばかりが役員に就任したりというのだ。

 日本の文系大学で影響力の強い大学は5つだ。それは東大・京大・早稲田・慶応・一橋である。それ以外の大学の影響力は無視してよいだろう。地方旧帝大は理系志向が強く、首都圏から離れているために地元企業を除いてほとんど影響力を持たない。MARCHや関関同立は早慶と旧帝が上に君臨するため、なかなか浮上できない。大学のランクと大手企業で学閥を形成できる人数を考えると上記の5大学が圧倒していると考えてよいだろう。

 この中で最強の力を誇るのは慶応閥だ。大手企業は早慶旧帝クラスの大学がボリュームゾーンであり、その中でも慶応は首都圏のマンモス大学である。伝統的に三田の理財と言われ、ビジネス界での影響力が強かった。
 OBの団結が強いのも強みである。三田会はどこに行っても開かれている。私立大学らしい仲間意識だ。また、こうした仲間意識は内輪を贔屓することにも繋がる。慶応の上司が慶応の部下を引き立て、慶応の同期が慶応の同期と情報を交換する。そうして慶応閥は形成される。慶応閥の組織の特徴は独特のアンフェア感である。

 慶応と並ぶもう一つの最強学閥が東大閥だ。ただし東大閥は余り仲間意識がない。彼らは自分が優秀だから東大に入ったと考えているからだ。東大閥の組織は単に権威主義的と考えた方がいい。他の大学の人間は格下だと思われているだけで、同じ大学の人間を贔屓しているわけではないのだ。東大閥の組織は独特のヒエラルキー信仰が存在する。

 これと比べると何故か弱いのが早稲田である。人数に注目すると早稲田は慶応の1.5倍存在するのだが、どうにも早稲田閥の企業は聞かない。早稲田の出身者はどこにでもいる印象であり、固まっている素振りは見えない。校風の問題だろうか。

 一橋は人数が少なく知名度が低いのが弱点だ。ただし、就職実績は良い。東工大と並んで全大学の中で一番であると言われている。少数精鋭だが学閥では弱いのが一橋だ。一橋閥の企業が存在するという話は聞いたことがない。早慶にバカにされる心配がないが、学閥を形成できるほど強くないのが一橋だ。
 
 京大はこれらの大学の中で唯一地方にある。したがってその分布は首都圏の大学とは異なる。総じて京大はアウェイにもかかわらず首都圏の大企業でも活躍している印象だ。「東大・京大」と並べられるだけあってそのブランド力は強い。一部の省庁を除いてほぼ格下に思われることはないだろう。ブランド力の高い一橋といったところか。

 実のところ、首都圏で純粋な学閥といえるのは慶応だけだろう。早稲田は団結力が薄く、京大と一橋は人数が足りない。東大閥は独特で、必ずしも内集団びいきとは言えない。一部の外銀は東大出身者が多数を占めるが、単に学歴主義が強いだけで東大出身者が仲間を引き連れているわけではないのだ。

 ところで、学閥というものは企業にとって好ましいものではない。特定の大学の出身者で企業が固められることは健全な状態とは言えず、企業の活力を損なうからだ。

 伝統的な日本企業の売りは平等な出世競争にある。新卒就活で学歴が見られるのは単にそれがポテンシャル採用だからだ。一度採用されてしまえば一斉にスタートが切られ、後は実力主義である。最近の研究によれば日本企業の場合、大学のランクと入ってからの出世に相関はないそうだ。
 もし学閥が幅を効かせていればその他の大学の出身者がやる気を失ってしまうし、学閥内部での馴れ合いは腐敗と派閥抗争の呼び水となる。現に慶応閥が強固だった三越やカネボウは経営破綻した。三越の場合はワンマン経営者が慶応閥を露骨に優遇しただけではなく、愛人に権力を握らせたために大問題となり、会社経営の混乱を招いた。学閥なんてアンフェアなものが横行している時点でその会社はロクなところではないのだ。

 特定の集団によって組織が独占されることは基本的に望ましくない。だからこそ多くの大企業は社外から取締役を招いて外部の風を入れているし、転職者も受け入れている。学閥も同様だ。そもそも企業にとって大事なのは社員が会社に貢献することであって、そこに出身大学が絡んでくること自体がおかしい。学閥が強固な会社は基本的に問題があると考えてよいだろう。

 学閥というのは基本的に同じ学校のよしみで仲良くする、社内同好会程度の認識が良さそうである。


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