シャルル・ドルレアン「季節が上着を脱ぎすてた」(フランス詩を訳してみる 1)

ドイツ詩の翻訳も間が空いてしまっているけど、フランス語に触れてみたくなったのでフランス語の詩を訳してみた。

とりあえず手元の2冊のアンソロジーの両方に収録されている詩を取り上げてみることにした。一番古いのは、シャルル・ドルレアン(1394-1465)のロンドーだった。ドイツ語の詩は一般に親しまれているのは過去250年くらいのものだけど、フランス語の詩はもっと古いものもよく読まれている。

Le temps a laissié son manteau
De vent, de froidure et de pluye,
Et s'est vestu de brouderie,
De soleil luyant, cler et beau.

Il n'y a beste, ne oyseau,
Qu'en son jargon ne chante ou crie
Le temps a laissié son manteau
De vent, de froidure et de pluye.

Riviere, fontaine et ruisseau
Portent, en livree jolie,
Gouttes d'argent, d'orfaverie ;
Chascun s'abille de nouveau
Le temps a laissié son manteau.
季節が 上着を脱ぎすてた、
風と寒さと雨でできた上着を。
そして 刺繡の入った服に 着替えた、
まばゆく光る太陽でできた服に。

生きとし生ける 動物たちが 鳥たちが
めいめいの言葉で 歌っている 鳴いている
「季節が 上着を脱ぎすてた、
風と寒さと雨でできた上着を」

川も 泉も せせらぎも
きれいにおめかしをして
精巧な銀のしずくを散りばめている。
みんな 新しい服を着ている――
季節が 上着を脱ぎすてた。

(窪田般彌・安藤元雄の訳を参考にした。)

 *

この詩にはドビュッシーの歌曲(1904年)[楽譜]があって、高校生のころから知っていた。

今回図書館からCDを借りてきてみたら、ブックレットに当時と同じ窪田般彌の訳が載っていた。

時はぬいだよそのマント
風と寒さと氷の雨の、
そして刺繡の衣〔ころも〕を身につけた
光り輝き、明るく美しい太陽の。

獣も鳥も、すべて各自の勝手な言葉で
歌ったり、叫んだり。
時はぬいだよそのマント。

河も泉も小さな川も
みな晴衣すがたのあでやかさ、
金銀細工の銀の雫〔しずく〕に飾られて、
自然はすべて衣がえ。
時はぬいだよそのマント。

先人のネガキャンをしたいわけでは決してないけれど、ぼくはこの訳を読んで、いや読もうとして、うまく読めなかった。美しいかどうかとか、好きかどうか以前に、まず最初の4行で、文法的に何がどこにかかっているのかが分からなかった。

フランス語の原詩を見れば、どうしてそう訳したのか大方分かるし、フランス語を読んでからこの訳を読めば、訳者が意図したであろう通りに理解することはできる。

でも翻訳というのは基本的に原語を読めない人のためにするもののはずなのに、せっかくフランス語が分かるひとが訳してくれたのに、ぼくの読めない日本語だったのがすごく悔しかった。今も翻訳を読んでたびたびそういう思いをする。

だからぼくは窪田般彌に、(そのほか大勢の、ぼくにはむずかしい訳文を書く翻訳者たちに、)たたかいをいどむ。

フランス文学の知識やフランス語の知識の圧倒的に乏しいぼくにできるのは、ぼくが理解した限りのものを、できるだけ明晰な日本語に移そうとすることだけだ。誤読はちらほらあるだろうけれど、少なくとも一読して意味が分かるものを目指す。それは、正しくて美しくても晦渋な翻訳よりも、場合によってはましに違いないと信じるから。

翻訳の日本語を読み慣れた人なら、きっとぼくの凡俗な訳もどきよりも、大先輩たちの馥郁たる詩句を愛することだろう。それはそれでいい。ぼくはそれと違うところで、ぼくの身の程に合った試みを続けてみたい。

 *

次はどうしようかなあ。このまま古いものからやってもいいし、語学的には19~20世紀のものから始めた方がいいのかもしれない。方針は決まらないけど、一回きりで終わらせてしまわないために、新しいマガジンを作っておこう。

みなさんのリアクションいただけるとすごくうれしいです。ではまた。

 *

(2020.3.12追記)

ドビュッシーのほかにもこの詩によるさまざまな音楽作品があります。

カミーユ・サン゠サーンス(Camille Saint-Saëns, 1835-1921)が最晩年に歌曲「新しい季節」(Le Temps nouveau, 1921年)[楽譜]を作曲しています。


セザール・ジェフレー(César Geoffray, 1901-1972)による同声三部のための合唱曲「季節が上着を脱ぎすてた」(1945年?) もあります。

また、ポップス歌手ミシェル・ポルナレフ(Michel Polnareff, 1944-)もこの詩を歌っています(「季節が上着を脱ぎすてた」1968年)。


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