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週刊リーグアン#8

今回は残念な話題から。現地時間10月8日15時に開催された「モンペリエ×クレルモン」の試合で事件が起こりました。

今季ホーム初白星を狙うモンペリエが4-2でリードしていた後半AT。相手GKディアウの足下にモンペリエサポーターと思われる人物から爆竹が投げ込まれ、その影響でディアウは失神。起き上がることができず、担架で運ばれることに。試合は数分を残して中断されることが決定しました。

日本のサッカーメディア以外でも取り上げられたこの事件はかなり注目を集めました。中断後の記者会見に出席したモンペリエのローラン・ニコラン会長は首謀者を強く非難し、LFP(🇫🇷リーグ連盟)から何らかの制裁(勝ち点剥奪・無観客開催等)が下されることを示唆しました。
*追記:モンペリエ公式Twitterより、LFP規律委員会による10月25日18時(現地時間)に開催される会議によって制裁が決定されるとの発表

事件が起こったゴール裏はモンペリエの熱いサポーターが陣取る場所。OBにローラン・ブランがいたり、オリヴィエ・ジルーがいた11/12シーズンに優勝したことから、サッカー熱はそこそこ高いクラブ。熱狂的と言えども人としてやっていいことには限度がつきものです。

爆発物を規制している国も多いとは思いますが、一応フランスでもスタジアム入場前にボディチェックはします。しかし、大抵の人間はお尻の間や靴の中に爆発物を忍び込ませて巧妙な手口で突破します。

フランスはサポーターが悪目立ちする事件が相次いでいます。ボルドーでは暴行事件により1部昇格をかけた試合が敗戦扱いになったり、マルセイユではサポーター代表の脅迫により監督交代に繋がったりなどといった表立った事件はありましたが、大胆に報道されてないのも含めればその数は手で数えることはできません。

サポーターとは何か」こんなことを考えても現地人に伝わるはずもなく、我々はただボケーっと見るしかできません。しかし、"人の振り見て我が振り直せ" 他人に迷惑をかけない、真っ当な人生を送りたいと思います。

前置きがかなり長くなりましたが(飛ばし推奨)、ここからは通常通り3試合を厳選して振り返っていきましょう。



①今季初の日本人対決実現!

カナダ戦とチュニジア戦を控えた代表活動の前に、フランスでは代表でもクラブでも中核を担う日本人の対決が今季も実現しました。スタッド・ランスの両翼は今節も日本人の2人が担い、モナコの南野拓実は内転筋の怪我から復帰したものの、ベンチスタートとなりました。

相手によってメンバーや布陣を柔軟に変える傾向があるウィル・スティル監督ですが、この試合では前線に2トップとトップ下を置いたモナコのフォーメーションに対し、ここ3試合ほぼ同じメンバーかつ、いつも通りの4-3-3の布陣からの守備をしっかり整えてきた印象がありました。

スタッド・ランスの4-3-3による守備は完全マンツーの形。相手の3バック・ダブルボランチ・トップ下に対して数的同数を作り、狙いとしてミドルゾーンより前で回収してショートカウンターを狙うという戦術がはっきりと現れていました。

スタッド・ランス(赤)のプレス配置図と
モナコ(黒)の回避からの展開

トップ下のゴロヴィンにもアンカーのマトゥシワがしっかり見張り、カウンター時には背後の動きでラインを押し下げるダラミーや、WGがCBを吊り出したハーフスペースをムネツィが狙ったりと、ハイプレスかつショートカウンターを完結させるためのメンバーが揃っていたのが大きかった印象です。

強度の高いプレスに対しては、ニース戦と同様でかなり苦労している印象の今季のモナコ。プレス回避としては、両WBをやや高めの位置に配置して、GKケーンの左足含め、サイドに散らしてからのアクションを増やしていくという方法がありました。

特に左サイド、ヤコブスの元にボールが入った際にチャンネルを狙うバログンの動きや左サイドが本職のゴロヴィンに加え、ベン・イェデルも流れて左サイドに人数を集めて近い位置関係で起点を作っていこうという狙いが見えました。

しかしながら、前半はほとんどスタッド・ランスペース。マンツーマンでハメに行ったプレスからミドルゾーンで回収してカウンターを仕掛けるという戦術は、得点には結び付かなかったものの、準備してきたものがしっかりと発揮されていたと思います。

徐々に逃げ道のWBからの連動で落ち着きを取り戻したモナコは、前半終了間際に“”でスタッド・ランスの守備網を破壊します。

モナコの先制点の構図

ディアッタがカットインのドリブルでデ・スメトのマークを剥がし、ベン・イェデル、ザカリアと連携してハーフレーンに侵入し、クロスを逆サイドからきたヤコブスが決めました。前半の終盤に近づくにつれて、徐々に左サイドに人数を集めて起点を作るムーヴから落ち着きを取り戻していたモナコ。苦しみながらも“個”で守備網を破壊しました。

後半の立ち上がりも、またモナコは“個”で守備網を破壊します。相手のクリアボールを中盤で回収したところから、フォファナが中央を一気にドリブル突破し、右サイドでフリーになったバログンへ。右足の強烈なシュートはディフレクションでネットを揺らしました。

1週間かけて準備してきた守備設定を個によって破壊されたスタッド・ランス。今季は前後半でのパフォーマンス差(後半が悪くなってくる)が懸念されていますが、一度設定した守備網の中でズレが生じると、全体の足取りが重くなってしまうのは明確な課題です。焦って点を狙いに行きますが、逆に中盤が間延びしてしまい、カウンターリスク設定が迂闊になったところで決定的な3点目を与えてしまいます。

この3点目を与えた直後にキャプテンのアブデルハミドを中心とした円陣を行い、マインドリセットしたスタッド・ランス。57分に散々形として狙っていたムネツィのハーフレーン侵入からPK獲得。テウマが決めて勢いを取り戻しましたが、反撃はここまで。守備設定がうまくハマっていた前半のうちにショートカウンターで決定機をものにしていれば、結果は変わっていたでしょう。

内転筋の怪我から復帰した南野拓実は73分から途中出場。日本代表戦士3人による日本人対決が実現しました🎉 南野拓実はトップ下で相手の間伸びした中盤のスペースを軸にカウンターの起点を作り、得点には結び付かなかったものの、勝利に貢献しました。メンバー変更による遅攻のアイディア不足という課題はあるものの、前節同様に一発で取ることができる個の強さは健在です。今後は相手によって前線を中心に複数の攻撃的なオプションがあるのは、どのチームにとっても羨ましいことでしょう。



②両監督の戦術的アプローチの違い

ダービー前日にリロワがスプレーで各所を荒らす先制攻撃や、当日はRCランスの前キャプテンのセコ・フォファナが応援に駆けつけたり、リールの選手に対してのランソワによる物を投げる妨害行為など、例年通り多くの話題を集めた[Derby du Nord]。

アーセナルを撃破し、勢いに乗るRCランスがホームの圧倒的な声援を背に、明確なマーク設定のもとでエネルギッシュに戦いました。

RCランス(黄)の守備設定

上記の図のように、短い期間で相手のビルドアップを研究し、効率的なプレス配置を設定してきたRCランス。リールというチームが昨季からフォンセカ監督によって、ボールを保持するチームに生まれ変わっている事実から(昨季支配率はリーグ1位)、持たれることを想定しての戦術的アプローチを取りました。ボールを持たれながらも主体性を維持し、ホームの声援を受けて相手陣内で回収してカウンターに人数をかける戦い方は前半40分までは100点に近いパフォーマンスができていた印象でした。

昨季のStade Bollaert-Delelisで行われたこのゲームでもRCランスのアプローチに悩まされたリール。カウンターリスクを考慮して、今季は3バック+ダブルボランチの作りから4バック+ダブルボランチの作りに挑戦していますが、この試合では相手の圧に押されて、GKシュヴァリエ含めてロングボールを蹴るしかないといった状況が続きました、気を利かせてRWGのジェグロヴァが中寄りに動いて、後ろを助けて1タッチで前線へ、という動き出しを見せていましたが、思うようにつながらず。

プレスとネガトラの脅威が光るRCランスが猛威を振るうも、得点することができずに迎えた前半ATに試合は動きました。徐々にRCランスのプレスに対応できるようになり、流れを掴み始めたリールがCKから先制点を取りました。今季のリールはコンパクトなゾーンディフェンスにかなり手こずる様子が見受けられましたが(ブライトン同様)、セットプレーで得点できる強さを兼ね備えているのがこのチーム。キャプテンのアンドレが頭で決めて、一気に形成逆転につながりました。

リールが前半終盤から巻き返したのは、フォンセカ監督による戦術的アプローチの変更。あえてディフェンスライン・中盤と前線の間に大きなギャップを作ったところで前進がうまくいかなかった状態を、前線の選手を下げてギャップを埋めることでボールがつなぎやすくなり、簡単に相手陣内で仕掛ける体制が整いました。

リール(青)の配置変更

フォンセカ監督は後半の立て直しの巧みさがあることを昨季は証明した有能監督ですが、限られたメンバーでの立て直しに成功させたその手腕はさすがでした。

一方で設定したプレスが徐々にハマらなくなり、スタジアムが少し静寂に包まれたRCランス。この流れを引きずりかねない状況でしたが、そこはさすが昨季最優秀監督賞を受賞したフランク・エーズ監督でした。60分台にマチャドとギラヴォギに加えて、ミッドウィークのアーセナル撃破の立役者である、トマソンとワイを投入し、再びスタジアムを盛り上げます。

結果として、この交代が実ったのは投入されてすぐの70分でした。中盤でボールを回収したところから、右サイドの回ったフランコフスキの楔を受けたワイが1タッチで右大外のギラヴォギへ。後ろを回ったフランコフスキのクロスに逆サイドからマチャドが折り返しました。トランジションの強度及び欠けていた闘争心を交代選手によって復活させたRCランス。現有戦力で流れを変えたフォンセカ監督に対し、エーズ監督は交代選手によって再び盛り返しました。

両監督の柔軟な戦術的アプローチの変更が光ったダービーはお互い譲らずにドロー決着。ここ最近は新機軸によって上昇傾向のRCランスと、最近は波があるリールの対決はどちらも絶対勝つという意地が見えました。この流れをインターナショナルマッチデーによって遮られるのは残念ですが、週が明けてから再び両者は褌を締め直すことができるのか注目です。



③ヨーロッパ舞台の反省は何処に

両者共にミッドウィークに開催されたヨーロッパの舞台では、残念な結果に終わったレンヌPSGの対戦が第8節の最後に待っていました。

久しぶりに4-3-3に変更してきたPSG。ルイス・エンリケ監督の志向するポジショナルプレーは部分的に現れている印象でした。

レンヌ(赤)の守備配置とPSG(白)の回避からの攻撃展開

4-3-3のミラーゲームになることが予想されたこのゲームは、4-3-3布陣のままプレスに行きカウンターに繋げるレンヌと、空間察知能力の高いヴィティーニャを軸としたプレス回避からの逆サイドからのフィニッシュワークというPSGの攻防が続きました。

PSGのダブルボランチにそのままボランチを当てたレンヌの守備に対し、左斜めのポジションをとるヴィティーニャがCBオマリを引き付けながらプレス回避に貢献し、左サイドのトライアングルを起点作りに活かし、逆サイドに展開してフィニッシュに至るという狙いがはっきりとしていました。

この流れをそのまま体現化したのが1点目のシーン。左→右に展開したところから古巣対戦となったデンベレのカットインのドリブルから、逆サイド左斜め45度でフリーになっていたヴィティーニャの素晴らしいミドルが決まりました。

2点目もほぼ同じように、今度は右→左に展開したところから、背後に走ったハキミ宛への左サイドのザイール=エメリの空を通すパスが通り、ハキミがヘッドで流し込みました。直前のバックパスで相手のラインを少し上げたという影響もあり、ボールウォッチャーになりすぎていたレンヌの守備を嘲笑う、ラインを上げさせた瞬間の背後への1タッチパス(マンチェスターシティが得意な形)で早々にリードを広げました。

先制点を許すまでは割と一進一退の攻防に運べていたレンヌ。カウンター時は、右はブラスの質的優位、左はハーフレーン狙うリーダーの動きを絡めた流動的なトライアングルで幅をとるWGを中心にゴールに迫りました。

しかし、ジェネジオ体制のレンヌの最大の懸念点は悪い雰囲気をそのまま引きずってしまうこと。前半30分以降は守備時にボールウォッチャーになる選手が多く、ロアゾン・パークも無音に近い状態のように感じました。昨季は対PSG用に5-4-1の守備的なアプローチで幅を使った攻撃で少ないチャンスをモノにする戦い方でシーズンダブルを達成しましたが、ディフェンスラインの層が薄い影響もあってか基軸の4-3-3で挑みました。

今節の戦い方も根本的な部分は変わらないものの、守備時の集中力の欠如と、立て続けに失点したことで自分たちの首をきつく締めてしまったことが敗因として挙げられてくるかと思います。

私はヨーロッパ戦線はハイライトでしか見ていないのですが、PSGのニューカッスル戦の惨敗を踏まえて、早急に改善しなければならない点が今節でも健在していたように感じました。それは1点を献上したシーン。

今季のPSGのビルドアップ配置図とその狙い
=結果的に失点に繋がった

ビルドアップの配置は4-2-1-3気味の配置から。その狙いは図を見ていただければ何となく想像できるかと思われますが、ゴールキックスタートからのビルドアップはヴィティーニャではなく、ゴンサロ・ラモスを起点とした右サイドから始めることがしばしばあります。

ゴンサロ・ラモスはハーフレーンから主にハキミからのパスをレイオフの動きで1タッチではたいて、それにダブルボランチが反応するという1つの形がありますが、56分にはそのゴンサロ・ラモスからのリュカ目掛けた1タッチパスがつながらず、自陣でピンチを迎えてそのまま自滅につながりました。

この失点は最後の形こそ違えど、ニューカッスル戦でゴンサロ・ラモス宛へのパスでファビアン・シェアに回収されてそのまま豪快ミドルで決定的な4点目に繋がったシーン。ゴンサロ・ラモス1人に押し付けるには可哀想な失点パターンですが、同じ誤ちを短い期間で繰り返してしまったことは猛省すべき点であると思います。

他にも危惧されている部分はいっぱいありましたが、今回はこの辺で留めておいて、またその不安点が顕著になったら綴ろうと思います。



今節の結果まとめ

2023/10/07
ストラスブール 1-2 ナント

2023/10/08
メス 0-1 ニース
スタッド・ランス 1-3 モナコ
マルセイユ 3-0 ル・アーヴル
ブレスト 1-1 トゥールーズ
リヨン 3-3 ロリアン
モンペリエ (中止) クレルモン

2023/10/09
RCランス 1-1 リール
レンヌ 1-3 PSG

ガットゥーゾ新体制初勝利を飾ったマルセイユ。同じくグロッソ体制ホーム初陣となったリヨンは逃げ切りに失敗し、勝ち切れず。モンペリエとクレルモンの試合は先述の通り、中止扱いとなっています。


第8節終了時点での現在の順位がこちらです。



次節の注目ゲーム

インターナショナルマッチウィークを挟んで、第9節の試合で注目しているのは「リヨン×クレルモン」です。

ただ単純に下位争いということではなく、這い上がる姿勢をどちらがより強く示してくれるのか、という視点で楽しむには十分な試合です。というのも、フランス屈指の名門リヨンはともかく、クレルモンは昨季8位に躍進したチームが今季は未勝利の苦しい状態が続いています。

Bチームからこのクラブの面倒を見てきたガスティアン監督が今季限りでの退任を明言していることから、モチベーションの低下等につながっているかもしれないというのが憶測としてあります。しかしながら、行なっているフットボールの質・内容は共に悪くなく、何か浮上のきっかけを掴みさえすれば容易に上位に復帰できると思います。また、モンペリエ戦ではアクシデントもありましたが、当事者のディアウはセネガル代表にも参加しており、彼を助けるためにも勝ち点3が欲しい試合です。

ファビオ・グロッソが監督になってからもまだ暗闇から抜け出せていないリヨン。前節は失点した直後にすぐさま逆転に成功し、前半終了時点で3-1とリードしましたが、そのリードを守りきることはできず。昨季はほぼ全試合配信されていたDAZNにも強豪としての見切りをつけられたからなのか、せっかく今季初勝利になりそうだった試合は配信されませんでしたが、現段階ではクレルモン戦はDAZNで配信予定となっています。

繰り返しますが、ただの下位争いではなく、今季の行方にも関わってきそうなこの1戦。昨季は終盤のPKでクレルモンがアウェイで下剋上を果たし、そのままシーズンダブルを果たした組み合わせ。早朝の1戦にぜひ注目していただきたいと思います。



23/24 リーグアン 第9節日程(日本時間)

2023/10/21
 4:00 ル・アーヴル×RCランス

2023/10/22
 0:00 PSG×ストラスブール
 4:00 ニース×マルセイユ
20:00 ロリアン×レンヌ
22:00 リール×ブレスト
22:00 ナント×モンペリエ
22:00 トゥールーズ×スタッド・ランス

2023/10/23
 0:05 モナコ×メス
 3:45 リヨン×クレルモン

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