見出し画像

来世で会いましょう(意味が分かると怖い話)

 俺は彼女と伊豆の山荘にいる。周囲の景色は綺麗だ。ああ、こんな美しい自然を見ながら俺たちは命を閉じるのか。それも悪くはないだろう。

 俺と彼女はこれから心中する予定だ。彼女も俺の方向を向いてうなづいてくれている。彼女が日本有数の華族なのに対し、俺はしがない八百屋の息子でしかない。俺と彼女は絶対に結ばれないだろう。だから、来世で結ばれることを願って一緒に死ぬのだ。

「来世でも私と絶対に一緒になってくれますよね」
「ああ。絶対だ」
「生まれ変わりを信じますか」
「絶対に生まれ変わって俺たちはまた再開すると信じている」
「その時は今度こそ一緒に結婚しましょう。お互いどんな姿になっても」
「約束するよ」
「それじゃあ、来世で会いましょう」
俺と彼女は青酸の入ったコップの水を飲み干し、だんだん苦しくなって、その場に倒れた。

 なんだかしばらくぼんやりしていた気分がする。終わらない夢を見ているようだった。次に意識がはっきりした時は俺は転生していた。転生先の母親にミルクを飲まされ、次第に歩けるようになり、前世の記憶を持ちながらも健全な子供として育っていった。前世の記憶があれば子供に戻った時に有利かと思ったが、そうでもない。俺の周りにはスマホやらchatGPTやら聞いたことがないモノばかりだ。なんだこれは。俺の時代にはラジオしかなかったぞ。しかも学校で勉強してびっくりしたのだが、日本は第二次世界大戦に敗北してアメリカの同盟国になっているらしい。いやあ、ずいぶん変わったなあと思う。

 俺はその後もすくすくと育ち、高校・大学と進学し、なんとか大企業に就職できることになった。これで一生安泰だ。自分で言うのも恥ずかしいが、俺は結構モテるので、週末になると女の子とデートをしては鼻の下を伸ばしていた。そろそろ結婚相手見つけないとなあと思ったところで、前世での約束を思い出した。彼女、そういえばどうなった。

 彼女と再会するのはその少し後だった。俺がバスを待ってベンチに座っていたとき、隣に座っていた女性に見覚えがあった。目があった時、お互い確信した。前世で一緒に心中した相手だ。

 彼女は俺を見つめて嬉しそうな顔をした。「遅かったですね。ずっとあなたのことを待っていたんですよ。これで結婚してくれますね」

 俺は彼女の姿を見て愕然とした。転生後の彼女は健康だと思うし、美人の部類だとも思う。しかし、これは困った。輪廻転生のシステムというのは精度が低いようだ。いや、別に約束などしていないし、自分たちが勝手に期待していただけかもしれないが。

 これでは彼女と結婚できそうにないし、俺はまっぴらご免だ。俺の脳裏には今付き合っている女の子と結婚して子供をかわいがる姿がチラついた。ただ、彼女はどうにも俺と結婚するのをずっと待っていたらしい。責任を取るべきだろうか。俺は彼女への義務感と妻子ある家庭への理想との板挟みで頭を抱えてしまった。















答え
 主人公と彼女は輪廻転生を行ったが、生まれたタイミングが大きくズレていた。主人公が彼女と出会った時、彼女は老人になっており、到底結婚を考えられる年齢ではなかったのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?