隠すよりも、自分らしく

後ろ姿

 お店で服を選ぶときに気になるのが後ろ姿です。三面鏡が置いてあるお店は少なく、体をねじらせながら後ろ姿を確認するのが精一杯です。服選びに長けておられる店員さんは、何も聞かなくても「背中がだぼついて見えますから、ワンサイズ下げられてはいかがでしょう」とか、「このデザインは横皺が気になりますね」などとアドバイスをしてくださり、とても助かります。体にフィットする服を着ていると着心地はもちろんいいですし、動きやすいせいでしょうか気持ちも前向きになれるような気がします。
 また、私はもともとスカート派でしたが、最近は特にパンツを履かなくなりました。理由は、ヒップラインに年齢が如実に表れてしまうからです。これは大きさの問題ではなく、ヒップの形そのものがパンツの似合わない形に変形してきたということです。簡単に言うと、筋肉がついていたころのヒップラインは縦長でしたが、最近は横長の長方形になってしまいました。丈の長いトップを組み合わせば見えなくなりますから、気にしなければ済むと言えばその通りです。でも、私には隠すことそのものに抵抗もあって、あえてパンツを履かないようにしています。


シニア世代のパンツスタイル

 私の周りのシニア世代の方達はよくパンツをお召しになっています。以前に比べてスカートを履かれる方が少なくなったように思うのですが、私の気のせいでしょうか。また、パンツの色もブラック、グレー、ブラウンと言ったダークカラーが多いように思います。ダークカラーは細く見える、トップスを合わせやすい、汚れが目立ちにくいなど利点も多く、どうしても選んでしまいがちです。我家のクローゼットにも似たような色のスーツがぶら下がっています。
 あるシニア女性になぜパンツを選ぶのか聞いたところ、「太い足を見せるのが嫌だからスカートを履かない」ということでした。彼女は色白の美人で上品な装いがとても似合う方なので、スカートを履かないのはもったいないなと正直思いました。

作り笑いの侘しさ

 パンツを履かなくなったことに加えて、写真を撮られることも避けるようになってきました。写真を見て、「これが私?」と愕然とすることが多々あるからです。皺を出さないようにと少し顎を引き、歯茎がむき出しにならないようにと口元にも気を遣い、控えめな笑顔を見せながら美しく撮ってもらったつもりが、実際の写真を見ると、目の下のクマが恐ろしいほど目立っていて、口元も表情もどこか引きつっていました。また、胸を張ると偉そうに映るのではないかという思いから少し控えめに立したつもりが、背の曲がった老けた印象を見事に作り上げてしまっていました。欠点を隠そうとしたことがすべて裏目に出てしまっていたのです。さらに言えば、私の配慮はすべて嫌みでしかありませんでした。

素直な自分が一番美しい

 そんな中、嬉しい出来事はありました。箪笥を整理していて十数年前に購入した洋服を見つけました。お気に入りの品でしたが流石にもう処分する時期かなと思い、今シーズンだけ着てさよならしようと決めました。恥ずかしいので普段着として着ていたところ、思いがけず友達から褒められてしまいました。「でもちょっと派手でしょ」と思わず聞き返したところ、友達曰く、「あなたにぴったり合っていてステキだ」と。お世辞を言う間柄ではないので、客観的な正しい評価なのだと思います。
 この出来事以来、私自身の見方・考え方が少しずつ変わってきたように思います。まず第一に、自分が気にしているほど、周りの人は私の細かいところを見ていないということです。皺や白髪が増えたとか、老眼がどうのこうのということは周りの人にとっては些細なことで、顔を合わせた瞬間に目に止まったとしても、そんなことはどうでもいいことなのです。それよりも私たちのおしゃべりの方が何倍も大事なのです。私に話を聞いてもらって一緒に大笑いしたい友達もいれば、私のアドバイスを待っている人もいます。要は、私そのものが必要なのです。たとえ外見が変わったとして、以前と変わらないありのままの私を必要としてくれているのです。
 日本人の一つの特性として、こんな格好をしたら人からどう思われるかわからないと過剰に反応しがちです。人目を気にすることは大切なことですし、日本人の節度のある行為は誇るべきものだと思います。でも、あまりに気にしすぎて、自分らしさを損ねてしまうのはもったいないなとも思います。その服が似合うか似合わないかについても、もちろん年齢的要素もあるとは思いますが、元来その人に備わっている「その人らしさ」に合致するものがその人にとって素敵な一品になり得るのではないでしょうか。
 足の太さが気になるのであれば、長めのスカートで明るめのトップを合わせ、胸元のネックレスで視線を上に持ってくれば、誰も足のことは気になりません。水色や桜色など優しいカラーはシニア世代にぴったりだと思います。グレーとの相性も抜群です。せめてコーディネートのどこかに自分の好きなカラーやアイテムを一つ取り入れて、自分らしさを演出してもらえたあらどんなに素敵だろうと思います。
 隠したい心理はよくわかります。でも、少し勇気を出して、隠すことを最小限に抑え自分らしさを前面に出してみてはいかがでしょうか。これは何もファッションや外見に限ったことではないと思います。人からどう見られるか気になって仕方がなく、人からよく見られるために賢明になって何かを隠そうとしている人がいるとしたら、ちょっと一息入れてみませんか。振り返ってみると、私も随分余計なエネルギーを様々なことに投入してきました。もっと早く気づいていたらという気もしますが、私の人生もまだ先がありますから、残された人生は少しでも自分らしく生きていけたらと思っています。「その人の真の美しさは、内側から溢れるオーラそのものであり、素直な自分が一番美しい。」 そう思える今日この頃です。

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