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定点観測 フランス🇫🇷代表

記憶に新しくない高校時代。部活終わりの部室にて1人の後輩とテニスの大阪なおみ選手に関する話をしていたところ、もう1人の後輩から「誰かを応援する気持ちがわからない。だからスポーツなんて見ない」という言葉を投げかけられたことがあります。その時はムッとしたわけでもなく、なぜか「ああ、そうだよね」と思ってしまいました。

我々が健常に日々を過ごしていることが当たり前ではないということと同じように、誰かを応援したくなる気持ちが湧き起こるのは当たり前ではありません。某アナウンサーがおっしゃていた「応援とは至福と苛立ちである」という言葉は個人的に好きな言葉で、誰かを応援したくなる感情が必然的でないからこそ、応援していること・それに応えてくれることにより一層感謝しなければならないと感じます。

応援しているもので言えば、私が日本代表の次に情熱を注いでいるのがフランス代表🇫🇷です。2014年W杯あたりからデシャン政権のレ・ブルーを追っていますが、思い返せば苛立ちよりも至福が多かった約10年間だったと感じています。

今月のコラムは2022年カタールW杯以降のフランス代表の定点観測と題して、現状整理を行なって行きたいと思います。



英雄の引退と新たな主将

カタールW杯においては、故障者だらけの状況の中で大会2連覇まであと一歩というところでした。2022年W杯までの契約期間だったディディエ・デシャンは次のW杯まで契約延長。後ろにはあの大物がその椅子が空くのを待っている状況でしたが、W杯2大会連続で決勝に導いた監督を交代するのは不可思議な話です。

デシャン政権存続と共にカタールW杯以降に発表されたのが、ラファエル・ヴァラン、カリム・ベンゼマ、スティーヴ・マンダンダ、ユーゴ・ロリスというフランス代表を長年支えてきた英雄たちが代表を引退してクラブチームに専念するこという決断でした。(写真は現役引退を発表したブレーズ・マテュイディと共に)


特にデシャン政権をずっとキャプテンとして最後尾からチームを支えてきたロリスの引退後は誰がキャプテンに就任するのかといった話題が注目を集めました。当初はそのキャラクターがみんなから愛されており、ピッチにおいても貢献度が桁違いのアントワーヌ・グリーズマンが就任するのではないかと噂されていましたが、デシャンは現代のスーパースターであるキリアン・エンバペにロリスのバトンを渡しました。

新主将 キリアン・エンバペ

この判断にさすがのグリーズマンも落胆の意を隠せない様子でしたが、デシャンの説得と共に2人で話し合い、今後もフランス代表を支えていく決意を固めました。確かにカタールW杯決勝のハーフタイムのロッカールームにて、仲間を鼓舞するリーダーシップが芽生えた様子が今回の主将就任に繋がっていることは間違いなく、デシャンも期待よりかは責任を持って欲しいという願いを込めたと考察します。

「グリーズマンと話をした。彼はガッカリしていたし、それは理解できる。普通のことだ。僕だって同じリアクションをしただろうと彼に伝えた。おそらく彼はデシャン監督のチームで最も重要な選手だ。

 僕が彼に言ったことは、僕がキャプテンで彼が副キャプテンを務めているが、それは上下関係ではないということだ。彼には経験があるし、チームのみんなから愛され、尊敬されている。彼の経験を生かさないのは残念なことだ。彼が何か言いたいことがあれば、僕は座って話を聞く。誰に対しても扉を閉ざすべきではないし、言いたいことがある選手もいるだろう。誰だって各々を表現するための自由がある、フランス代表は誰のものでもない。」

キリアン・エンバペ 2023/03/24『RMC』より



W杯以降の歩み ユーロ予選・親善試合

EURO予選 グループB 第1節
vsオランダ
🇳🇱 ○4−0
(得点者:グリーズマン、ウパメカノ、エンバペ×2)

2023/03/25
🏟Stade de France🇫🇷

W杯明け以降初の代表戦かつエンバペ新主将のお披露目となった試合。来年のEUROに向けての予選にていきなり強豪オランダと相見えることとなった1戦。試合はショートカウンターから開始2分で先制点を得ると、セットプレーや得意のカウンターで大量4得点で快勝しました。新主将エンバペが7万人を超えるファンの前で期待通りの活躍を見せました。


EURO予選 グループB 第2節 
vsアイルランド
🇮🇪 ○0-1
(得点者:パヴァール)

2023/03/28
🏟Aviva Stadium🇮🇪

海を渡って迎えた第2節アイルランド戦はかなり苦しんだ試合展開になりました。運動量豊富な中盤とCFファーガソンを軸とした三線速攻を得意とするアイルランドのカウンターの脅威に晒される場面がいくつもありましたが、試合は50分のパヴァールの美技ボレー弾が決勝点に。チーム内に「パヴァール不要派」が存在するのではと噂されていた状況の中で得点に絡み、正守護神メニャンが2試合続けて終盤にビッグセーブで連勝に貢献しました。


EURO予選 グループB 第3節 
vsジブラルタル
🇬🇮 ○0-3
(得点者:ジルー、エンバペ、OG)

2023/06/17
🏟Estádio Do Algarve🇵🇹

ジブラルタルではなく、周辺国ポルトガル南部にて行われたこの試合。トータルの支配率が82%、総シュート本数31本、ゴール期待値(xG)3.80という脅威的な記録を生み出したのは相手を見ればそんなに驚くべきことではありませんが、ほぼハーフコートサッカーのように攻めに攻め続け、3発完封。28歳にして代表初招集となったGKブリス・サンバが代表初キャップを刻みました。


EURO予選 グループB 第4節 
vsギリシャ
🇬🇷 ○1-0
(得点者:エンバペ)

2023/06/20
🏟Stade de France🇫🇷

各国リーグや移籍市場の開幕前最後の代表戦。前半からチャンスを迎えるも決めきれずにいた中で迎えた後半49分。相手DFがクリアしようと足を上げたところにグリーズマンの頭と接触し、PK獲得。エンバペは一度外したように思えましたが、VARにより蹴る前にGKがラインを離れていたことによるやり直しPKで先制。70分以降は相手が10人になったものの、結局この1点が決勝点に。


EURO予選 グループB 第5節
vsアイルランド
🇮🇪 ○2-0
(得点者:チュアメニ、マルクス・テュラム)

2023/09/08
🏟Parc des Princes🇫🇷

国内でラグビーワールドカップが開幕した影響から、いつものStade de Franceではなく、PSGのホームParc des Princesで行われた一戦。相手が低いブロックを敷いた中で攻め手に苦労しましたが、19分のチュアメニのスーパーミドルと共に、後半には途中出場のマルクス・テュラムが追加点。直前のフィオレンティーナ戦では画像のゴールパフォーマンスに誰も乗ってくれませんでしたが、代表ではグリーズマンが陽気に応えてくれました。


親善試合
vs ドイツ
🇩🇪 ●1-2
(得点者:グリーズマン)

2023/09/13
🏟Signal Iduna Park🇩🇪

2023年度初の親善試合の相手となったのは、直前の試合で我らの日本代表に1-4の大敗を喫し、ハンジ・フリック監督が解任されたドイツ代表。ルディ・フェラー暫定監督のチームを相手に、フランスはキャプテンのエンバペを休ませる判断。4-4-2で臨んだ一戦はお互いに探りの時間がほとんどでしたが、立ち上がりと終盤に失点してW杯以降初黒星となりました。


EURO予選 グループB 第6節
vs オランダ
🇳🇱 ○2-1
(得点者;エンバペ×2)

2023/10/14
🏟Johan Cruijff Arena🇳🇱

予選において最難関と予想された強豪オランダのアウェー戦。しかしながら、開始7分でエンバペ主将のボレー弾で先制。アシストしたのはクロウス。前者は直近4試合で点が獲れず、後者は久しぶりの代表戦という状況の中でまさに「ゴールが欲しい人」「アシストが欲しい人」の関係性で打破。嗅覚を取り戻したエンバペは53分に追加点で勝利に貢献し、チーム予選突破を確定させました。DAZNでは両国にゆかりのなさそうな北川アナウンサーが実況していたのも良い思い出です。


親善試合
vs スコットランド
🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿 ○4-1
(得点者:パヴァール×2、エンバペ、コマン)

2023/10/18
🏟Stade Pierre-Mauroy🇫🇷

親善試合2試合目の相手となったのはユーロ予選で好調のスコットランド。その勢いのままに11分に先制を許しますが、この日フランス最北端の都市リールで開催された一戦で相当気合が入っていたのがパヴァールとメニャン。両者共にLOSCリールでプロデビューを飾った経歴があり、ゆかりの地で特にパヴァールはDFながら2得点を挙げて地元への恩返しを果たしました。


EURO予選 グループB 第7節
vs ジブラルタル
🇬🇮 ○14-0
(得点者:OG、マルクス・テュラム、ザイール=エメリ、エンバペ×3、クロウス、コマン×2、ユスフ・フォファナ、ラビオ、デンベレ、ジルー×2)

2023/11/19
🏟Allianz Riviera🇫🇷

ハーフタイムのデシャンの「最多得点記録は10-0だぞ」という言葉に刺激を受けて、それ以上の記録を打ち立てた一戦。エンバペのハットトリックや39本のシュート本数(xG 6.98😱)による14点という結果以上に注目を集めたのが、17歳でA代表に飛び級入りしたワレン・ザイール=エメリ。U21代表で腕章を巻いていた彼がサプライズ招集され、スタメン起用に加えてゴールという形で自身のメモリアルな一日に花を咲かせました。


EURO予選 グループB 第8節
vsギリシャ
🇬🇷 △2-2
(得点者:コロ・ミュアニ、ユスフ・フォファナ)

2023/11/22
🏟OPAP Arena🇬🇷

予選全勝が懸かった最後の1戦。エンバペをスタートから外して臨んだ一戦では42分にコロ・ミュアニがW杯以来となる得点で先制に成功するも、後半の立て続けの失点で初の逆転を許す展開に。慌ててエンバペを含めた攻撃的な選手を投入し、74分にフォファナの強烈ミドルで同点に。さらなる得点を奪うことはできず、予選は7勝1分で終わることとなりました。



現在のレ・ブルーの雑感

まず先にW杯以降のフランス代表の活動に招集された全メンバーを見ていきましょう。

GK
マイク・メニャン(ACミラン🇮🇹)
ブリス・サンバ(RCランス🇫🇷)
アルフォンス・アレオラ(ウェストハム🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿)

DF
ジュール・クンデ(バルセロナ🇪🇸)
イブライマ・コナテ(リヴァプール🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿)
ダヨ・ウパメカノ(バイエルン🇩🇪)
バンジャマン・パヴァール(インテル🇮🇹)
アクセル・ディザジ(チェルシー🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿)
ジャン=クレール・トディボ(ニース🇫🇷)
テオ・エルナンデス(ACミラン🇮🇹)
リュカ・エルナンデス(PSG🇫🇷)
ウェスレイ・フォファナ(チェルシー🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿)
ウィリアン・サリバ(アーセナル🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿)
ジョナタン・クロース(マルセイユ🇫🇷)
カステロ・リュケバ(ライプツィヒ🇩🇪)
マロ・ギュスト(チェルシー🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿)

MF
オーレリアン・チュアメニ(レアルマドリード🇪🇸)
アドリアン・ラビオ(ユベントス🇮🇹)
ジョルダン・ヴェルトゥ(マルセイユ🇫🇷)
ユスフ・フォファナ(モナコ🇲🇨)
エドゥアール・カマヴィンガ(レアルマドリード🇪🇸)
ケフラン・テュラム(ニース🇫🇷)
ブバカル・カマラ(アストンヴィラ🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿)
ワレン・ザイール=エメリ(PSG🇫🇷)

FW
キリアン・エンバペ(PSG🇫🇷)
オリヴィエ・ジルー(ACミラン🇮🇹)
アントワーヌ・グリーズマン(アトレティコマドリード🇪🇸)
キングスレイ・コマン(バイエルン🇩🇪)
ウスマン・デンベレ(PSG🇫🇷)
ランダル・コロ・ムアニ(PSG🇫🇷)
マルクス・テュラム(インテル🇮🇹)
ムサ・ディアビ(アストンヴィラ🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿)
クリストファー・エンクンク(チェルシー🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿)

世界選抜のようなメンバーが揃っているのはいつも通りですが、今年3月からの招集メンバーを見る限り、デシャンは特に来年のユーロを見据えたメンバー選考を行なっている印象が強いです。2022年の年末にW杯があり(しかも決勝まで行ってしまった)、ユーロまでのスパン的には例年よりも短いイレギュラーな環境下にあることから、代表メンバー発表にほとんどサプライズはなく、怪我で招集不可になったメンバーの代わりに久しぶりor初めて代表に招集されるといった選手が複数いました。


W杯以降の流れを継続するという部分ではフランス代表に限った話ではないのですが、招集されたメンバーがほとんど変わらないのであれば、当然スタメンや戦い方もほとんど変化がありません。

フランス代表基本メンバー

ただ、戦い方が変わらなくともレ・ブルーには圧倒的な個の能力があり、それで何とかなるというお決まりの状況。守備ベースにありながら、デシャンは細かな指示を送る必要がなく、チームマネジメントに集中するぐらいです。グリーズマンより我の強いエンバペがキャプテンに就任したことで不和が生まれるのではといった危惧もありましたが、代表では良いリーダーになっている印象です。

攻撃時はテオを上げて左肩上がりの全体的に左寄りの布陣になって、右はデンベレやコマン等のアイソレーションといった配置をとります。特に左サイドはエンバペとテオの連携を活かし、厚みをもたらす戦い方。その戦い方を基調としながらも、直近数試合はRSBに攻撃的なクロウスを投入して全体のバランスを同じように調整している場面もあります。

攻撃時の主な配置

守備時はお馴染みの負担が軽減されているエンバペが中央付近に残るのに従って、その背後のスペースをラビオがスライドして埋めて4-4-2のようなブロックを敷きます。基本的には前から行かず、回収能力の高いチュアメニとグリーズマンを横並びにして中盤等で回収するのが基本です。

守備時の主な配置


W杯以降のフランス代表の活動を通して、1つ不安材料として挙げられるのが「ジルーとグリーズマンの偉大さ」です。

両者共にフランス代表を長らく支えてきた功労者ではありますが、ベテランの域に到達している今もなお、ピッチ内外で欠かせない人物です。悪く言えば依存から脱却できていない感じですが、、

37歳のオリヴィエ・ジルーは所属クラブでもそうですが、体のキレが落ちている印象はありません。オフザボールの質の高さ、空中戦の強さ、強靱なフィジカルを活かしたポストワーク等は味方の得点を陰ながら支えてきました。グリーズマンに比べればコロ・ミュアニやマルクス・テュラムに出番を譲る機会が少なくないですが、ジルーがエンバペのピッチ内の最大の理解者であることは間違いないです。

エマ・ワトソンと同い年のグリーズマンは気がつけばもう32歳(グリーズマンは1991年3月生まれ)。「エンバペゲー」と思われがちなデシャン政権ですが、そのエンバペないし全体を管轄するのが彼の仕事。攻守を繋ぐ要として、中盤の高いハンティング技術、前線へ高水準のボールを送る役割、時折フィニッシャーにもなるマルチタスクをほぼ完璧にこなす彼は最もフランス代表に欠かせない人物であり、代表は全試合スタメンでほぼ90分稼働しています。

何よりも誰からも嫌われない彼らの存在はデシャンのチームマネジメントを助ける存在でもあり、W杯以降も彼らに依存しているものは多い印象です。EUROまで1年を切っている状況のためにW杯で成功した路線を継続しながら、その勢いのままに2000年大会以来の欧州制覇を目標としていることでしょう。

そのため、今後もフランス代表のメンバー選考においてはサプライズ招集はほとんどなさそうですし、むしろ落選したメンバーでベストイレブンが組めたり、1チームができるぐらいでしょう。

調子さえ良ければレンヌのル・フェ、テリエ、ブリジョーやニースのバーあたりは招集してほしいところですが、継続路線中の現在は彼らがデシャンの目に留まるくらい圧倒的な成績を残すか、負傷者の代わりに呼ばれるかの2択でしょう。



いずれにせよ、日本代表と同じようにW杯の余波が良い方向へ流れているのは間違いない事実ですが、以上をもちまして「W杯以降のフランス代表定点観測」とさせていただきます。ご覧いただきありがとうございました🙇‍♂️

Allez les Bleus🇫🇷!!

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