初投稿 ショートショート<安定の木>

夕方の時間帯私は今、自分の家から200m離れた公園にいる。公園の遊具で遊ぶのが目的ではない。


私の目的は、公園内にある古くてとても大きな木の上に登ることだ。この木の上に登ると、イライラしたり不安になったりする気持ちがなくなり、心が安定する。この木は、私の心を安定させる力を持っている。またこの木は、今まで台風などの被害があっても、びくともせず常に安定していた。2つの意味を込めて、私は、この木を<安定の木>と呼んでいた。

私は今高校3年生で、受験勉強が大変すぎるので、最近は特に<安定の木>に登ってぼーっとすることが増えてきた。

そもそも私がこの木に登り始めたのは、小学校1年生のときである。私は学校という空間そのものが苦手で、ストレスをためやすい性格でもあり、さらに親との仲も悪いためだれにも相談ができなかった。小学校3年のときと、中学2年のときにそれぞれ軽い話をする程度の友達はできたが、悩みを話せるほどの仲ではなかった。
高校生になってからは、友達は一人もできなかった…

進学予定の大学は、地元から500キロも離れたところにあるので、当然家を離れて一人暮らしをしなければならない。もう頻繁に<安定の木>のところにいけなくなると思うと悲しくなってくる。ただ遠くに行っても<安定の木>は見守っていてくれるという安心感もあった。

それから1年後、私は希望の大学に受かり、大学1年生になっていた。軽い話をする友達すらできず、つまらない学校生活を送っていた。今は秋休みのちょうど真ん中、私は地元に帰省した。そして、すぐに<安定の木>に向かった。絶望した……

看板には古く大きな木のため、公園で遊ぶ人に危険が及ばないように切り倒す工事を行うという内容だった。その工事は明日から開始のため、もうすでに木の上には登れなくなっていた。

本当にショックで頭が真っ白になった。「もう私の居場所はないんだ」と本気で思った。もう見守ってくれる存在はいなくなる。

最後に私は<安定の木>に対して、「今まで本当にありがとう」といった。「さようなら」とも言おうとしたが、涙が出てしまい結局言うことができなかった。私はその後すぐに家に戻り、次の日地元を後にし、一人暮らしをしている家に帰った。地元と、一人暮らしをしている家の街の500キロ間は新幹線を使って移動した。帰りの新幹線はやけに遅いように感じた。

秋休みは終わったが、私は大学には通わなくなった。もう行く気力がなくなっていた。親に授業料と仕送りは出してもらっていたので、最初は学校にいけないことの罪悪感はあったが、次第になくなっていた。

全く学校にいかないまま1年以上が過ぎ、大学2年生の終わりになっていた。成績表が届き当然留年が確定した。1年の頃は秋までは学校に行って単位を取っていたので進級ができたが、2年生に取った単位はゼロなので留年した。

私は、大学をやめた。

退学届を出しに学校へ行った。買い物以外で外に出たのは久々のことであった。学校からの帰り道、私はひどく後悔した。

今まで<安定の木>に頼ってばかりで自ら何も行動を起こせなかった。「もう一回人生をやり直せるのならやり直したい」そう思った。

それからバイトを始めてみたりもしたが、結局すぐに辞めてしまった。

今は、もうずっと家にいる。親が留年のことを知っているのかはわからないが、仕送りは出ているので、それを頼りに生活をしている。

もう一生私が地元に足を踏み入れることはないのであった。

            <終>


































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