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令和の歳時記 ヨシノボリ

ヨシノボリも「ソーシャルディスタンス?」

日本の田舎の川で遊ぶことに幸せを感じる。都市から二、三十キロも離れると眼下に空色を鮮やかに映した美しい川が横たわっている。日本のどこにいても大抵行ける。

もちろん上流部は急峻な山肌を切り刻むような勢いで流れているので、ちょっと危険だ。

少し下った割と川幅の狭い中流あたりで遊ぶのが良い。もちろん川の流れの強さを十分に確かめて川に入ることが必須だ。出来ればロープなど張るほうが良い。

さて、わたしは夏から秋にかけてお気に入りの川へ向かう(土用の丑を過ぎたあたりが一番良い)中流でしっかりと淵がある川だ。淵とは大きな岩場があって、川の流れが緩やかで、水深が浅い場所のことを指す。

水深が深いところへは絶対に行かない。淵があって、岸辺も平たくなっていれば休めるし荷物も置ける。「平たい」ということは安心感に繋がるからとても大事だと思う。

以前、とても綺麗な淵を見つけて「秘密の場所」と喜び勇んで時を忘れて泳いだことがある。でも疲れて休もうと思った時に困った。ちょっとした崖を登らないといけなかったからだ。それは本当に危険だった。

ヨシノボリの恋の駆け引きが見もの

さて、わたしのお目当ては川魚を観察すること。水中眼鏡をかけて腰を曲げて覗き込む。

綺麗な川であれば真っ先に目に飛び込んでくるのはヨシノボリだ。これが実に可愛いのだ。頭でっかちでお目目パッチリのおとぼけ顔で迎えてくれる。全体の形としては小さなナマズだ。

このヨシノボリは流れに向かって川底の小石などにピタッと止まっていることが多い。でも自分のテリトリーが決まっているらしく、他のヨシノボリが入ってくると“追いかけっこ”の如く近寄って追い出す。

そしてまた小石などにピタッと止まる。激しくエラ呼吸しているのが観察できる。まさか侵入者に対して「怒りのアドレナリン全開?」とバカなことを考えてしまう。

いやひょっとしてヨシノボリも「ソーシャルディスタンス」しているのか。もっとバカなことを考えてしまう。

この魚は河川の上流、中流の流れの緩やかな浅瀬でよく見られる。大抵、川底でじっとしている事が多いが、他のヨシノボリが入ってくると“追いかけっこ”の如く近寄って追い出す。

距離を詰めたり離れたりとまるで将棋の勝負をみるような戦略がとても面白い(メスをめぐる駆け引きと思われる)そしてまた小石などにピタッと止まる。激しくエラ呼吸しているのが観察できる。

まさか侵入者に対して「怒りのアドレナリン全開?」とバカなことを考えてしまう。

ヨシノボリを図鑑で調べると国内には9種類が生息しているとのこと。しかも地域変異が多いそうだ。

写真のヨシノボリも冠に何々ヨシノボリと付くはず総称のヨシノボリとさせて頂く。頭がデッカくて葦(水中)の茎を登る程、強い吸盤を持っていることが名の由来らしい。

この魚は子どもが膝まで水に入って捕まえるのに最適な魚だ。

ヨシノボリを捕まえることは簡単だけど観察後は川に戻そう

タモを使う場合はヨシノボリの後ろ側にセットして、前から足で脅かしてやるとすんなり入ってくれる。釣りもできる。糸も針も要らない。

川岸に生えているササを竿にする方法も簡単だ。エサは水中の岩をひっくり返し川虫を見つけよう。川虫をササの先端の葉っぱに結びつけ中腰になり口元に持っていく。

大抵食いつく。食いついたらもう一方の手に持ったタモまで引っ張ってやる。実に簡単で安全。しかも親子で楽しめる最高の遊びである。

しかし、近年ヨシノボリも減少の一途を辿っているという。わたしが小さい頃はたくさん捕まえて家へ持ち帰り佃煮して食べた。醤油辛さが相まってご飯が進んだものだ。

しかし今は川魚を持ち帰ることが難しくなった。地域の漁業権の問題もある。だからヨシノボリを捕まえたらプラケースに入れて観察した後は川へ戻すようにしている。

川に戻ったヨシノボリは例のお目目パッチリのウインクで、メスを探す旅に出るのだろう。


分布●ロシア沿海地方からアジアの熱帯・温帯の淡水から汽水域に広く分布する
生息地●河川や湖沼などに生息
繁殖期●5~8月
大きさ● 50-100mm前後

学名●Rhinogobius(Gill, 1859
和名●ヨシノボリ、カワヨシノボリ他
英名●freshwater goby

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