アラキくんの言うことには〜麻子さん〜

 一人息子に恋人ができた。

 夫を亡くしてから寂しい思いをさせたと思う。でも息子はダンナに似て格好いい。いまだに結婚もままならない地味で話し下手な弟を持て余しているうちの家系に似なくてつくづく良かった。バレンタインになるとそれなりにチョコレートを持って帰るし、ちょくちょく女子に告白されては別れるを繰り返していたので、まあまあな青春を歩んでいると認識している。イマドキ母子家庭だからと言って同級生から 差別されたり、馬鹿にされる時代ではないはずだけど、やっぱりそれなりに偏見はある。だから彼がその外見のおかげで、それなりの男子としての通るべき道をクリアしているのは母親としては安心するのだ。

 これまで父親がいないからと言って特別扱いはしてこなかった自覚はあるし、それなりに厳しく接してもきた。だからだろうか。息子はあんまり心の内を外に出そうとはしない。ゼロ歳から見続けているからこそ、ある程度の心の動きは把握できるけれど、時折「今この子は何を考えているのか」とはたと悩む時もある。そんなの、年頃の異性の子供を持つ親からしたら当然のことなのかもしれないけれど、特に我が子は内面を表に出さないよう訓練されたかのように見受けられる。それって私のせいなのかな。

 そんな息子にまた恋人が出来た。そんなことではもう驚きも寂しくも感じない私だけれど、今回のお相手は何と息子から付き合おうと言ってしまったらしい。彼も「何でかなぁ、とにかく面白いんだよ。考えてることがすぐわかるんだよね、だからボクのこと好きだってこともすぐにわかった」と唇をちょっと歪めて、ふふっと笑っていた。

 何だろう、このモヤモヤした感じ。

 ああ、自分だけは息子のことを略奪された、なんてアホみたいなことをほざくママにはならないつもりだったのに。息子のこと私の方が知ってるわよ、なんてくだらない張り合いを繰り広げるバカな女にはならないつもりだったのに。これじゃあその素質があるような気がしてならないじゃないの。

 夫を亡くしてからも恋人は何人か出来た。その時はちょっと母性を脇に置きたくなることもあったし、息子さえいなかったらなんて考えることもあった。ただ、こんなことでうろたえる私は結局はごく普通の母親だったってことなんだろうか。退屈なそんな人生、本当は嫌だけど。

「ねぇ、母さん。チューって誕生日プレゼントになるのかな」

 おい、息子よ。私の心をこれ以上かき乱すんじゃないよ。まだ子供のくせに。


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