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ルイス・エンリケPSG 解体新書

太陽暦であるグレゴリオ暦の閏日として、4年に一度訪れる2月29日。欧州フットボール界ではちょうど勃興するクラブと凋落するクラブがはっきりしてくる時期にあたる。

とりわけ世間の注目の的となるUEFAチャンピオンズリーグラウンド16では、久保建英所属のレアル・ソシエダがフランス王者パリ・サンジェルマンと相見えることとなった。

今回は普段リーグアン及びPSGを見る機会が少ない方向けに、今季のPSGの歩みを紹介していきたい。



改革第二章への挑戦

まず、断っておきたいのはPSGは現在、改革の最中にあるということだ。今季を語る前に、昨季からの流れが続いていることを丁寧に解説する。


フランス人化を目指して

2022年W杯の開催地がカタールに決まり、王室後援のもと2011年にQSI[Qatar Sports Investments]がPSGに参入したのは既知の事実だろう。

いわばカタールW杯の広告塔として迎えられたフランスの首都クラブのプロジェクトの最大の目的はUEFAチャンピオンズリーグ優勝だった。

その目標を成就すべく、PSGにはズラタン・イブラヒモビッチ、チアゴ・シウバ、ネイマール、リオネル・メッシなどの名だたるスーパースターが加入した。しかしながら、彼らをもってしても優勝には届かなかった。

年末にW杯を控えた2022年夏。エンバペとの契約問題を済ませたアル=ケライフィ会長は地元メディアにこう語った。

今後数年間の目標は、パリ出身の選手だけでチームを構築すること。この地域にはたくさんの才能であふれている。我々の地域の最高の選手たちはPSGでプレーする資格がある。時間がかかるだろうが、それが目標なんだ

Le Parisienより

シーズン中にW杯を挟むことから、その年に多額の投資をしてUCL優勝を狙う必要が無くなった(元来の計画通り)。パリ出身選手を主体としたチーム作りは、地元ファンから長らく要望されていたものでもあった。会長の野望のもと、フランス人化の礎を築くべく2人の人物が招かれる。

1人目はクリストフ・ガルティエ🇫🇷監督。サンテティエンヌでUEL進出&カップ戦タイトル、リールでリーグ優勝、ニースでカップ戦決勝進出と、率いてきたリーグアンのクラブで結果を出し続けてきた人物。
2人目はフットボールアドバイザーとして(ほぼレオナルドの後任SD)、ルイス・カンポス🇵🇹を招聘した。SDとしてモナコとリールの優勝に貢献し、リールではガルティエとタッグを組んでいた。

クリストフ・ガルティエ(左)
ルイス・カンポス(右)

フランスフットボール界に精通している2人を招聘し、目に見えてフランス人化を進めた。ユーゴ・エキティケ、ヴィティーニャ、ファビアン・ルイス、カルロス・ソレールら若手及び準レギュラー格をしきりに集め、代わりに高年俸の選手を全体練習から外す冷遇措置で赤字のやり繰りをしたのが昨夏だった。

前半戦こそ真面目にトレーニングに励んだネイマールの好調もあって無敗でW杯を迎えたが、1月からは負傷者が重なり大失速。結果2年連続11回目の優勝を果たしたものの、38試合で7敗・40失点という醜態を晒した。

不安定な采配が目立ったガルティエ監督は過去のハラスメント問題も重なって退任。ルイス・カンポスは後任人事に勤しんだ。


都合のいいルイス・エンリケ

大手代理人ジョルジュ・メンデスとの強いポルトガル繋がりを活かして、ルイス・カンポスはシーズン途中からジョゼ・モウリーニョにアプローチした。

しかし、ASローマへの忠誠を誓った指揮官に断られ、続いてティエリ・アンリアシスタントコーチ付属のもとユリアン・ナーゲルスマンへのオファーも破談。

クラブOBチアゴ・モッタ就任を望む会長側とのいざこざはありながら、最終的にはルイス・エンリケで折り合いがついた。



ルイス・エンリケの内面は...

2022年W杯では自身のエゴが強すぎる代表選出と選手起用が目立った印象だが、意外にもある一定の部分では思いやり溢れる・腰が低い人物であると個人的に評価する(もっと頑固な人だと思ってた)。


というのも、彼が就任した理由より他の監督に断られた理由から考察したい。昨季から続く高年俸選手の無慈悲な放出に関して、今夏の対象となったのはクラブの顔でもあるネイマールマルコ・ヴェラッティ。毎年の如く稼働率が低い影響から、昨季で首脳陣(ほぼルイス・カンポス)の堪忍袋の尾が切れてしまった。

ネイマールとヴェラッティを構想外にする計画にオファーを出した中で快諾したのがルイス・エンリケだった。バルセロナ時代の縁があり、尚且つ言語面における相互理解の容易さから両者は重宝されるかもしれないと思っていたが、ルイス・エンリケは首脳陣の考えを尊重した。


また、選手起用にも彼の情けと忖度が感じられる。彼が7月5日に就任してから彼の希望のもと、リュカ・エルナンデス、アルナウ・テナス、ウスマヌ・デンベレらが加わった。しかし彼の希望とは裏腹に、目標のフランス人化&自身のコネクションを使いたがる一部フロントの勢いで市場最終日まで補強を敢行し、総勢30名のスカッドが完成した。

今季の新戦力

結果として、昨季からの負傷を抱えた選手は複数名いたものの、明らかな戦力外のレヴァン・クルザワやユーゴ・エキティケ、シェール・エンドゥールらの放出は進まず、特に前線は人員過多となっている(前半戦迄)。

さらに部分的な長所でもあり悩み所でもあるのが、ポリバレントな選手が多いことである。そのため、ルイス・エンリケはターンオーバーを積極的に行い(前半戦終盤からは選手交代の数も増えた印象)、起用可能な選手を次々にピッチに送り出す傾向が強い(それによる弊害は後述)。

スカッドのフランス人化が進み、選手ほぼ全員を起用するという統治法で開幕前から懸念されていた治安悪化を未然に防ぐという手法なのかもしれないが、、



情け×傲慢×希望を掛け合わせた采配

ようやくピッチに目を向けよう。個人的には数字の掛け合わせや配列の話をするのは好みではないが(全てはシャビ・アロンソが代弁してくれている)、PSGの現状に疎い方々のために個人的見解も踏まえて3つのパターンで紹介していく。

※これから紹介する動画に関して、[note]ではリーグアン公式YouTubeチャンネルからの動画のサムネイル表示がブロックされているため、「YouTubeで見る」を押してご覧ください



パターン①

おそらく2番目に可能性が高いのがこのシステム。開幕数試合と違うのはアセンシオをフォルソ9として起用していたのを、彼の負傷離脱後にゴンサロ・ラモスがトップに収まった。

アセンシオの時から取り組んでいるのは、ビルドアップのピボーテとウイング、トップのポジショニング補正である。

ルイス・エンリケ体制PSGのビルドアップ時の特徴の1つとして、両SBが大外に張ることである。SBが大外に開くことは、相手の中閉め・外嵌めプレスの餌食になりやすいが、スペイン代表監督時代からルイス・エンリケはあえてSBを張らせ、外嵌めプレスを逆手に取ってそれを剥がし、一気に突破する狙いがある。

まずは右サイド。ハキミに対して斜めのポジションを取るのは、CFゴンサロ・ラモス。センターサークルに留まらずにハキミに対して斜め近くの位置を取り、基本的に相手CBを背負いながら1タッチで推進力のあるダブルボランチ(エメリとウガルテの場合)に預け、突破の糸口を作る。

ただ、相手CBを背負いながら自陣において重心低めの設定で人数をかけるこの手法は、当然ながら相当リスクが高い。広いダブルボランチ脇のスペースを突かれ、カバーが間に合わないケースが散見される。リーグアンレベルではさほど問題にならないが、レベルが上がるCLではハントの対象となっている。

右サイドのビルドアップ時のポジショニングが原因で失点に繋がった例①

右サイドのビルドアップ時のポジショニングが原因で失点に繋がった例②


次に左サイド。左サイドでも同様にSBが大外に張るが、図の3人の場合(エンバペ・ヴィティーニャ・リュカ)であるとトライアングルを利用した関係性が非常に分かりやすくなっている。(主にパスなどで)プレス回避能力の高い3人による1タッチの連携で外嵌めプレスを回避し、一気にゴール前に侵入する。

左サイドの関係性を活かし、ゴールにつなげた例



パターン②・③を紹介する前に、どのメンバー・人選においても基本事項としていることがある。

ハーフウェーライン以降は、RSB(ハキミ or エメリ or ソレール)がインサイド寄りのポジションを取り、基本大外で待つRWGの斜めのパスコースを確保している。基本的に右サイドから始まる攻撃をカバーすべく、後ろは3枚でカバーし、ボランチも含めて全体的に右寄りのカバー体制を取る。

この場合の左サイドは、エンバペとヴィティーニャがポジションを交換しながら、片方が空けたスペースを片方が埋めるという動きを徹底している。


このシステムを利用したグループ戦術及び今季のPSGの攻撃時の十八番と言えるものがある。

大外でボールをもらったデンベレがカットインのドリブルを開始。横方向のドリブルに相手の中盤が喰いつくと同時にハキミがバックドアを仕掛け(エメリの場合も有)、デンベレからハーフレーンに侵入するハキミにボールが渡る。CFゴンサロ・ラモスがニアで相手DFを引っ張り、最後にボックス内に侵入したエンバペがフィニッシュを決める

両足蹴れる・高速足首切り返しのデンベレの技術と、ハキミのスピード、オフザボール囮の動きの質が高いゴンサロ・ラモス、シュート技術が上手いエンバペといった各々の特徴を噛み合わせたフィニッシュワーク(ドリブルアット→バックドア)。

「クロスの対象はニアかマイナス」・「最後にボックス内に侵入した者がシュートを打つ」という現代フットボールの流れに沿った創造性溢れる形である。

この動きを得点に結びつけたのがこちら


さらに、フィニッシュ対象者のエンバペにマークがついていたり、バックドアが警戒された場合は似たような文脈で以下のようなゴールが生まれている。



パターン②

ライバル・マルセイユとのダービーから始まった、FWをてんこ盛りに同時起用したシステム。手負いのマルセイユには大勝を収めたが、CLで同システムを起用したところ、ニューカッスルに手痛い仕打ちを食らった(●1-4)。

RBがインサイドに寄るのは変わらずも、守備貢献度の低いWGが揃うことでその裏のスペースを否応なく使われてしまう。中盤2枚では当然カバーできず、攻守のパワーバランスが崩れている。ルイス・エンリケの傲慢さを最も強く表しているのが、このほぼ脳筋に近いシステムである。

ラ・レアル戦に向けてはこのシステムで臨む可能性は低いが、直近の試合ではゴンサロ・ラモスの代わりにアセンシオが似たような立ち位置・文脈でプレーしている。



パターン③

ゴンサロ・ラモスの負傷離脱後はこのメンバーでほぼ固まっており、多少の人選変更はあれども恐らくラ・レアル戦もこれで臨むのではないかと想像する。

守備で大穴になるエンバペをトップに据えることで、多少の守備強度を上げる狙いがある(RBがインサイドに寄るのも〜以下同文)。

ただ、ボールに触りたがって降りてくるエンバペはバルコラとの連携含めたパサーとしての才能もあるが、リーグアンの対戦相手を見ると、「下がるエンバペは全く怖くない」というスタンスのコンパクトなブロックの前には攻め手を欠いている様子が散見される。リオネル・メッシやネイマール、ディ・マリアら高水準のパスを供給する役者がいなくなったがために、その脅威は若干減った印象がある。

しかしながら、エンバペがトップに入ると以下のようなシーンが増える。

ズーレのスーパークリアの方が視聴者の脳裏に深く刻まれているだろうが、俊足かつオフザボールの質が高いエンバペを走らせるロングフィードの数は、エンバペがトップに配置されると増えた。フィード能力の高いマルキーニョスやリュカ・エルナンデスからシンプルな形でチャンスになるシーンが度々。


3つのパターンに分けて紹介してきたが、ここからはチームと個人の課題について綴っていく。



チームとしての課題

①ターンオーバーの弊害

ゴンサロ・ラモスを使ったビルドアップでミスが生じた動画内でも見てとれるように、画像で紹介した並びは徹底されているわけではない。

積極的にターンオーバーを敷いていることで、人によって微妙に立ち位置・他者のタスクを変更している。それによって、特にビルドアップ時の各々のポジショニングが定まっておらず、ボールを円滑に運ぶことができていない様子が散見される。

エンバペやドンナルンマらと共にCLのグループリーグ全試合に出場した、今季新加入のランダル・コロ・ムアニを例に挙げる。

Randal Kolo Muani🇫🇷
1998/12/05

強硬策でPSGへの加入をこじつけた彼には、9500万€という評価がついた今夏。当然今季の最高額加入選手となったわけだが、ビルドアップ時に彼にゴンサロ・ラモスのポジショニング・役割を期待することはできない。

少々動きすぎる傾向が強く、代表ではデシャンがうまく整備しているが、クラブレベルではその様子が窺えない(ナント時代は2トップの右が主戦場だった)。

彼1人を責めたいわけではないが、彼を筆頭にポリバレントなタレントを躊躇せずに複数のポジションで起用することで各々の相互理解が薄れている印象がある。ポジショニングが曖昧なビルドアップは当然苦労する傾向が強く、結局はエンバペが中心にならないと前進すら怪しくなるのがCLでの惨状だ。

攻撃時にRBがインサイドに寄ることは、ハキミでも他者に置き換えても変わらないものの、未だ誰がどこのポジションを主戦場とするか定まっていないがために迷いの色を隠せない選手が複数名見受けられる。



②なんちゃって守備の限界

攻撃時の質が高いエンバペは、守備貢献度が低く、特にサイドで起用されると大穴になってしまうのは積年のPSGの課題である。

パターン③のメンバーを基にPSGの守備を紹介すると、以下のようになる。

RBがインサイドに寄るのを均一にカバーするために、後ろが3枚になることで被カウンター時にはCB脇のスペースを突かれるケースが多い。マルキーニョスやリュカらは必死に自陣に戻って遅らせる個人戦術のレベルが高いが、必ずしも毎回そのパフォーマンスが安定している訳でもなければ当然守りきれているわけでもない(ラファエル・レオンのゴールやニース戦の失点がその象徴)


パターン③のメンバーに当てはめると、恐らく自陣内では以下のような守備陣形を取る可能性が高い。

脇のCB陣が必死に遅らせた後は、中盤のプレスバックと共に急いで守備ブロックを形成するが、単なる即席の人数合わせの守備がほとんどであり、相互間のカバーにおけるクリエイティヴなゾーンディフェンスが機能しているとは言い難い。

画像の場合は左からバルコラがプレスバックしているものの、彼もスペースを人数合わせで守り切る脳筋なタスクを与えられている印象がある。しかし、それ以上にこの画像では7番と10番に目が行き届くだろう。

彼らはほとんどの場合は守備負担を減らされており、その分カウンターの起点となる。2人だけである程度完結させてしまうカウンターは見る者を魅了するが、片方のボールが明後日の方向に飛んだり、片方のシュートが単純だった場合が度々..。攻守の釣り合いが成り立たない場合にヤキモキするファンも少なくない。



一見守備は攻略本が作れそうなぐらい穴があるように思われる。しかし、なぜそれでもリーグアンで首位なのかを問われると、「所詮リーグアンレベルだから」としか言いようがない。後述する者の活躍はあるものの、全体として攻守のバランスが取れているか否かは明確な答えが返ってくるだろう。まさに「諸刃の剣」であり「自分で自分の首を絞めている」。

ここからは、特定の選手3人と監督に対する個人的な評価を載せたい。



個人としての課題

①過信による命取り

Gianluigi Donnarumma🇮🇹
1999/02/25

リーグ戦におけるチームの総失点の数が17で済んでいるのは(第20節迄)、この男の驚異的な反射神経に救われているからといっても過言ではない。

チームとしてレアル・マドリードやマンチーニ体制サウジアラビア代表のように、最後はGKに止めさせるイタリア式のPA内の守備を取っているのならまだしも、前述の通り即席の人数合わせに依る部分が多いがために、なんちゃって守備の中で最後尾で踏ん張っている。

確かに彼が救ってきたことの方が遥かに多いが、彼の長年の課題は一向に改善される気配がない。相手のプレッシャーを受けると(特に利き足の反対側に限定されると)イージーなミスを起こしやすく、南野拓実の今季4点目は彼がアシストしている。ウィル・スティル監督(スタッド・ランス)をはじめ、対戦相手はまず彼にプレッシャーを与えることから考え始めるほどである。

さらに守備範囲の狭さも相変わらずであり、1対1の飛び出し技術もさることながら、第14節ル・アーヴル戦では川田利明ばりのジャンピングハイキックを相手FWにお見舞いして、一発退場となっている。

舞台が大きければ大きいほど、1つのミスが命取りになるのは自明だ。数多のシュートを浴びて派手なガッツポーズで自身の気合いを高めているのかもしれないが、ファンが彼を評価する際にどうしても思い悩んでしまう部分があるのはそういった所業が原因である。


②不在時の守備強度と波の大きさのアンバランス

Manuel Ugarte🇺🇾
2001/04/11

移籍金がかかった今夏の補強第一号。昨季は不在だった守備強度を上げてくれる中盤の加入は、序盤戦はチームに大きなプラスをもたらした。攻撃時は動きすぎずに、やや右寄りの中央付近で周囲のカバーに徹底し、ある時は全速力で自陣に戻ってCBの脇のスペースをカバーする。

守備範囲の広さとデュエルの強さ、南米仕込みの荒いタックルはサポーターを虜にしたが、序盤戦は出ずっぱりだった影響から休息を与えた途端、あっという間にパフォーマンスレベルが低下し、現在ではスタートから登場しないのも珍しくない。

しかし、彼がいないと中盤の守備強度がグッと落ちてしまう。ただでさえ組織的な守備をしないチームであるのに、彼が不在の場合のバイタルエリアは非常に脆くなる。

個人的には南米仕込みの荒いタックルも懸念材料の1つだ。フィジカルコンタクトの基準が緩いリーグアンでは、彼の荒い守備対応はある程度許容されているものの、フランス人が笛を吹かない国際舞台においては、荒い対応でカードをもらい、重要な試合で出場停止という危険性も見逃せない。

彼がいないことで失うものはあるものの、パフォーマンスレベルの安定性に関してはかなり不透明であり、起用を躊躇うのも納得がいく。ある程度の賭け要素になるかもしれないが、それが彼に対する信頼の表れになるだろう。


③完全に憎めない気分屋

Kylian Mbappé🇫🇷
1998/12/20

チーム総得点の半数近くを叩き出し、リーグでは得点王争いから抜け出している彼に満点評価をつけがたいのには複数の理由がある。

グループ戦術でも紹介したように、最終的には彼が決める文脈でチームを構築しているが(その点では前々監督と酷似)、肝心の彼が少々雑なプレーを見せることも少なくない。彼がいないと高いレベルの中ではビルドアップすらもままならない部分はあるが、気迫を求めるファンの期待と実際に彼がピッチで見せる姿は少なくないズレが生じているように見える。

ましてや、彼の頭の中には既に来季の白いユニフォーム姿が描かれているかもしれない。その点を踏まえると気分屋に転じてしまうのは理解できるが、彼に対する期待はそれとは比べものにならないほど絶大なものがある。

これ以上は綴らないこととするが、中立で見ている立場からしても数字以上の内容にはまだ物足りなさがある。大好きなパリでの物語をハッピーエンドで終えられるか否かは全て彼の気持ち次第である。



④自身の理想をどこまで追求するか

今回の就任にあたっては、会長側が望んだ人材ではなかったとされているが、彼を評価する上ではまずポジティブな面から。ポリバレントなタレントを多く抱えている状況を踏まえて、起用可能な状態であれば躊躇せずにほぼ全員出場させることにより、選手各々の可能性を広げようとしている意図が感じられる。

最終的にエンバペに決めさせる文脈でグループ戦術を組んでいるものの、それ以外にも攻撃時は各々のタスクを即座に理解させることで決定機の数で言えば例年以上の水準である。

残念なところで言えば、やはり攻守の釣り合いが取れていない場合でも極度の自信を持って臨み、結果として後手を踏んでしまうことも少なくない。それに関しては結果を残せば「名采配」・ズタボロな内容で結着すると「傲慢」と言われてしまうのは監督の宿命でもあるが、、

前述の通り、全員を起用することはまだ連携や意思疎通が完全に取れていない者たちを試合を通して経験させてしまうことである。リーグアンのレベルでは何とかなるものの、レベルの高い舞台ではアウェーの空気の飲み込まれて後手を踏んでしまう傾向が強い。春以降にベストメンバーを選定するならまだしも、現在の調子のまま進んでしまうと難しさが生じてしまうかもしれない(ましてや2年契約)。


人選以上に、一部ファンから顰蹙を買っているのが、彼の態度である。CLグループリーグ最終節ドルトムント戦における終盤にて、他試合との噛み合わせによって勝利よりも決勝トーナメント進出を優先してボール回しによる低リスクの判断をとった行動には多くの非難が集められた。

サポーターがその判断に物議を醸したのは、PSGはCLにてここ3年連続でベスト16止まりに終わっていることが理由だ。2位突破となれば当然他組の1位の強豪と対戦する確率が高くなり、チームはその憂き目を見ているからだ。さらにドルトムントと引き分け、他試合の結果により2位で決勝トーナメント進出が決まって大喜びした監督の姿も一部サポーターからの反感を買わせた。

さらに、2月2日に行われた記者会見にてCLラ・レアル戦まで12日となったことを問われると、「12日後にはみんな死んでるかもしれないね。チャンピオンズリーグには今の所興味がない。今はブレスト戦(カップ戦)のことに集中している。」というコメントを残したのも意図は理解できるが、言い方には問題があるように思われる。さらに過去の記事を読んでみても、記者会見での態度にはあまり評判が良くないようだ。

いずれにせよ、命運を握るのは彼の人選であることは間違いない。現段階では誰がスタメンになり得るか想像するのが難しいが、その判断を楽しみに待ちたい。


他の選手の評価を以下のファイルにまとめました


後半にかけては少々ネガティブな要素が多くなってしまったが、いちリーグアンを代表して国際舞台で活躍することを願っている。ラ・レアルも当然手強い相手であることは間違いないが、最高の戦いを披露してくれるだろう。

Allez Paris 🔴🔵!!

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