恋愛ボイス2

「押しが弱いのに自信家。商品知識はあるのに説明下手って、もう営業マンとして終わってるでしょ。入社して6年以上経ってもそれなら、辞めろよって」 

 その容姿の良さゆえにか怖いもの知らずで口の悪い彩乃は、一年前まで在籍していた営業課時代の記憶と自身の情報網でゲットした牧野評を、惜しげも無く披露してくれた。

  今美弥子が勤めているのは、住宅販売の会社で東海エリアを中心とする営業所を12ヶ所抱える企業だ。本社には、各営業所と本社の人員をサポートする部署が集まっていて、美弥子は庶務課に配属され、その業務は雑多で多岐に渡る。

  彩乃のように新卒、一般事務で採用された正社員は、入社すると庶務課か各営業所のデータ管理や物件管理をする営業課に配属され、そこから総務、人事、経理と巡回していくのが通例だった。彩乃は高い倍率を勝ち抜いて苦戦間違いなしの一般事務の採用を勝ち取ったのだ。ちょっとぐらい高飛車でも許容範囲内だろう。 

「あの人、そんなに問題児なんだ」 

 呟きながら、美弥子は自分の気持ちが少しも降下しない不思議を感じる。耳から入ってきた牧野の声がもう心の中で暴れまわっていて、ちっとも鎮まらないのだ。「問題児って言うか、もう終わってるね。あれは。むしろ男としてだめでしょ」

  彩乃の攻撃の手は緩まるどころか、日に日にエスカレートしていた。 

「へぇ、お弁当なんだ。夕飯の残り物?」

  お昼時、何の前触れもなく牧野から話しかけられ美弥子はうろたえた。持参弁当を前に今にも心臓が口から飛び出そうで、味のしない卵焼きや唐揚げを喉に押し込む。 

 美弥子はお昼は持参弁当を大抵1人で食べる。社員食堂では、3割ぐらいの人が持参したお弁当を広げ、残りの人たちは日替わり定食か麺類かと言うような選択肢の中でランチをやり過ごしていた。庶務課は女性が美弥子と彩乃の2人だけなので、お昼は交代で摂るようにしている。食堂では派遣・パート・正社員と、女性たちがいくつかテーブルで輪になっていたけれど、美弥子は1人の方が気楽なのでどこにも属していない。

  牧野は美弥子の弁当を覗き込むようにしながら、前から決まっていたかように美弥子の隣にストンと腰を下ろした。手にしたトレーには本日の日替わりランチ、ナスの挽肉炒めと副菜の豆腐、そして青菜のお浸しが添えられている。

 「まぁ残り物って言えばそうですけど。日替わり定食、美味しそうですね」 牧野は「え、そうっすかね」と無表情に言い放つと、「食べます?」とメインの皿を美弥子と自分の間ぐらいに置いた。

 「え、いいです、いいです」

 「わお、まじか、社交じくってやつですか」 

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