アラキくんの言うことには〜アラキくん〜

 ボクはモテる。それはよく知っている。小学生の時に亡くなった父親に似て背が高くて細い。そして母親に似てさっぱりした顔立ちは女の子が好きなタイプに整っているらしい。だから母子家庭で口数も少ないボクでもそっち方面については割と賑やかに過ごしてきた。

 ただ女の子たちは期待するだけして、勝手に失望して離れていく。ボクはそういう押し付けの人間関係が苦手。人間は皆一人だし、結局自分の世界が一番なのだ。なのに他人を侵略しようとするその我の強さに辟易とする。

「ねぇ、アラキくん。今度の日曜日、私の大事な日なんだけど」

 声にふっと隣を見ると、さみ、ちゃんがクリクリとした目をさらにまん丸くさせてこちらを覗いていた。

ぷっ、毎回胸の中がほんわりする。

まぁ実際に笑ったり、ほんわりとしたところなんて顔に出ないのだけれど。もともと気持ちが顔に出ないみたいで、ただそれだけなのに「クール気取っちゃって!」と怒られたりする。

「大事な日とはなに?しかも日曜日は阿川サモンの握手会とトークショーがあるから無理だよ」

 さみ、ちゃんはみるみる肩を落とす。何でこんなに感情が出るのかなぁ。不思議な人だ。これまでもこんな風に内面がスケスケの女の子はいたけれど、さみ、ちゃんの見え方はスケスケと言うよりも頭の上から溢れ出る感じ。だから自分に好意があるのもすぐにわかった。それをわかってますよ、とどうしても言いたくなってしまい、気づいたら付き合うことになっていた。

「阿川サモンって誰?」

 それよりも言いたいことがありそうなのに、さみ、ちゃんは話をそらす。

「動物を主人公にしたミステリー作家。すごく面白いよ。”カバは踊る”とか最高傑作なんだ。今度読んでみるといいよ」

「いい、アラキくんの本いつも難しそうなんだもん」



「それ、誕生日とか付き合って1ヶ月記念日とかそんなんじゃないの?」

 母親はボクの頭をペチと叩きながらタバコをふかす。え、誕生日?

「阿川サモンは諦めるか、一緒に行け。そのあとお茶してケーキ食べな」

 なぁんだ。それなら誕生日に一緒にいたいから日曜日に時間作ってって言えばいいのに。あんなにわかりやすい女の子も口に出すのはためらう。なんでだ。


「阿川サモンは諦めない。トークショーに一緒に行ってケーキ食べよう」

 母親のまんまを伝えただけなのに、さみ、ちゃんはぱあっと笑った。


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