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えべっさん


えべっさんの3日間は、境内にぎっしりの人で賑わう堀川戎神社

来訪新としてのえべっさん

えべっさんというのは、マレビトだな。
マレビトとは民俗学者の折口信夫の命名で、里や村に稀にやって来るストレンジャーのことで、それは姿を変えた神さんであるとされていて、折口は、このストレンジャーのことを、マレビト(客神)と呼んだ。
日本は多神多仏の国で、仏さんのみならず、多くの神さんは、どこかからやって来て、またどこかへ帰っていく。べつに世界の中心にいるわけではない。須弥山のような山はない。神さんはどこからからやって来て、一定期間を過ぎると、またどこかへ行ってしまう。(元の場所へ帰るのだろうか?) いわばゲスト。客神。来訪神。マレビト。ストレンジャー。
キリスト教やユダヤ教のような一神教では、ほとんどの神はホストの神であって、イエスもヤハウェも、天空や社会の中心に据えられている主人なので、その宗教を信じる人たちは、「主よ」と祈る。須弥山にはブラフマーが住んでいる。
正月には、歳神さんが山から下りて里にやって来る。歳神さんを迎えるために門松を立て松飾りをし、火を使わないように「おせち」を年の暮れに用意する。「お年玉」は、歳神さんの魂を分け与えてもらうことで、その年の無病息災を祈願するものだ。
その年の無病息災を祈願するといえば、「万歳」もそう。
正月の祝福芸能やその演者のことを万歳と言うけれども、転じて長寿を祝う言葉でもあった。言葉であり、お年玉が魂そのものであるように、万歳もまた、年頭にあたって1年間の幸運を寿ぐ役割を持ったマレビトにも擬せられた。
お年玉も万歳も、来訪神そのものと言えるのかもしれない。
そして歳神さんはまた山に帰っていく。そのように、客神が里や家にいるあいだが「松の内」だ。
「松の内」が明けると、門松や松飾りなどを持ち寄って燃やす「どんど焼き」をおこなう。
歳神さんは、その煙に乗って、天上に帰っていく。
こうした客神の習俗は日々の生活に溢れていて、お座敷では客を上座に座らせ、帰ればどんちゃん騒ぎがはじまる。大事なものはいったん神棚や仏壇にあげる。それが済めばすぐに下ろして、食べるなり使うなりする。
お盆にご先祖さんをお迎えし、お送りするのも、そう。客を迎える作法である。
というわけで、客神・来訪神・マレビトだらけなのが日本の神さんだが、えべっさんも、そんな客神・来訪神のおひとり。
蛭子さん
戎さん
恵美須さん
恵比須さん
漢字表記というのはビックリするくらいこだわりなくテキトーに言葉が当てられることが多いので、どれが正解かなど分からない。全部正解。諸説ある。諸説あるけれども、エビスさんもしくはヒルコさんは、とりあえず、どっかからやって来た神さんだ。
イザナギとイザナミから最初に生まれた神さんが、手と足がない蛭(ヒル)の姿で生まれた不具の子で、葦船に乗せられオノコロ島から流されてしまったというのは、古事記に登場する有名なエピソードだ。
葦船に乗せられオノコロ島から流されてしまい、漂流神となったヒルコが(西宮の?)岸に辿り着き、えべっさんとなった。客神というか、流される神、漂流神ですな。

常世からやって来た

日本沿岸の各地域では、漂流物をエビス神として信仰したケースが多い。
ときおり浜に打ち上げられた鯨やサメなどを神さんからの授かりものとして受け止める習わしが古くからあった、とは宮本常一がどこかで書いている。思いがけない獲物を皆で分け合い、一時の「福」を得るのである。
そうした慣わしを下地として、福をもたらすというヒルコの福神伝承が、異相の釣魚翁であるエビス(夷/恵比寿)と結びついたと言われている。
次第に漁撈や豊驍や商売のシンボルに転じて、鯛を釣りあげるえべっさんになっていった。そして西宮神社にはでっかいマグロが奉納され、皆が硬貨をはりつけ、願掛けをする。
だいたい、日本では、海の向こうには、神が棲む常世の国、ニライカナイ、死者が向かう国、不老不死の国などなど、異世界があったと考えられてきた。そして海からの漂着物はそんな異世界から来たものと考えられ、それらは福をもたらすものとして尊ばれてきた。
海の向こうからやって来たミルク神、アカマタ・クロマタ、クラーク博士、ジーコ、iPhone…。
さて、そんな漂流神としてのえべっさんは、不具の子と生まれた名残りで、耳が遠い。が、漂流神なので福をもたらす。これはもう、ギフテッドやね。神の子、スティーヴィー・ワンダー!
そこへ、願掛けを念押ししたくなる大阪人の図太さが加わって、裏参りの作法が生まれる。表でパンパンと柏手、裏にまわって、ようよう頼んまっせ!と、念を押す。銅鑼を叩く。
堀川戎神社には現在、本殿の裏の際に駐車場の壁があるので、裏参りはできない。
できないが、参拝客はめっちゃ多い。
今年も無事に参拝できた。
えべっさん、ようよう頼んまっせ!

商売繁盛〜!と巫女さんがお祓いをしてくれる

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