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週刊リーグアン#15

国内で話題を集めた大谷翔平の移籍先。うっかり交渉を公表したロサンゼルス・ドジャースに移籍先が決定し、10年総額約1015億円の史上最高額の契約はさすがアメリカマネーと言わざるを得ないです。

フランスでは当然ベースボールの人気はさほど高くないですが、今回の移籍にあたって、フランス大手スポーツメディアの[l'Equipe]が大谷翔平の移籍を取り上げていました

内容を知りたい方・フランス語は苦手という方はルシアン宛にご連絡いただいたら、訳したものを紹介します🤲



①相手を騙す「ずる賢さ」も技術の1つ

前節はジュリアン・ステファン再体制で初黒星を喫したレンヌ。マルセイユの後にモナコ戦を戦わなければならない試練がいきなり待っていました。

モナコは新戦力のモハメド・サリス🇬🇭がようやく今季初スタメン。いつもは書くことが多すぎるので、彼の“ある技術”にフィーチャーして1つの場面を戦術ボードで振り返っていきましょう。

5-4-1のブロックで中央を封鎖し、モナコのバックスのパスコースをサイドに限定したレンヌ。モナコはサイドを起点にしながらも、効果的な攻撃は生み出せませんでした。

この試合で1つだけ取り上げたいのが、サリスの「相手を騙す技術」です。どういうこっちゃねんと思うかもしれませんが、以下の事象をもとに説明します。

モナコ(白)の先制点の構図

5-4-1のブロックを敷きながら、まだボール慣れしていない・試合勘がない感を漂わせていたサリスを目掛けて前半から右サイドの選手たちが積極的に牽制をかけていたレンヌ。

逆にモナコがその前傾姿勢を利用したのがこの構図です。WBの位置からCBサリスに猛然と圧をかけるブリジョー。その大きな背後のスペースをオマリがカバーする姿勢はとっていたものの、この前後のギャップにより、モナコはプレーメーカーのゴロヴィンがフリーに

前半まではこういった位置では消されていたゴロヴィンですが、サリスの「相手を騙す・おびき寄せる」技術で時間とスペースを与えられ、当事者はシンプルにヤコブスを走らせました。このパスは走る味方に対面したDFの背中を通すパス。(=足元へのボールを警戒したDFの逆を取るスペースへのパス)

*ゴロヴィンのパスの理屈はこの動画から


ヤコブスのクロスには中央でバログンと南野が待っていましたが、混戦模様の中でバログンは右サイドのヴァンデルソンを選択。ここで彼がフリーになったのは、ブリジョーが前に行き、オマリがブリジョーのポジションに流れてカバーしていたのをさらにカバーする、レンヌの守備全体が右に絞っていたからこそです。

サイドtoサイドの典型例ではありますが、そのきっかけとなったのはサリスの「騙す技術」です!(DAZNのハイライトはこの場面から取り上げるべき😤) 具体的に騙すというのは、あえてトラップをミスして相手を誘き寄せて周囲に時間とスペースを与えることが1つの例として挙げられます。情報としてもサリスが今季初スタメンを飾ることはレンヌ側にも流れていたでしょうから、あえて試合慣れしてない感を醸し出したサリスの動作を活用してモナコの先制点が生まれました👏(徐々に試合勘を取り戻していた感も完全に否定できませんが😅)

ただ、「騙す」ことにより相手の見る目が変わることもあり、こういった「騙す」もフットボールの技術の1つです。普段日本代表を観ていると、この技術がレベチなのが守田英正です!彼のこうした技術と世界観が述べられている彼の自伝は購入必須です、これを読まずしてフットボールを語る資格はないといっても過言ではありません😤

前半は膠着状態だったこの試合は後半早々のこの得点でモナコが楽になるかと思いきや、ヴァンデルソンが2枚目のイエローで退場。南野のスーパークリアもあって命拾いしたモナコはフォファナのダメ押し弾で辛勝しました。

マルセイユ戦に続いて、膠着状態をモノにできなかったレンヌ。攻撃面の課題よりも、気になるのが失点の仕方が悪いこと。2試合続けて自滅した形から失点を重ねて、自ら試合を難しくしている印象です。突破が決まっているとはいえ、ミッドウィークのELも今後に向けては落としたくない1戦です。



②何をもってして「完成度」と謳うのか

前回の記事で注目試合に挙げた「ニース×スタッド・ランス」。この試合後に、私の質問箱宛にこんな質問が届いていました。

スタッドランスのウィル・スティル監督はどういう印象を持ってます?昨シーズンの降格圏寸前の状況から立て直して、今シーズンも現時点で8位まで導きましたけどチームの完成度で戦ってくるファリオーリのニースを観ると物足りなさがあります

ルシアン「質問箱」より 質問募集してます🤗

個人的に「チームの完成度で戦ってくるファリオーリのニース」という部分が気になりすぎました。質問者さんを執拗に責める気持ちは全くありませんが、「チームの完成度で戦う」とは何なのか・そもそも何を以てして「完成度」と一概に表現してしまうのかは疑問が残りました(逆に自分にとって考える良い機会になりました、ありがとうございます😆)

自分が辿り着いたファリオーリのニースに対する答えは、「ポジションは役割を規定しない」という考えです。アンカーだから、ウィングだから〇〇しなければならないという考えではなく、個々の技術を最大限に活用するための位置がたまたまそのポジションなわけで、フットボールはそれを以てして相手と鉢合わせた時にどれだけ能力が発揮できるかのせめぎ合いだと思います。

PSG以外ではその色が強く、なおかつ結果に表れているのが今季のニースなのですが、こういった考え方は欧州では普遍的な概念です😂 いわゆる「フォーメーションは電話番号のようなものだ(by フアンマ・リージョ🇪🇸)」に代表されるように、基本→技術に基づく個人戦術の集合体からチームが肉付けされるわけですが、ファリオーリは個々の最後のクオリティ不足は否めないものの、選手個人が最も能力を発揮しやすいポジションを調整している印象です(戦力的にはリーグアントップクラスなので)。


さて、試合に目を向けましょう。そのニースの個々の能力に対して、スタッド・ランスは以下のような守備網を形成しました。

ニース(赤)の攻撃配置とスタッド・ランス(水)の守備配置

上記の図の噛み合わせにより、ニース側でフリーとなるのはCBトディボとWGボガの2人。SBバーに対してWBフォケを内側からマークにつけさせた狙いとしては、中盤マンツーと、ボガに渡った際にスピードに自信のあるアグバドゥを当てる策からの効率性を重視したと考えます。

ニースのWGに入った攻撃パターンは何度も紹介しているので、ここでは割愛します。

守備ラインを低くして、ニースの両WGの横運びのドリブルよりも、インサイドハーフとSBのアンダーラップを警戒したスタッド・ランス。横運びのドリブルに関しては、中央で封鎖すれば良いという(ドリブル終着地)、ある程度シュートを打たれるリスクを隣り合わせにしながらの守備網を形成しました。

ニースはクオリティ不足が今季の課題ではありますが、それを「どうせ打たれても大丈夫だろう」ぐらいのスタンスで構えられた(ある程度舐めプ)状況で打ち破ることはできませんでしたが、この試合は珍しく相手の守備配置をそのまま利用してハイプレス・ネガトラを行う姿勢が見受けられました。


前半はスコアレスに終わりましたが、後半の場面では得点のシーンから2つの事象を取り上げたいと思います。

1つ目はニースの先制点のシーン。直前にスタッド・ランスがCBオクムを上げた攻撃がシュートに繋がらず、GKブルカがキャッチした場面から始まります。

このブルカの選択肢もあっぱれ。前線にカウンターなら鋭さを増すモフィとラボルドゥがいる状況から、あえてアバウトな深さを取るロングキックを選択。これにより、守備者は下がりながらのヘディング処理となるので、自然と溢れは前に返ってきがちです。

長すぎず(相手GKに取られる)・短すぎず(溢れを拾って2次攻撃)のロングボールにより、溢れを拾って前向きな状態を作ったラボルドゥ。状況的には後ろから戻るデ・スメト含めて3対2の状況ですが、実質的には2対2の状況です。

ニースの先制点の場面

まずは守備者の目線から。この状況でまず止めるべきは「人ではなくゴール方向に向かうボール」ということを理解しましょう。それを踏まえるとDFは縦関係(チャレンジ&カバー)になるのが鉄則で、この場面ではラボルドゥが正対しているマトゥシワが責任を持って止めなければなりません。もっと言えば、後ろからプレスバックしているデ・スメトがカード覚悟のテクニカルファールで止めても良い場面です。

そして、注目してほしいのがモフィのランニング。フリーランニングはその状況にもよりますが、基本的には「直線ではなく弧を描くように膨らむ動き」かつ「誰に対して背後を取るのか」が焦点となってきます(=バックドア)。

2対2の状況から、モフィはラボルドゥと対面するマトゥシワの背後を取ることでCBアブデルハミドを吊り出します。先述の通り、ここはマトゥシワが責任を持って止めるべきですが、後ろから来るデ・スメトとの連携含めてゴール方向のボールを止めることはできず、逆にモフィの膨らみを利用されてゴールを許しています(慌ててブロックに行くアブデルハミドの「お前行かないんかい!」反応↓)。


カウンターの理屈はこのアルバレスのゴールと同じ


攻撃側の「膨らみながら味方と正対するDFの背後を取る動き&それを利用した攻撃」と守備者の「チャレンジ&カバーの原則(マンツーの状況ならカバー側は体を止めるぐらいの気持ち)」はバスケ界隈では普遍的な動作です。



2つ目に取り上げるのが、スタッド・ランスの同点のシーン。

スタッド・ランスの同点シーン

追う立場になったスタッド・ランスは、攻撃的な選手を投入します。同点のシーンは、アブデルハミドの正しいインサイドキックから始まります(二軸動作の表パス)。(その前のドリブル方向の変化・相手[サンソン]との駆け引きも面白いですが😅)

正しいインサイドキックに関しては、以下の2つの動画から

①「小学生でも分かる正しいインサイドキック」

②「正しいインサイドキックによる表裏の使い分け」


そして次のアクションが中央でボールを受けたカドラの連続正対ドリブル。久保建英が直近のインテル戦でPKをもらったシーンがまさにその代表例です。カドラは①サンソンに、②ダンチに連続して「正対」してドリブルを行うことで、ニースの守備ラインがグッとカドラに寄ったことで右大外の伊東純也がフリーになりました。

連続正対ドリブルに関しては以下の動画から

時間とスペースを与えられた伊東純也は得意のアーリークロスを選択。そのクロスに飛び込んだのは、最初に出し手となったアブデルハミドでした。最後にボックスに飛び込んできたのが彼であり、それによりニースのマーク設定が崩れてドンピシャヘッドを叩き込みました。

これも「戦術」の1つです! 正しいインサイドキック→連続正対ドリブル→引き付けてリリース→最後にボックスに飛び込む選手狙いのクロス 個人戦術を集合させた素晴らしい得点です(同じくCBがボックスに参入した事実ならば、先制点のシーンと同様・CBがボックスに入ることも意図的な戦術の可能性)。辞書に載っている意味を踏まえると、これも「完成度が高い」と言えるはずですけどね🤣

終盤にディウフのキャッチングミスから決勝点を与えたものの、この試合は得点シーンに代表されるように、多くの要素が詰まった一戦でした。個人的には今季のベストゲームの上位に入りました。



③途中監督の果たす責務とは

ウルトラスの同情とは裏腹に、一部選手たちとの対立構造から抜け出せなかった関係から解任されたリヨンのファビオ・グロッソ監督。後任にはアカデミーからピエール・サージュを暫定監督に据えましたが、いきなりRCランス・マルセイユと強豪とのアウェー戦を強いられて連敗スタート。

Pierre Sage🇫🇷
1979/05/05

監督を変えるにあたっては、個人的に好きな表現があります。

チームを作るのには時間がかかるんですよ!とよく言いますが、正確にはチームを作るではなく選手を入れ替えるなんだと思います。

らいかーると氏 Xより

結果として、ピエール・サージュは2試合を通して、人員整理ができた印象がありました。それでは今節のトゥールーズ戦を振り返っていきましょう。

リヨン(白)とトゥールーズ(紫)のスタメン

今回は試合内容より、選手采配に注目しましょう。暫定監督は就任3試合目で3バックを採用し、攻守共に中盤を覆うようにバックスが守るようにしました。

3バックの面々はいずれもスピードは欠けるものの、高身長かつ対人能力であれば一定の能力を発揮する3人を選択しました。サージュが就任してからは、グロッソが守備バランスを考慮して消極的だったシェルキとラカゼットの共存にも着手しました。

ラカゼットのハットトリック及びリヨンの総得点はいずれもセットプレーから。しかし、これはサージュが就任してからある程度デザインされたセットプレーの手段です。

RCランス戦のオブライエンの2得点がその最たる例ではありますが、CK時に高身長のCBをニアサイドに複数人並べて、キッカーのカクレはシンプルにそのニアを選択。今回はニアの面々がフリックして、その溢れをラカゼットが押し込むという得点パターンでした。いわゆるストーンを並べる普遍的な形ですが、選手のタイプを当てはめると一番効率が良い形だと思います。

ニアに相手が寄れば、クロッサーはその逆も利用できるわけで。総じて言えるのは、「少ないチャンスをものにするための人員整理」と「そこから生み出されるものは何か」というのがリヨンの現状の課題だったことで、サージュはそこをうまく見出したと共にマンマネージメントも上手く行えたと評価します。

前半終了間際にPKを守護神ロペスがストップして前半を終えるというこれまた最高の流れで前半を終えることができた背景も大きく、リヨンは流れを維持したまま今季初めてホームで勝ち点3を獲得しました。

試合後のラカゼットのインタビューを添えておきます

「監督と話す機会があった。サージュは自分に自信を示し、仮に自分がゴールを決められなくともそれでもチームを助けることはできると言ってくれた。それは彼のもとでプレーした全ての試合で示すことができたと思う。
もっとゲームに絡みたいと思うが、今日は仲間から『今日は点を取るんだ』『チームを助けるんだ』という自信も感じられた。その時、2ヶ月間点を決められなかったにも関わらず愛されてると感じたし、グループの力を感じた。これは本当にいいことだ。」

Alexandar Lacazette

この試合にはジョン・テクストルオーナーとジャン=ミシェル・オラス名誉会長が久しぶりに顔を合わせるという機会もありました。オラス氏はリヨンの一部の株を差し押さえした過去がありましたが、最終的には和解してオーナーに意を託しました。

テクストルオーナー(左)とオラス名誉会長(右)


一方、リヨンに敗れたことでカルレス・マルティネス監督の風当たりがさらに強まっているトゥールーズ。この試合では、攻撃面の工夫が見られずにセットプレーで沈見ました。個人的にはこの監督は好きなタイプですが、ELの躍進とは裏腹に地元サポーターの不満が高まっているのが事実です。そもそもちょうど1年前に当時15位の成績に腹を立てたダミアン・コモリ会長とその夫人が、モンタニエ監督の右腕を解任してまで連れてきたのがマルティネス監督なので会長も自責の念に駆られているところでしょう(モンタニエは会長らに嫌気がさして昨季で退任)。



今節の結果まとめ

2023/12/09
モンペリエ 0-0 RCランス

2023/12/10
レンヌ 1-2 モナコ
PSG 2-1 ナント
ニース 2-1 スタッド・ランス
クレルモン 0-0 リール
メス 0-1 ブレスト
ストラスブール 2-1 ル・アーヴル

2023/12/11
リヨン 3-0 トゥールーズ
ロリアン 2-4 マルセイユ


第15節を終えた段階での現在の順位表がこちらです。



次節の注目ゲーム

ミッドウィークではヨーロッパの各コンペティションの最終節が行われます。第16節では、両者共に決勝トーナメント進出を果たした「リール×PSG」の1戦に注目しましょう。

まずはホームチームから。ECLは我々の期待通りに勝ち進み、決勝トーナメント進出を早々に決めたリール。前節のクレルモン戦ではフォンセカ監督が「フランスに来てから最悪の審判だった」と評するもスコアレスドロー決着。しかし、驚異的なのはここ公式戦13試合無敗という記録。コンパクトなゾーンディフェンスに得意のムービングフットボールが封じられて、開幕当初は躓きましたがここに来て「ヤズジュの0トップ」含めてエースにも本来の嗅覚が戻ってきている状態です。昨季のこの対戦ではシーズンダブルを喰らいましたが、得意のホームではPSGに黒星をつけてもなんら不思議ではないです。

そしてアウェーチーム。何やかんやありながらCL決勝トーナメント進出を決めたPSG。ドルトムント戦での決勝トーナメント行きを最優先したルイス・エンリケ監督の言動には批判が集中しましたが(会長は擁護)、CLの決勝トーナメントに行く/行かないではクラブに入る資金面はもちろん、選手たちのモチベーション低下にも繋がりかねないので自分は当然の行動だと思う派です。「挑める」という環境のありがたみと共に、グアルディオラのように1年かけて再編成するのがエンリケの理想であれば、見所が増えた事実には変わりません。リーグ戦では相手のクオリティ不足に助けられているとはいえ、今節のリールは決して侮れない相手です。



23/24 リーグアン 第16節日程(日本時間)

2023/12/16
 5:00 モナコ×リヨン

2023/12/17
 1:00 ル・アーヴル×ニース
 5:00 RCランス×スタッド・ランス
21:00 ナント×ブレスト
23:00 ロリアン×ストラスブール
23:00 メス×モンペリエ
23:00 トゥールーズ×レンヌ

2023/12/18
 1:05 マルセイユ×クレルモン
 4:45 リール×PSG

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