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週刊リーグアン#10

プロ野球では「関西ダービー」となった日本シリーズ、MLBではワールドシリーズの開幕。ラグビーW杯が終焉を迎えた一方、NBAは新シーズンが始まりました。

国内外のフットボールに目を向けると、大阪ダービーに加え、比較的我々の見やすい時間にエル・クラシコ、マンチェスターダービーが開催されました。

フランスフットボール界でも前回紹介した「マルセイユ×リヨン」の[l'Olympico]が今節行われる予定でしたが、リヨンのスタッフ・選手たちがスタジアムにバスで向かう道中、一部のマルセイユサポーターによる襲撃事件に遭い、ファビオ・グロッソ監督が12針も縫う大怪我。既にスタジアムにサポーターは詰めかけていましたが、試合は中止が決定。

好対照な両チームとは言え、ガットゥーゾとグロッソの指揮官対決含めてかなり楽しみにしていた一戦が、このような形として閉ざされるのは遺憾です。今季はフランス全土において、サポーターの愚行が目立っているのが非常に残念です。


意気揚々と[l'Olympico]をレビューするつもりでしたが、ここからは切り替えてその他の注目試合を3つに絞ってレビューしていきます。



①改善と固執による明暗

まずは上位対決。序盤戦は苦しみながらも、粘り強い戦いで調子を上げてきたリール。前節は低いブロックを相手にゴロヴィンの“個”で競り勝ったモナコ。昨季のこの組み合わせは、4-3という打ち合いとなりましたが、試合を通して監督の力量の差が表れた試合となりました。

モナコはまだDFラインに故障者を多く抱えている現状から、前節同様に超攻撃的な4-4-2のシステム。対して、今季は得点力不足に悩むリールは絶対的エースのデイビッドを外してMFのヤズジュを0トップに置く4-2-3-1で臨みました。

まずは前回のおさらいを踏まえてモナコの4-4-2の攻撃時の立ち位置から。

モナコ(白)の攻撃時とリール(赤)の守備位置

攻撃的な両SBを大外高めの配置にして、相手SBをピン留めした状態から、南野とゴロヴィンの両WGは中央寄りのポジションで2トップと連携を図ります。特にこの試合では南野が左右どちらにも顔を出して起点を作ろうとかなりの負担を強いられている印象でした。

しかし、前節のメス戦同様に攻撃時に決定機を作り出す動作は希薄でした。というのも、2トップはどちらも足元で受けたがる選手かつクロスの対象にはなれないタイプなのでコンパクトな守備網を崩すのは今節もだいぶ苦労していました。

しかし、攻撃面では停滞しながらも序盤は守備の配置がハマっていた印象でした。

モナコの守備配置

攻撃時の立ち位置のまま、SB to SBの強気な姿勢で当たり、リールの要である中盤2枚には両WGがそのままプレスして4+2で作るリールのビルドアップの入り口を完全に塞ぎました。ハメられてGKシュヴァリエ含めて蹴らされる状態が続くも、0トップのヤズジュにハイボールを競らせるのは難があったリール。


しかし、転機が訪れたのは30分過ぎ。トップ下のエンジェル・ゴメスの個人戦術によって全てが変わりました

リールの先制点の起点

攻撃時はトップ下に位置していたエンジェルはフォファナのマークの対象に。彼も身長がそれほど高くないため、中央付近でのハイボールの的としては不十分でした。

そこで、彼自身がサイドに流れることでフォファナをサイドに引き連れて中央にスペース作り。同じタイミングでLWGのカヴァレイロが中央に寄ってSB・中盤の出口を作ることで、中央の構図が[4対2]から[3対2]に変化しました。おそらくフィジカル要素ではフォファナに分があることを考慮していたエンジェル(168cm)が、中盤のデュエル含めてカヴァレイロ(175cm)にその役割を託して出口を作る個人戦術がハマりました。

今季のリールはトップのデイビッドが左に流れた分、カヴァレイロがそのトップのスペースを埋める動きは見せていましたが、そこからの構築というのはかなり苦しんでいました。しかし、この試合では大当たり。カヴァレイロが体を張り、0トップのヤズジュは1タッチではたいて大外のジェグロヴァへ。

大外でフリーになっていた状態から、ジェグロヴァはやりたい放題。今季のリールの最大の崩しの武器を担う彼の質的優位を活かし、逆サイドポケット目掛けてカヴァレイロへアシスト。2点目の構図もほぼ同じで、先制点の幻影からジェグロヴァに2人寄せてきた間のスペースをディアキテがアンダーラップして追加点を得ました。

先制後はエンジェルが引き付けた中央のスペースにいるヤズジュの足元目掛けてパスを送るというフォンセカ監督の戦術変更を個人で助けたエンジェル・ゴメス。スポットライトが当たりにくい存在ですが、個人的には彼がこの試合のMVPでした。

後半からどうするかなとモナコには期待していましたが、攻守を繋いでいた南野を下げてボアドゥ、アクリウシュを投入する策は驚きました。ただ、2点のリードという精神的余裕から引いてきたリールに対してさらに攻撃的に振る舞うヒュッターの意地は感じることができました。しかし、この試合ではゴールを割ることはできず、個人的にはしっかり負けた印象。攻守含めて徐々にバログンとベン・イェデルの限界が見え始めていますが、次節はどう整えるでしょうか。



②お互いに自分で自分の首を絞める

ミッドウィークのCLミラン戦に快勝し、調子がはっきりしないPSG。それをホームに迎えたブレストは今季良いスタートダッシュを切り、個人的には下剋上もあり得ると予想してこの試合を楽しみにしていました。

ブレストのスタメンと配置はお馴染みの4-3-3に対して、リーグ戦でもボロが出ているにも関わらず、ルイス・エンリケはまたしても4-2-4の布陣を選択しました。

PSG(黒)の攻撃配置とブレスト(赤)の守備配置

最初は4バックスタートながら、ハーフウェーラインを超えたあたりからハキミがインサイドのポジションを取ることで、4-4-2から3-3-4に変化するのがこのシステムの特徴。

この試合でも、中盤の数的不利(3対2)ということからプレスの逃げ道は大外のWG。特に左サイドでは、バルコラに渡ってからエンバペと連携するなり、自分で狙ったり。ただ、このシステムの最大の目的は先制点の構図のように、バルコラの数的優位を確保した状態から、バルコラがカットインのドリブルで切り込み、相手をスライドさせて逆サイドのポケットを活用すること。マルセイユ戦ではその展開からハキミが、この試合ではザイール=エメリが豪快なミドルを突き刺しました。

しかし、このシステムはいわば“諸刃の剣”。攻撃的ではあるものの、リスク管理の低さにパリジャンは頭を抱えていると思います。

左肩上がりの3バック+マニェティとレース・メルーの計5人でビルドアップをするブレストに対し、PSGは可変3バックに4枚でプレスする姿勢を見せましたが、中盤・サイド共に数的不利の状況をいいように使われていました。寄せられても、ブラシエの高精度のサイドチェンジでエースが待つ右サイドへ渡し、カマラのアンダーラップや逆サイドからボックスに入ってくるル・ドゥアロンを含めた右サイドからの攻めは見応えがありました。

しかし、今季のブレストはこういった武器をいくつも兼ね備えながらもその精度に困っているチーム。堅守のディフェンスラインと創造性溢れる中盤を備えているものの、その精度だけが不足しており、精度が高まればこの試合ももっと点を重ねていても不思議では無かったでしょう。

WGの脇のスペースを中盤2枚でスライドしなければならないPSGの負担と、幾度もチャンスは訪れるものの、精度だけが課題のブレスト。前半のうちには、エンバペがミラン戦のプレーバック弾だったり、デル・カスティジョのクロスがようやくムニエに届いたりといった出来事がありましたが、個人的にはお互いが自分の首を自分で締め合っているように感じました。


後半からイ・ガンインを中盤に戻す4-3-3に変更したPSGに対して、ブレスト
攻撃時に思い切った采配をしました。

後半の主なメンバーと配置

通常はロッコを上げる左肩上がりの可変型を取るブレストが、エンバペがプレスバックしない裏のスペースを活用すべく右肩上がりの配置を取りました。ララを上げてデル・カスティジョへのマークを分散し、セカンドは回収能力の高いマニェティとレース・メルーで背中をカバーする強硬策を取りました。ある意味博打ですが、W杯のフランス×ポーランド戦で後半からポーランドが、RSBキャッシュを上げて右で攻め切るという策に転じたことが個人的にはフラッシュバックしました。

右サイドで圧倒し、その流れのままCKから後半開始早々に同点に追いつきますが、これもやはり“諸刃の剣”で右で回収できなければ、後ろは3対3の数的同数の状況で、PSGの前線フランス人たちの大好きなカウンターが待っているといった攻防が続きました。

個人的にはこのブレストの博打采配と脳筋的なカウンターを繰り出すPSGの攻防は中立的な観点からとても楽しく観ることができましたが、最後はVARによって与えられたPKをエンバペが決めて煽り返してそのまま終了という、味気ない試合に終わったのが残念でした。

個人的にはああいった展開の中でPKをとってしまう審判にはガッカリです(審判は公正に振る舞うべきというのはごもっとも。)PSGが負けそうだからというのではなく、おそらくどんな組み合わせだろうとも、ああいった一進一退の攻防で盛り上がっている展開に水を刺してしまうのは非常に勿体無い。PKの場面で乱闘気味になったシーン含めて、この試合の主審はうまく統治できていないと感じてしまいました。



③勝利は選手のおかげ、敗北は監督の責任

本来であれば上記の試合に加えて、[l’Olympico]のレビューをする予定を立てていましたが、願い叶わず。気持ちを切り替えて「スタッド・ランス×ロリアン」のレビューをお届けします。

中村敬斗含め前線の駒不足から3バックと2トップの布陣を前節同様選択したスタッド・ランス。ロリアンの3-4-3は通常通りで、前節ダービーに勝利した勢いそのままに臨ことができた一戦でした。

しかし、両チームに通じて言えるのは「遅攻が苦手なチーム」ということ。ウィル・スティルになってだいぶ努力してきている印象はありますが、スタッド・ランスというチームの基本としては、相手に合わせた守備戦術を整えてプレスからのショートカウンターを得意とするチーム。対するロリアンも長年チームに染み付いているのは、低いブロックからの高速カウンターで、イタリアンチックな戦い方でのし上がってきたチームです。

結論から言うと、この試合の見所というものは非常に少なかった印象でした。スコアも終盤にエスブランドが逆足で決めた1点のみで、ウィル・スティルが初めて退場処分になったぐらいでしょうか。しかし、強いて挙げるならば「ここが勝負所だ」という監督同士の小さな精神バトルが繰り広げられたと感じました。

ロリアン(白)の守備配置とスタッド・ランス(赤)の攻撃配置

3バックにしてもベースは変わらないスタッド・ランスの攻撃時の配置。中盤のムネツィをボックスのターゲットにして、右サイドに伊東とフォケの関係性に加えてテクニシャンのテウマが絡むというシステム。3バックはスピードに自信のある選手が揃い、背後のスペースをカバーします。

序盤こそ予想に反してロリアンがボールを握る展開が続きました。というのも、攻撃時に可変する工夫をロリアン側がとってきたので、スタッド・ランスが様子見する時間が序盤は続きました。

ロリアンの攻撃時の配置

3バックの右のフォルモズ・メンディがRSB気味になり、後ろの数的優位を活かして攻撃の絶対軸のフェーヴルに預け、そこから打開策を練っていこうという姿勢が見受けられました。ただ、この戦術も得点には結びつけることができず。もう一度言いますが、このチームも「遅攻が苦手」なチームなのです。

15分以降はスタッド・ランスがポゼッション率を高めましたが、前半はスコアレス。後半からフェーヴルを前に出して4-4-2に変更したロリアン。前半からスイッチャーのアベルジェルを中心に相手のゴールキックにはプレスの姿勢を見せていましたが、後半もシステムは変えても根本は変化していない印象でした。

相手が4-4-2に変更したことで、伊東純也は右の大外レーンでもらうシーンが明確に増え、相手のプレスに対して中央付近で味方への出口を作ったりと、この試合でも縦横無尽に活躍していました。

我慢を続けていた状態から、70分過ぎにバカヨコをアンカーに据える4-3-3に変更したロリアン。「今が攻め時だ」と判断したル・ブリ監督に対し、ウィル・スティルも5-2-3に変更し、なおかつRWBフォケの所に、本職ではない攻撃的なカドラを投入して博打的な采配を取りました。

結果的にはエスブランドのスーパーゴールでスタッド・ランスが均衡を破りましたが、ロリアンの守備陣にも全く問題はなく、ただスーパーゴールに泣かされたという印象でした。攻め時を感じて采配に繋げた両監督の小さなバトルが個人的には面白かったですが、両チームとも課題を抱えながらも来週につながる試合ができたのではないかと思います。



今節の結果まとめ

2023/10/28
クレルモン 0-1 ニース

2023/10/29
スタッド・ランス 1-0 ロリアン
RCランス 4-0 ナント
ブレスト 2-3 PSG
リール 2-0 モナコ
メス 0-0 ル・アーヴル
モンペリエ 3-0 トゥールーズ

2023/10/30
レンヌ 1-1 ストラスブール
マルセイユ (中止) リヨン

ニースが3連勝で首位キープ。ナントは上位陣との試合での複数失点が気になる所。モンペリエは正真正銘の今季ホーム初白星。2試合で8失点のトゥールーズですが、サポーターの中には誰もマルティネス監督を非難する人物はいません。


第10節終了時点での現在の順位がこちらです。



次節の注目ゲーム

ちゃんとゲームが90分間開催されるかは不安になってきましたが、第11節では「ニース×レンヌ」の名門対決に注目しましょう。

リーグアンのBIG7に例えられることが多い両チームですが(PSG, OM, OL, Monaco, Lille)、今季は対照的な開幕スタートとなりました。経験が浅いファリオーリを招聘する低コスト人事がうまくはまっているニース。積極的な補強で期待を抱かせたレンヌは勝ちきれない試合が序盤に続き、現在もその状況を引きずっている印象です。

実力的には同じぐらいのレベルにあると思いますが、両者に対して「越えなければならない壁」というのがこの対戦には存在すると考えます。

ニースは序盤戦ダービーマッチやPSGとの対戦を潜り抜け、本当の意味で勢いに乗るにはホームで迎えるこの試合は勝ち点3以外は許されない状況でしょう。先日の記事にも記載しましたが、優勝を狙えるのは今季がラストチャンスかもしれません。この試合を乗り越えることができれば、精神的にもだいぶ楽になるでしょう。

対するレンヌはアウェーながらこの不安定な調子の波を完全に止めたいところ。この不安定さを引きずったままだと、この試合の後にはリヨンやマルセイユ、スタッド・ランスとの試合が控えている今後にも大きく影響しそうな予感です。他のヨーロッパ戦線で戦っているチームが徐々に本来の調子を取り戻している中、置いてけぼりにされないためには全身全霊をかけて臨まなければなりません。

執筆時点ではこの試合の配信が不明ですが、両者にとって運命の一戦になるであろうこの試合をぜひ注目していただきたいです。



2023/24 リーグアン 第11節日程(日本時間)

2023/11/04
 5:00 PSG×モンペリエ

2023/11/05
 1:00 ロリアン×RCランス
 5:00 マルセイユ×リール
21:00 リヨン×メス
23:00 ナント×スタッド・ランス
23:00 ストラスブール×クレルモン
23:00 トゥールーズ×ル・アーヴル

2023/11/06
 1:05 モナコ×ブレスト
 4:45 ニース×レンヌ

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