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「優しい人々」の押し付けない優しさ

《今週末、いつも通りがんばったあなたへ読んで欲しい小説》

プロフィールにもある通り、私はイヤミスが好きだ。2,3日ひきずるような暗くて重い作品が。
たとえば重松清さんの「疾走」。たとえば沼田まほかるさんの「ユリゴコロ」。

だけど、もちろんそんな作品ばっかっり読んでいたら心が荒む。あるタイミングで無意識に心が叫び出す。

( ゚Д゚)「ほっこりもの所望ーーー!」と。

そんなとき、私にとっては小野寺史宜さんがベスト。
2019本屋大賞2位の「ひと」はもちろん、「いえ」「まち」「縁」とか。

note でもミステリを好んで読む。そして今回も、無意識に心が叫ぶままにある小説をタップした。それがこれだ。

( ゚Д゚)「優しい人々ーーーー!!!」

前置きが長い!
とにかく、yuhi(ゆひ)さんの小説「優しい人々」全13話 ↓↓ をオススメしたいです。

あらすじはチラ見えしているので省きます。
ただ、第1話をチラ見して「殺すぞ!」とかいう文字を見てしまったあなた。恐怖を感じなくて大丈夫です。
いや、そのセリフは冗談だとか正義のヒーローが突如現れてやっつけてくれてスカっとするとか、ではない。

「殺すぞ」と「言ってくれるやつがいるだけありがたいだろ」と本気で言ってる上司はリアルだし、池井戸作品のように最後に土下座してくれるなんて現実はまず、ない。この小説も、そんな正義の話ではない。

だけど、パワハラ現場の周囲の会話運びになぜか「ぷっ」と噴き出してしまいそうになるのだ。

「三十になっても殺されるのね、多田くんは」

「私も最初は多田くんが怒鳴られるたびに心臓がバクバクしてたけど、 今じゃ慣れるのを通り過ぎて、飽きちゃったもん」

パワハラされる多田さんについて語る、パートの伊藤さんのセリフ、一部抜粋

多田さん 可哀相! 伊藤さん ひどい! って思います?
いや、読んでいてそう思えないのは、伊藤さんのキャラ、多田さんのキャラが確立しているからなのでしょう。多田さんがどういう人か、応援できる人かどうかはご自分で読んで確かめてくださいね。
でもどちらもまぁ「普通の人」なんです。
普通の人との会話が、心地よい。

多田くんじゃなくて「俺」がクビになったあと、旅先で出会った女性店主、三園さんとの会話もそう。

(ここで第4話の三園さんとの出会いのセリフを引用したいのだけれど、いいところを集めようと思ったら「ほぼ全部」になっちゃうので無理でした)

「いいですね」
「いいって?」
「あたりまえのことを、話せるのって」

第5話 三園さんと「俺」の会話、一部抜粋

三園さんと「あたりまえ」の会話をして、凍えそうになっていた「俺」の心は徐々に解凍されていく。

でも、そんな三園さんにも過去がある。
三園さんが好きな日高さんという男性にも過去がある。

前髪揃えた、ほっぺが赤いコンビニ店員「麻衣ちゃん」にも。

そう。過去に何もない人なんていないものね。大きな功績や事件じゃないにしても。
《クビになった俺が旅に出て優しい人々に癒されて成長する話》だけでも充分こころは温まるのだろうけど、この話は「優しい人々」の過去や今が、今の「俺」にしっかり繋がっていると分かるから感動する。

ぶっちゃけ、「俺」のキャラより「優しい人々」のキャラの方が魅力的で気になる。どの人も個性が強烈というわけではなく、そこらへんにいそうな人。なのに魅力的にうつる。

「優しい人々」は誰ひとり、優しさの押し売りなんてしない。作者は感動の押し付けや説教じみたことはひとつも言わない。

「俺」と「優しい人々」との心地よいトーンの会話で、自然と読者の心が癒される。

最後のセリフ、とある4文字なんて最たるものです(*´ω`)
※全部読まないと、最後だけ見てもホッコリしないよ

ぜんぜん関係ないけど、最後の一行っていうか「4文字」に衝撃を受ける、下記の小説を思い出しちゃったのでご紹介。(いや全然ストーリーは似てないよ)

「優しい人々」をもっと長く、いろんなエピソードを盛り込んで欲しいと個人的には思っていますが、今の長さなら「ちょっと気軽に読んでみよう」という人にちょうどよいと思います。

「今週も疲れたなー。やれやれ」っていう金曜の夜、ちょっと読んでみてはいかがでしょうか。

もし、ポプラ社さんあたりから発刊される際には、作者さん、たくさんのエピソード盛り込んでくださいね~。

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