見出し画像

週刊リーグアン#9

先々週私は新潟にて日本代表の試合を久しぶりに生観戦しました。個人として良い週末を過ごすことはできましたが、サッカー界に目を向ければ賭博問題、世界的にはパレスチナ問題が深刻化したりと、ここ近年は世界情勢は安定性を欠いているように感じます。

連日報道されているニュースはただ単に「対岸の火事」とは思えず、自分自身は非力ながらこういった情勢に真摯に向き合って吟味していく姿勢だけは揺るがないように心がけたいと思います。

前回に引き続き、少々暗い話題で始まってしまい、申し訳ないのですが、ここからはインターナショナルマッチウィークを挟んでのリーグアン第9節を振り返っていきましょう。




①拮抗は退場劇のすぐに崩れて

今節の最大の注目試合は何と言っても、「ニース×マルセイユ」。地中海に面するフランスの大都市をホームタウンとする両者の対決は[Derby de la Mediterranée:地中海ダービー]と言われます。*本来はOGCニースとコルシカ島のSCバスティアの対戦の際に使われる。

PSG・モナコとの厳しいゲームを制し、今季ここまで無敗のニース。前節に闘将ガットゥーゾに初勝利をプレゼントしたマルセイユ。インターナショナルマッチを挟みながらも、お互いに期待感を抱かせながら臨むことができた試合だったと思います。

結論から言うと、この試合はかなり拮抗した試合でした。拮抗しすぎてなかなかお互いの持ち味が出せなかったという印象が強く残りましたが、戦術ボードではお互いの意図について紹介していきます。

ニース(赤)のビルドアップとマルセイユ(青)の守備配置

最終的なスタッツに、支配率が50:50となったように「持ったり・持たれたり」の展開が続いた90分。ニースは上記の配置から、主に左サイドのトライアングルで起点を作り、ゴール前まで運んでいこうという姿勢が見えましたが、危険なシーンはほとんど作れず。4+3のビルドアップに手詰まりを感じた時は、トップのモフィが降りてきてダンチの縦パスを引き出しサイドにはたいて打開しようという試みがありましたが、あまり効果的にならず。逆にマルセイユも4-4-2のゾーンディフェンスをうまく連携させながら相手の苦手な遅攻の展開に運べていたと思います。

ニースの攻撃の狙い
マルセイユの攻撃の配置

マルセイユも右サイドに人数を集めて、バレルディの正確な対角のパスから始まり、数的優位を作りながら攻める形は整っていたものの、守備時にエンダイシミエを下げる5-4-1の徹底したニースのブロックにガットゥーゾ体制で取り組んでいる1タッチの繋ぎも希薄でチャンスを作ることができませんでした。

前半のxG(ゴール期待値)も0.11:0.16となったように言ってみれば拮抗というより、お互いが手詰まりを感じすぎた塩試合。73分に迎えたオーバメヤンのこの試合最大の決定機もネットを揺らすことができなかったため、ムードとしてはこのまま引き分けになるだろうという風になっていました。

しかし、今季は勝利の女神に微笑むことが多いニース。バレルディが不運な2枚目のイエローカードをもらい、相手が10人になったところのFK。直前にモフィと同じ役割をファリオーリ監督から与えられたゲサンがボガのFKに合わせました。ニースにとっては今季初のセットプレーからの得点。遅攻が苦手なチームだけに、今後はセットプレーの強さというのも磨いていかなければならないとは今季感じていましたが、まさかダービーで実るとは、、。結局このヘディング弾が決勝点となりました。PSG、モナコに続いて難敵をまた撃破したニース。テュラムやディオプを欠いた試合でも、底力の強さを発揮しました。

バレルディのやや可哀想な2枚目退場という不運もあり、拮抗した試合を拮抗で終わらせることができなかったマルセイユ。ガットゥーゾになってからマルセリーノ政権で冷遇されていた選手たちが活気を取り戻しているのは朗報ですが、こういった1点の重みが深い試合では9番の強さというものが必要になってくるかと。PSG、モナコ、ニースというダービーを戦うアウェー3戦はいずれも悔しい結果となりましたが、次節は意地でも負けてはいけない試合が控えています。



②理想よりも“現実” 守備時でも主体性の発揮

若手指揮官が目立っている昨今のリーグアンですが、個人的に注目しているのはこの2人。まず、昨季12月にモンタニエ監督のアシスタントコーチとして採用され、カップ戦優勝に貢献し、その力を評価されて今季から監督になったトゥールーズのカルレス・マルティネス監督。もう1人は、昨季途中で暫定監督に就任するとW杯中断期間にチームを再編し、リーグ戦19試合無敗という驚異的な記録を打ち立てたスタッド・ランスのウィル・スティル監督。

どちらも監督業界の中では若手に見られる2人ですが、若いからこその選手たちとの向き合い方・チーム作りにかなり配慮していると感じます。ラ・マシア指導経験のあるマルティネス監督はスペイン人らしく、ポゼッションを主体とした魅力的なサッカーを披露するかと思えば、今夏の移籍市場でかなりメンバーが変わり、若い選手が多くなったことを考慮して、1試合ごとにかなり入念に守備の戦術を練り込み、そこからどう攻撃に繋げていくかといった姿勢が感じられます。昨季の主力が抜け、新顔が多い状況の中で監督のエゴを出さず、「守備ありきの考え方」で理想より“現実”を重んじるマルティネス監督。同じことがスタッド・ランスの試合を見ていても、ウィル・スティルに刺さると思います。

さて、この注目の両指揮官が対決した試合はまさにその監督同士の考え方がはっきり現れた試合となりました。

トゥールーズ(紫)の守備とスタッド・ランス(赤)の攻撃の狙い

中村敬斗含めた複数の主力が離脱中のスタッド・ランス。この試合では5-3-2を採用しましたが、50分まではしっかり機能していたと思います。アンカーのエドアを消し、中盤はゾーン基軸から、それより前はややマンツー気味の守備配置をとるトゥールーズに対して、スタッド・ランスは序盤こそ苦労しましたが、降りてCBサポートする伊東含め、徐々にRWBのフォケの左足の中盤めがけたパスからスムーズに突破することができるようになりました。

中央付近で従来よりプレーエリアが広がった伊東純也は脅威そのもの。チャンスメイキングや自らも鋭いシュートを魅せるなど、オスカル・ガルシア政権でやっていたように、ただ足が速いだけでない、かなり器用な選手であることを我々に感じさせてくれました。また、彼の右足から放たれるCKは、ハイボール処理に不安が残る相手GKレステスのギリギリ出られないファーサイドを狙い続けるといった戦術も窺えました。

一方、いつも通り我慢強く守備を行いながら主体性を見出していく姿勢のトゥールーズ。プレスの打開策を見つけられてからは、中盤の数的不利を使われ、ポストに救われる場面が続くなど、やや苦労しました。カウンターとしては、両WGで脇のCBを引きつけて(ドンナムがアブデルハミドを引きつけ、空いたハーフレーンにダリンガ)少数精鋭で運んでいく姿勢をとっていましたが、徐々にボールを握れる展開に繋がりました。

トゥールーズの攻撃時の配置と狙い

アンカーのシエロが下がり、可変型3バックでビルドアップをするトゥールーズ。相手2トップの脇から特に右サイドから運ぶCBのL・コスタの動き含め、右サイドに厚みを持たせながら遅攻を工夫しました。左サイドはヘラベルト🇪🇸、スアソ🇨🇱の同じ言語同士の関係性を最大に活かし、基本的に2人の見で完結させる左サイドはクオリティも申し分ない連動でした(背後をカバーするシエロ🇨🇱、カセレス🇻🇪も同じ言語)。

お互いに相手ゴールキックのリスタートの際はマンツーではめて、高い位置から仕掛けていくといった守備時においての主体性をかなり大事にしていた印象。もはや守備している時も攻撃しているかのような勢いを感じさせてくれましたが、この緊張感高まる試合を最初に打ち破ったのはスタッド・ランスでした。いつもの右サイドの伊東とフォケの関係性から伊東が大外右からボックス内へ侵入し、ダラミーへのパスは通らずも、クリアミスをリシャルドソンが左足で合わせたシュートはディフレクションでネットを揺らしました。

せっかく耐えた前半の流れを後半早々に無駄にしてしまった感が漂い、一部サポーターからブーイングも飛び交ったトゥールーズ。しかしながら、同点はあっという間に達成されました。左サイドのスアソのクロスに、またしても前線に上がっていたL・コスタの頭の繋ぎにダリンガが合わせました。最初はオフサイド判定でしたが、VARによってゴールが認められました。ロリアンの206cmのCBイサク・トゥレ戦術のように、序盤から競り合いに強いCBのL・コスタを前線に上げる攻撃的スタイルは今後の武器になるのは間違いないでしょう。

この勢いを消さないために、66分に前線を入れ替えフレッシュでエネルギッシュな選手を入れたことで同点後はトゥールーズのペースに。慌ててウィル・スティル監督も守備的な選手を入れて流れを盛り返そうとしますが、色んな意味でハイレベルな指揮官対決はドローに終わりました。

トゥールーズは守備を最優先する戦術から攻撃時の工夫含めて、徐々にレベルに合った戦い方を浸透させてきている印象がありました。木曜日にはリヴァプールとの難しい試合が待っていますが、結果以上に意地を見せてほしいと思います。同点後は苦しんだスタッド・ランスですが、守備的な選手の投入がありながらも、77分からカドラを相手のギャップを突くトップ下気味に置いた采配はゴールには結び付かずも、脅威にはなりました。中村敬斗はしばらく復帰できそうにないですが、限られた戦力の中で何とか最適解を見出すウィル・スティル監督の引き出しの多さを実感した試合でした。



③“個”でぶん殴る強さはリーグトップ

日本代表の復帰試合を終えて、久しぶりにクラブでも先発復帰を果たしたモナコの南野拓実。DFの離脱者の多さから急造でクレマン政権以来となる4-4-2の右サイドでスタメン入りしました。対戦相手となったメスはここのところリーグ3連敗中。さらにその敗れた3試合はいずれも得点ができず、少しリーグアン残留に翳りが生じています。

モナコ(赤)の攻撃時の配置とメス(黒)の守備時の配置

4-5-1のブロックで、いわゆる“ドン引き体制”をとるメス。対してモナコは両SBを高めに配置してほぼ2バックのような状態で押し込むように。アンカーにはカマラではなく、カマラより縦パスを通せるフォファナをアンカーに置いて打開策を図りました。この試合の南野はハーフレーンでプレーするのは通常通りながら、薄い背中のサポートを考慮してか、序盤はいつものターンで前向きの体制を作る動作は消極的でした。

リーグアン歴代4位の記録となるラミヌ・カマラの58.4mの超ロングシュートのきっかけは、下がってボールを引き出した南野とバックパス先のフォファナとのコミュニケーション不足から。かなり押し込む体制だったためにGKケーンもかなり前めのポジションを取っていたからこその得点だったかもしれませんが、まずはラミヌ・カマラを褒めるべきでしょう。

たとえ1点リードしていなくとも、メスはずっと同じ戦術を取っていたに違いありませんが、この試合では相手のSBが高めの配置をとっていたことで、カウンター時にWGがその裏のスペースを突くというシンプルな形に運ぶことができました。守備時も低いブロックで固めて、モナコを徹底的に苦しめました。

しかし、このままで終わらないのが今季のモナコ。ポストプレーではなく、足元で受けるのが得意な2トップを並べていたことで、低いブロックを崩すのにかなり苦労しましたが、42分にスローインの流れから左斜め45度のお得意の角度からゴロヴィンのコントロールショットが決まりました。スーパーゴールにはスーパーゴールでお返しを。先制点を与えてしまう諸刃の剣が課題として挙げられていますが、またしても劣勢を“”で打開しました。

後半からカマラを下げてアクリウシュを投入したモナコは、2-1-5-2という前代未聞の布陣に。おそらくマンチェスターシティぐらいしかやらなそうなこの布陣によって後半早々にリードを奪うことができました。勝ち越し点を決めたのはまたしてもゴロヴィン。ウキジャのニアを抜くFKはポストの内側に当たってネットを揺らしました。

モナコの後半の攻撃時の配置

急造4-4-2で勝ち点3を獲得したモナコ。4-4-2が最終的には2-1-5-2にまで変化していましたが、かなり硬いブロックを個で打開しました。近頃急成長しているアクリウシュはもちろん、今季から背番号7に変更したベン・セギルもこの試合で復帰しており、DFの薄さは心配ながら前線には豊富なタレントが揃ってきました。南野拓実も79分までプレーし、徐々に安心感を覚えて得意のターン等で好機を演出しました。昨季と同じ4-4-2、右のハーフレーンの器用といえども、監督が変わればこれほどまでに変わるものなのだと実感しました。

今季のモナコの象徴は、繰り返し言うように、「“個”でぶん殴る強さ」。ルイス・エンリケが監督になり、様々な戦術の落とし込みを図っているPSGは「機械的な強さ」に対して、モナコはどんな状況・相手の戦術であろうと、テクニックで破壊してしまう強さがあり、これはリーグアンの中では他に見当たりません。色々守備に課題はありますが、フルメンバーが揃ったらこのチームを止めるのは並大抵の力では不可能に近いでしょう。

これでリーグ4連敗となったメス。4試合ぶりに得点することができましたが、それもスーパーゴールによる1点。得点能力に長けているチームではありませんが、やはり昨季得点王ミカウタゼの存在の大きさが日に日に増していると思います。ただ、この試合に限って言えば、相手が攻撃に全振りした状態だったため、先述のカウンターで仕留めたかった悔しさはあるでしょう。ただ、上下動含め両WGにはかなりの負担を強いられているという印象を受けました。次節はル・アーヴルとの昇格組対決。自分たちの方が直近までリーグアンを戦っていたという意地をどこまで見せつけることができるでしょうか。



今節の結果まとめ

2023/10/21
ル・アーヴル 0-0 RCランス

2023/10/22
PSG 3-0 ストラスブール
ニース 1-0 マルセイユ
ロリアン 2-1 レンヌ
リール 1-0 ブレスト
ナント 2-0 モンペリエ
トゥールーズ 1-1 スタッド・ランス

2023/10/23
モナコ 2-1 メス
リヨン 1-2 クレルモン

PSGは2試合続けての3得点での快勝。今季4試合目となった[Derby Breton]は“戦術イサク・トゥレ”でロリアンが競り勝ちました。裏の天王山となった最下位争いではクレルモンが2年連続でアウェーでリヨンに勝利。グロッソと選手の間の不和も報道されるようになってきました。


第9節終了時点での現在の順位がこちらです。



次節の注目ゲーム

次節の注目試合は何と言っても「マルセイユ×リヨン」で間違いないでしょう。一応前節に取り上げたチーム以外で注目試合を探そうと務めていましたが、今回はそういうわけにはいきません。共に名前に[Olympique]と付く両者の対戦は、[Choque de Olymiques]や[Derby des Olympique]と表現されますが、最近は[l’Olymipico]と表現するのが主流です。

2000年代初頭から着実に力をつけ始め、リーグアン7連覇という記録を打ち立てたオランピック・リヨン。対して、[JPP(ジー・パー・ペー)]ことジャン=ピエール・パパンがいた1980年代後半〜90年代初頭を全盛期とし、リーグアンの情熱ことオランピック・マルセイユ。フランスの大都市をホームタウンとする両者の対決は2000年代からヒートアップしてきましたが、各々がどんな境遇であろうとも、敗北という2文字は決して許されないのがこのダービーです。

公式戦では計121試合でリヨン42勝、マルセイユ38勝、40の引き分け。やや拮抗していますが、今の状態からするとマルセイユが有利であるというのが大方の見解です。

今季はさらにこのダービーを盛り上げる要素の1つとして、リヨンにファビオ・グロッソ、マルセイユにジェンナーロ・ガットゥーゾという、2006年W杯優勝に貢献したイタリア代表の名選手である2人が監督として異国の地であい見えます。今節はお互いに悔しい敗戦となりましたが、マルセイユはダービー続きの苦しい状況をヴェロドロームの熱狂と共に乗り切れるのか、リヨンは最悪な現在の状況をダービーを皮切りにチームが一丸となれるのか、要要要注目です!



23/24 リーグアン 第10節日程(日本時間)

2023/10/28
 4:00 クレルモン×ニース

2023/10/29
 0:00 スタッド・ランス×ロリアン
 4:00 RCランス×ナント
21:00 ブレスト×PSG
23:00 リール×モナコ
23:00 メス×ル・アーヴル
23:00 モンペリエ×トゥールーズ

2023/10/30
 1:05 レンヌ×ストラスブール
 4:45 マルセイユ×リヨン

この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?