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ドイツ詩を訳してみる

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ひよこのるる訳詩目録

2018年11月以来発表してきたぼくの訳詩約70編の、作者別の目録です。もし気に入った作品を見つけたら、同じ作者や時代の他の作品も読んでみていただけたらとてもうれしいです。

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作曲家・ミュージシャン別の索引も用意しております。

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以下、作者の生年順に並べています。

Marcus Valerius Martialis/マルクス・ウァレリウス・マルティアリス(ローマ)
c.40-c.

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ハイネ「ぼくは恨まない…」(ドイツ詩を訳してみる 36)

Heinrich Heine (1797-1856), Ich grolle nicht (1827)

ぼくは恨まない 心がずたずたになっても
きみは二度と戻らない! ぼくは恨まない。
きみがどれだけ眩いダイヤで身を飾っても
きみの心のなかの闇を照らす光などない。

そんなのとっくに分かっていた。ぼくは夢できみを見たんだ。
ぼくは見たんだ きみの心のなかに巣くう闇を
ぼくは見たんだ きみの心をむ

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ハイネ「ばらや 百合や 鳩や 太陽が…」(ドイツ詩を訳してみる 35)

Heinrich Heine (1797-1856), Die Rose, die Lilie, die Taube, die Sonne (1827)

ばらや 百合や 鳩や 太陽が
みんな 好きで 好きで しあわせだった。
でもそんなものもう好きじゃない、好きなのはただひとり
小さくて 繊細で 清らかで かけがえのないひと、
そのひとそのものが すべての愛のみなもとで
ばらであり 百合であり 

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マイヤー「ローマの噴水」(ドイツ詩を訳してみる 34)

Conrad Ferdinand Meyer, Der römische Brunnen (1882)

噴き上がった水が降りそそぎ
大理石の水盤の縁までひたすと、
水しぶきのヴェールの向こうで
二つめの水盤の底へこぼれ出る。
二つめの水盤も満ちあふれると、
三つめの水盤にうねる水を渡す。
こうしてめいめいが受け取りつつ与え、
流れつつとどまっている。

(山口四郎・檜山哲彦の訳を参考にした。)

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ハイネ「きみはまるで花のように…」(ドイツ詩を訳してみる 33)

Heinrich Heine, Du bist wie eine Blume (1827)

(森泉朋子・山枡信明の訳を参考にした。)

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この詩には信じられないほどたくさんの作曲家が曲をつけています。主要なものだけを紹介します。

シューマンによる歌曲[楽譜](1840年、『ミルテの花』第24曲)

フランツ・リストによる歌曲[楽譜](1843年/1849年)

アントン・ルビンシテインに

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ゲーテ「野ばら」(ドイツ詩を訳してみる 32)

Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), Heidenröslein (1771)

子供が見つけた
野に咲くばら、
まばゆい盛りの
野ばらに駆け寄り
うっとり見つめた。
ばら ばら まっか
野に咲くばら。

「おまえを摘んでやる
 野に咲くばら」
「あんたを刺してやる
 忘れられなくしてやる
 摘まれるのはいや」
ばら ばら まっか
野に咲くばら。

子供が

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ハイネ「うるわしく美しい五月」(ドイツ詩を訳してみる 31)

Heinrich Heine (1797-1856), Im wunderschönen Monat Mai (1823)

うるわしく美しい五月
つぼみがいっせいに開くころ
ぼくの心のなかでは
恋が花開いた。

うるわしく美しい五月
鳥たちが一斉に歌うころ
ぼくはあの子に打ち明けた
あこがれと焦がれる思いを。

(喜多尾道冬の訳を参考にした。)

Im wunderschönen Monat M

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アイヒェンドルフ「壊れた指輪」(ドイツ詩を訳してみる 30)

Joseph von Eichendorff(1788-1857), Das zerbrochene Ringlein (c.1810)

すずしい谷間で
水車がまわる、
水車小屋に住んでいた
愛しいひとはもういない。

一生の愛を誓って
ぼくに指輪をくれたのに、
愛の誓いは破られて
ぼくの指輪は裂けた。

ぼくは歌びとになって
広い世界を旅したい、
家から家へ巡って
ぼくの歌を歌いたい。

ぼく

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格を気にするひと(訳者あとがき2)

格を気にするひと(訳者あとがき2)

このところ翻訳する中で、格を気にさせすぎない日本語にする、ということを気にしていることがある。

学校で習う英文法では

〈主格〉  I  私が
〈所有格〉  my  私の
〈目的格〉  me  私を/私に

というのがある。ドイツ語やフランス語にもだいたい同じようなものがある。日本語文法では「ガ格」「ヲ格」「ニ格」などと呼ばれていて、これも似たようなものだ。

しかし、ぼくらは普段それほど格を意

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ハイネ「ぼくが涙をこぼすと…」(ドイツ詩を訳してみる 29)

Heinrich Heine (1797-1856), Aus meinen Thränen sprießen (1823)

ぼくが涙をこぼすと
花々が芽生えて咲き乱れる、
ぼくがため息をもらすと
サヨナキドリの合唱に変わる、

そして可愛いきみがぼくを愛するなら、
咲いた花を全部きみにあげよう、
そしてきみの部屋の窓辺で
サヨナキドリの歌声を響かせよう。

(喜多尾道冬、志田麓の訳を参考にした

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ハイネ「ある若者が娘に恋をして…」(ドイツ詩を訳してみる 28)

Heinrich Heine, Ein Jüngling liebt ein Mädchen (1822)

ある若者が娘に恋をして、
娘は別の男を好きになり、
その男はまた別の女に恋をして
二人は夫婦になりました。

娘は腹を立てるあまり
道端でたまたま出くわした
行きずりの男と結婚したので、
若者は参ってしまいましたとさ。

これは昔むかしの物語、
けれど今なお古びない。
そしていざ我が身にふ

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ツェラン「死のフーガ」(ドイツ詩を訳してみる 27)

Paul Celan, Todesfuge (1944)

明け方の黒いミルク 僕らは夕方にそれを飲む
僕らは昼に朝にそれを飲む 僕らは夜にそれを飲む
僕らは飲みに飲む
僕らは空に墓を掘る そこなら狭くない
ひとりの男が家に住む 彼は蛇らと戯れる 彼は書く
彼は日が暮れるとドイツへ手紙を書く 君の金色の髪マルガレーテ
彼はそう書く そして家を出る 星が輝く 彼は彼の犬らを口笛で呼び寄せる
彼は彼の

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ひよこのるる訳詩目録 作曲家・ミュージシャン別索引

noteで70編以上の詩を翻訳する中で、それらに関係のある音楽もたくさん紹介してきました。クラシックの歌曲や合唱曲が多いですが、シャンソンやロックもあります。いろいろな詩を楽しんでいただく一つのきっかけとして、それらを作曲家・ミュージシャン別に並べてみました。

おなじみの人や作品の中に、聞いたこともないような人や作品が交ざっていることでしょう。またすべてが傑作というわけではないでしょう。しかしそ

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リュッケルト「きみはぼくの魂、きみはぼくの心……」(ドイツ詩を訳してみる 26)

Friedrich Rückert, Liebesfrühling (1821) III

きみはぼくの魂、きみはぼくの心、
きみはぼくの歓び、きみはぼくの痛み、
きみはぼくが生きるぼくの世界、
きみはぼくが昇るぼくの空、
ああ きみはぼくが葬り去った
ぼくの悲しみが永遠に眠るぼくの墓!
きみは安らぎ、きみは癒し、
きみは天からぼくへの贈り物。
きみの愛ゆえにぼくはぼくを大切に思える、
きみの眼差

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