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スティールパンの音色と共に

スティールパンという楽器をご存知でしょうか?
スティールドラムとも呼ばれるこの楽器は、トリニダード・トバゴ発祥の楽器で、「二十世紀最後にして最大のアコースティック楽器発明」と言われており、1992年にトリニダード・トバゴ政府により国民楽器として認定されています。
打ち捨てられていたドラム缶を叩いたところ、叩く場所によって音が変わることを発見し、手を加えられて楽器として発展していったと言われています。このスティールパン誕生には、トリニダード・トバゴの歴史が深く関わっています。


スティールパンの歴史

1498年のコロンブスの新大陸発見以降、スペインに征服され、植民地となったトリニダード島とトバゴ島には、アフリカからたくさんの労働者が連れてこられました。その後、両島は統合されイギリス領となりました。
たくさんの労働者達は、打楽器を演奏して故郷の音楽を労働の合間やカーニバルにて楽しんでいましたが、19世紀半ばごろ、暴動をきっかけに打楽器の演奏が反乱の脅威になると感じたイギリス政府は、打楽器の使用を禁止しました。
そこで、人々は竹を適当な長さに切った「ダンブーバンブー」という棒状の楽器を作り、叩いて演奏をしていました。
20世紀に入ると、石油の採掘が盛んになり、石油会社が設立される様になり、労働もさらに過酷な状況となっていきます。
しばらくすると、「ダンブーバンブー」も打楽器の時と同じ様な理由で使用を禁止されました。
その後、人々は捨てられている空き缶やドラム缶を叩いて演奏する様になり、しばらくして缶の形や叩く場所によって音が違うことで、音階が作り出せると気がつき楽器として改良を加え、発展させていきます。
そして第二次次世界大戦が終わり、音楽を禁止する政府もいなくなり、1962年にイギリスから独立。スティールパンは、国の象徴的な楽器としてさらに発展し、1992年にトリニダード・トバゴ政府により国民楽器として認定されました。

スティールバンド

戦後は、たくさんのスティールバンドが結成され、海外に遠征して演奏するバンドなども出てきました。また、かつては、大手石油会社がスポンサーとなったバンドもありました。


ナショナル・パノラマ・コンペティション

毎年二月に行われる世界三大カーニバルの一つ、トリニダード・トバゴのカーニバルでは、スティールパンバンドのコンペティション「パノラマ」の決勝戦が行われています。
1967年から始まったこのコンペティションに向けて、各バンドは日々練習を重ねます。コンペティションでは、バンドの大きさでそれぞれの部門に分けられています。

シングルパン “SINGLE PAN” 45名
スモールバンド “SMALL BAND” 60名
ミディアムバンド “MIDDIUM BAND” 90名
ラージバンド “LARGE BAND” 120名

表示の人数はMAXの人数です。
ラージバンドの演奏は、それはそれは圧巻です。

こちらは2023年のFINALの様子です。

コンペティションの勝者の演奏が音源になっているものもあります。

ちなみに、先日行われた2024年のラージバンド部門のチャンピオンは、「Renegades」と「Trinidad All Stars」という2組のバンドがタイ1位だったとのことです。
「Renegades」は2023年に続き連続チャンピオンということで、大会史上最も多くの国内パノラマ タイトル (合計 13 個) を獲得したバンドとなったそうです。

スティールパンの音色

大人数での演奏を聴いてみて、いかがだったでしょうか?
もしかするとちょっと思っていたスティールパンと印象が違う・・・と思われた方もいらっしゃるかと思います。普段耳にするスティールパンは、1〜2台の演奏のことが多いかと思います。
スティールパンを使った音楽はたくさんあり、映画音楽でも使われています。この音色を聴くと、南国の陽気な感じだったり、リゾートのオシャレな感じがしますが、実はいろいろな歴史を経て作られた楽器でした。
大人数での演奏は本当に圧巻で、とてもパワフルです。トリニダード・トバゴの魂(スピリッツ)が詰まっている感じがします。楽器は違えどこのパワフルさで打楽器や竹の棒「ダンブーバンブー」を演奏されれば、脅威に感じるのもわかるような気がします。
演奏を禁止されて形をかえてもなお、自分たちのルーツを忘れず守られてきた演奏が、これからも末長く続くことを願うばかりです。

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