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週刊リーグアン#14

スポーツファンの憩いの場として重大な役割を担う「スタジアム」。まだ野球ほど文化として定着していない国内のフットボールに関しては、近年は陸上トラックを併設しないフットボール専用のスタジアムの改築が進んでいます。

しかし、いくら箱が良くてもそこに辿り着くまでの「アクセス」というのは度々議論されがちですが、個人的にはスタジアムはどこに建てるかよりも"どう人を集めるか"のビジネスに沿った側面を考慮すべきと思う派です。

例えば今年3月から開業された北海道ボールパークFビレッジは北海道日本ハムファイターズが従来本拠地として使用していた札幌ドームからは移動距離も時間もかかることになりましまが、それでも売り上げは絶好調とのこと。

北海道ボールパークFビレッジ

野球のスタジアムはフットボールのスタジアムに比べて多くのエンタメ要素を球場内外に取り入れることが可能ですが、どう客を呼び込んでビジネスに繋げるか、地域密着と多額の投資によるビジネスは並行可能というのが経済音痴ながらの自論です。



①LFPが招いたサポーターの愚行

いつもは3試合をピックアップして振り返る内容となっていますが、いちリーグアンの魅力を広めるべく活動している者として今回の事件はしっかりと整理すべきと思いました。
*ここから長々と綴っています。試合に関しては②から(飛ばし推奨)

今回取り上げるのは現地時間12/2(土)21:00に開催された「ナント×ニース」の試合内容ではなく、その試合前に起こった悲劇。日本では大胆に取り上げられていませんが、事の顛末を先に述べておくと、試合前にスタジアム付近にて1人のナントサポーターがナイフで刺される事件が発生し、負傷者はそのまま病院に運ばれたものその日中に死亡が確認されました。

容疑者としては当初はニースサポーターが文脈からして疑われましたが、殺傷事件の犯人として出頭したのはニースサポーターを乗せた輸送用車両の運転手だったということです。しかしながら、一部メディアでは「運転手たちがサポーターを守った」と見出しがつけられ、立場が逆転しています。

実を言うと、事の始まりはナントサポーターの愚行から始まります。事件はスタジアムから数百メートル離れたナントのウルトラスが集うバー付近で起こりました。スタジアムに向かうニースサポーターを乗せた7台のVTC車両(運転手付き輸送用車両:タクシーのバスver.)を緑・黄・黒色のフードで一部の顔を隠したナントサポーター300人が囲んで通せんぼしたとのこと。

VTCの一例

ただの通せんぼではなく、300人のサポーターはそのVTC車両の窓ガラスを割ったり、無理矢理ドアを空けて乗客たちを襲いました。運転手たちは乗客を守るために、車を降りて防御したり、あえて危険な運転をしてナントサポーターと対抗。通報により遅れてやってきた警察と共に衝突の対応にあたっていましたが、その間に運転手の1人がナイフで1人のナントサポーターの背中を刺してしまいました。殺害事件を起こした犯人(VTC運転手)は、ナント警察署に出頭して身柄を確保されました。

火曜日の情報では、刺した人物を隠匿するために証拠隠滅・改竄を働きかけたとしてもう1人の運転手が裁判の対象になっているとのこと。警察が事件の手がかりになるドライブレコーダーの映像等の捜索を含めたもう1人の運転手の家宅捜索にあたっていたところ、本人が供述していなかった事件当時の画像が入ったメモリーカードが見つかったとのこと。

さらに、主犯となった35歳の人物は過去に麻薬密売で実刑判決を受けていたことが明らかになりました。本人は元々の所持を否定していますが、手がかりとなった映像からは、主犯格の人物は車から降りる際に黒い柄のセラミックナイフを取り出し、車の外で数人のナントサポーターと争っていた間に、地面に倒れていた被害者の背中に刺したのが1回目。被害者が逃げようとしたところに、2回目の刺し傷を負ったとのこと。

また、主犯格の人物は試合後にニースのサポーターをホテルに送り届けた後に、彼らが本当にニースのウルトラスであるかどうかを調べるために金銭を要求した恐喝容疑もかけられています(本人は否定・一説には約1,000ユーロを要求したとも)。


運転手たちが大勢の命を守ったと表現される一方、RMC Sportはニースサポーターがナント県知事の命令を破ったと事件が起こった原因を究明しています。もともと11/29時点でニース宛にナント県知事から「ニースサポーターの集合場所を(スタジアムから離れた)アンスニ料金所とし、そこから警察の護衛のもとスタジアムまで移動できるようにすることを強制的に規定する」という秘密裏の伝達があったとのこと。

サポーター集団のうち一部はその命令通り警察に引率されましたが、一部の車両は交通渋滞が原因で命令を破ってルートを変更したために、絶対入ってはいけないとされていたナントのウルトラスが集う禁止区域に足を踏み入れてしまいました。結果、このような事件が起きたのは運転手及びニースサポーターの自業自得とも言える命令違反が原因とも言えます。


この事件により最大級の注目を集めるのが、LFP(リーグ連盟)の対応。同じくサポーターがスタジアム外で暴動を起こした事件として、10/29の「マルセイユ×リヨン」にて一部マルセイユウルトラスによるリヨンの選手団を乗せたバスに対する投石事件と、11/26の「モンペリエ×ブレスト」戦後の帰路につくブレストサポーターを乗せたバスが投石被害に遭うといったことが今季ありました。

特に問題なのが前者の「マルセイユ×リヨン」というダービーにおける愚行。直前にリヨンサポーターが煽りチャントを歌ったり、バス自体が通常のルートを道路工事が原因で進めなかったといった背景はあるものの、前リヨン監督のファビオ・グロッソが投石により顔に16針を縫う大怪我を負った事実があります。しかし、LFPは安全処理を怠ったリヨンに注意し、マルセイユには何の制限も受けずに試合はヴェロドロームにて有観客の延期が決定。

「スタジアム外のことだから我々にできることは何もない」という文章を添えたLFPの表明により、今回のように、サポーターに「スタジアム外のことだからどうせお咎めなし」と思わせてしまい、暴行を呼び起こしてしまいました。

LFP会長のヴァンサン・ラブルヌ氏は今回の事件に関して、

「最近、私たちの社会に大きな打撃を与えている暴力現象は、サッカーだけの専売特許ではない。私たちのスポーツの状況を短期的に回復させる最善の方法は、ファン旅行を禁止することである。ファン旅行は、公序良俗に反する騒動の大部分や、現在私たちが経験している悲劇の直接的な原因となっている。今こそ打撃を与え、われわれは団結して強く、物事を解決できるということを示す時だ」

Vincent Labrune [FOOTMERCATO]より引用

とコメントを残していますが、どのような処分を下したとしてもl'Olympicoの件を踏まえると辻褄が合わなくなるのは目に見えています。このような事件を未然に防ぐためにリーグが率先して処分を加えるのは当然のことで、10月にベガルタ仙台がサポーターの愚行によってリーグから制裁を受けたように、リーグ側が威厳を示すことでこういった愚行を少しでも減らすように努めるべき。


ヴァンサン・ラブルヌLFP会長

試合はグルヴェネクを新監督に迎えたナントが今季無敗を維持していたニースに今季初の黒星をつけて初陣を飾りましたが、事件の報道を聞いたナントの選手たちは勝利後のロッカールームでも素直に喜べなかったとグルヴェネクが明かしています。



②10人だからこその再確認と新発見

日本人にとって比較的見やすい時間に開催された「ル・アーヴル×PSG」の試合。エルスネル監督が試行錯誤を続けながらここ5試合無敗を維持していたル・アーヴル。ミッドウィークのニューカッスル戦では最後の最後でGS突破の可能性を繋いだPSG。

試合は序盤にボールを保持したル・アーヴルがPSG攻略の教科書通りの攻めを展開。WGがSBをピン留めした状態から、アンダーラップでCBを引き付け(基本的に中盤がそのスペースをカバーしない😱)、シンプルな形で崩すやり方。

序盤のル・アーヴル(水)の攻め

PSGは8分のファビアン・ルイスの早々の負傷交代に加え、まさかのアクシデントが。相手のゴールキックのロングボールの処理を見誤ったミュキエレとドンナルンマがお見合い状態。(ドンナルンマの守備範囲と思っていた可能性=ドンナルンマはそんなに守備範囲広くない😅)ドンナルンマのハイキックがボールを追いかけていたカジミールにクリーンヒットし、一発退場。わずか16分で交代回数2回を使ってしまい、GKテナス投入の代わりに下げられたバルコラはこの試合わずかタッチ数2回。

ドンナルンマのハイキックは個人的には2009年公開の映画「ハイキックガール」を連想してしまいました笑笑

なぜこの映画を覚えていたかは不明
Amazonプライムビデオで視聴可能

開始早々に10人になったPSGですが、逆に少ない方が制約等を気にせずに伸び伸びとプレーしやすくなったりするのは経験者なら分かるかもしれません(自分は未経験)。特にポチェッティーノ政権を思い出すエンバペの0トップに近い戦術で、彼に起点を作る役割を与え、カウンターで仕留める方法を選択しました(エンバペは意外とオールラウンダー)。

そして23分の先制点にこじつけたわけですが、この得点に繋がった局面は前回の記事でも紹介したように、PSGの十八番の攻撃パターン。

PSG(白)の先制点の動き

ロングキックのこぼれを中央で拾ったイ・ガンインが一気に運び、右大外で待つデンベレへ。デンベレにボールが渡ったタイミングでハキミは弧を描くようにバックドア(仕掛ける対象はCBのユテ)。

従来であれば、インサイドキックでシンプルにハキミを使い、この動きにニアで引っ張るゴンサロ・ラモスがセットでついていますが、フィニッシャーが限られたこの局面ではデンベレはハキミのバックドアに重なった、マイナスで待つエンバペを選択するスキップパス。おそらく相手もその十八番を研究していたからこそ、スキップパスには逆を取られた形(被カウンター局面では空きやすい場所)。エンバペはGKがブラインドになりやすいニアを突くためのファーストタッチかつフィニッシュも圧巻でした。

与えたくなかった先制点を奪われたル・アーヴル。序盤こそ教科書通りの攻めができましたが、保持の展開になってからはWGの独力に頼るしかなく、さらには攻撃面でも守備面でも中盤2枚が広い横幅をスライドしなければならない負荷がかかり得点には繋がりませんでした。

後半は形を変えたル・アーヴル。サイドでWGがSBをピン留めする役割は変えずに、4バックの前にクシュタをトップ下の位置からアンカーに移動させ、インサイドに右クジャエフ・左アリウィの縦パスのコースを作る攻撃的シフトを選択しました。

ル・アーヴルの後半の布陣

これにより、左サイドエースのアリウィを中心に猛攻を仕掛けますが、やはりWG含めて打開力には欠け、特に前半からかなり動かされていたクジャエフ中心に体力が底をついてゴールをわることはできませんでした。

この試合で目立ったのは川田和明ばりのハイキックを魅せたドンナルンマでもなく、ゴールを決めた2人でもなく、途中からゴールマウスを守り、リーグアンデビューをクリーンシートで飾ったアルナウ・テナス🇪🇸に限るでしょう。

Arnau Tenas🇪🇸
2001/05/30

バルセロナのBチームにあたるBarca Atleticから加入した22歳のGK。GKの中では高年俸のドンナルンマを出場させなければならない事情から、彼の出番は今日まで全くありませんでしたが、実践がないままに投入された環境でも大仕事をやってのけました。反射神経系のセービングをするドンナルンマとは異なり、どちらかというと股関節の柔軟性を活かしたセービングの印象を受けました。さらには、両足のキックの安定性もあり、チームの方向付けの役割が期待されるビルドアップ時のGKの役割も遺憾無くこなせていたと思います(個人的には85分のパスが印象的)。

次のドルトムント戦ではドンナルンマ、ナント戦ではテナスに出番が回るでしょうから、お互いの立場の再確認のための試合になるかもしれません。



③自ら墓穴を掘る スライディングの目的は

共にヨーロッパリーグで白星を積み重ね、周囲の重圧に耐えながら決勝トーナメント進出を決めた同士の「マルセイユ×レンヌ」。理由は違えど、共に今季途中で指揮官が替わっています。

この試合で注目したいのは、8分のオーバメヤンのPK弾に繋がったシーン。その前提知識としてその現象が引き起こされた背景について見ていきましょう。

この試合のスタッツが示しているように、どちらかと言えばレンヌがボールを握る展開が多かったこの試合(57%)。両WBを高めに張らせて、3バックが広く背後をカバーする基軸は替わっていませんでした。

レンヌ(赤)の攻撃配置とマルセイユ(白)の守備配置

しかしながら、アンカーのマティッチ含めて左に人数を集めて、クロッサーのブリジョーのアイソレーション戦法をとったレンヌ。左サイドに起点を作って、一気に右サイドに展開する手段は逆に裏目に出たのがPKに繋がったシーン。

マルセイユは11番のハリットの守備負担をあえて減らし、代わりにカウンター時の起点として攻守の間を埋める役割を彼に任せたガットゥーゾ監督。レンヌの攻撃の終着地かつカウンターの起点になるハリットが同サイドにいたことで、強みはマルセイユの方に現れました(レンヌは薄い右サイドでロスト&被カウンター)。

狙い通りそのハリットが起点となって、オーバメヤンが深さを取り(こういった技術は遥かにヴィティーニャより上😤)、最終的にはワンツーで抜け出したエンディアイエが倒されたのがPKという判定になりました。ここで取り上げたいのが、エンディアイエをスライディングで削ったウー。

同じく相手をスライディングで削ってPKになり、失点に絡んだということで話題になったのが、12月2日に開催されたJ1への昇格をかけた「東京ヴェルディ×清水エスパルス」。

PKの判定をした審判を責めたり、結果的にPKに繋がったのは緊迫した状況では仕方ないという意見がありますが、そんなのは💩です。試合後に乾選手が批判したように、「そもそもスライディングの根本を間違えている」ということです。

某サッカーゲームとは異なり、スライディングという技術は「ボールを刈り取るものではなく、シュートやパスのコースを限定するもの」という認識が前提です。この場面も、エンディアイエを削ったウーも技術の目的通りにコースを限定していたかと言えばそうではないでしょう。よく日本ではスライディングを「ナイスブロック」と表現することが多いですが、基本的にはタブーな行為なのです。

こういったプレーの原則に基づく批判を誹謗中傷と過大に捉える人がいますが、プレーの原則を徹底して行うのがプロフェッショナルであり、我々はそれに投資しているわけです。決められた原則に逸脱した行為を非難するのは誹謗中傷ではありません。以下の動画を見ていただけたら分かるはずです。

さて、1点ビハインドになったレンヌ。ジュリアン・ステファン監督は左からの起点に頼りすぎず、テアテの対角へのロングフィードを含めた右サイドも初期段階から積極的に使っていく意識をチームに促しました。これにより、被カウンターを喰らう機会は減少しました。

しかし、レンヌはこの膠着した展開を難しくしてしまい、ウーが61分に1発退場になって10人になった数分後に追加点を許しました。間も無くして相手も10人になりますが、試合はこのまま終了。再体制後初黒星となりましたが、あとはボールを保持した展開(遅攻)の配置の部分をどうするかに限るでしょう。

相手の弱みを突いて久しぶりにリーグ戦で勝利したマルセイユ。5試合ぶりの勝利は決して満足がいく内容では無かったと思いますが、結果論では片付けたくないでしょう。ただ、前節からエンディアイエのアイソレーション戦術は選手たちが躍起になっている印象は部分的に感じられます。

マルセイユ(白)の攻撃時



今節の結果まとめ

2023/12/02
スタッド・ランス 2-1 ストラスブール

2023/12/03
RCランス 3-2 リヨン
ナント 1-0 ニース
ル・アーヴル 0-2 PSG
ブレスト 3-0 クレルモン
モナコ 2-0 モンペリエ
トゥールーズ 1-1 ロリアン

2023/12/04
リール 2-0 メス
マルセイユ 2-0 レンヌ

中村敬斗が復帰したことで、久しぶりにピッチにリーグアン三銃士🇯🇵が揃いました。南野拓実は2試合連続得点を記録しました。まさかの監督交代を行ったリヨンはRCランスに力負け。


第14節を終えた段階での現在の順位表がこちらです。



次節の注目ゲーム

今週は延期になっていた「マルセイユ×リヨン」と「ブレスト×ストラスブール」が開催されますが、第15節は「ニース×スタッド・ランス」に注目です。

昨季はいずれもスコアレスに終わったこの一戦。しかし、両者の立場的に昨季よりは見所が増した一戦となりました。

新体制のナントのゴールを破ることができず、今季初黒星を喫したニース。個人的にはいずれ黒星がつくとなれば、大量失点ではなくこのような結果になるだろうなと思っていました。堅守という強み以上に得点力不足は深刻な問題ですが、13節のトゥールーズ戦のように独特なビルドアップの形が徐々に研究されてきています。この問題を人で解決するのか、組織として改革するのかは今後の焦点です。

またしても伊東純也様様だったスタッド・ランス。こちらも得点力不足は課題として残っており(昨季はバログンに点を取らせるシステムを採用していた)、不安定ではありますが上位を維持しています。中村敬斗が復帰したことにより、ウィル・スティルのやりたいスタイルの実現には近づいていますが、強度の高いこういった一戦では前後半でパフォーマンス差が顕著なのも改善すべき点です。

おそらく分析力が得意なスタッド・ランス側が、ニースが事実上今季最も苦しめられたトゥールーズ戦の守備を参考にハイプレスからのショートカウンターで仕留める戦い方を採用してくるとは思います。ニースは苦手な遅攻の時こそ何で解決するのかが鍵となります。34歳のフランチェスコ・ファリオーリと31歳のウィル・スティルの若手指揮官対決にも注目です。

*相方と都合が合えば、「リーグアンLAB(youtube)」にてこの試合を題材に同時観戦会をやろうと思っています。



23/24 リーグアン 第15節日程(日本時間)

2023/12/09
 5:00 モンペリエ×RCランス

2023/12/10
 1:00 レンヌ×モナコ
 5:00 PSG×ナント
21:00 ニース×スタッド・ランス
23:00 クレルモン×リール
23:00 メス×ブレスト
23:00 ストラスブール×ル・アーヴル

2023/12/11
 1:05 リヨン×トゥールーズ
 4:45 ロリアン×マルセイユ

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