恋愛ボイス29

“もうほんと、ドジだなぁ、君は。でも落ち込まないで。そんな君も大好きだよ”

「えっと、僕は同僚だからって彩乃さんのことは家には呼ばない。だからこれってそういうことだと思ってたんだけど、もしかして美弥子さんは違うの?あと、大丈夫って・・・何?」

 美弥子、やめとけ。今まさにいいムードだったでしょうが、カレー食べて、散歩して、ゼリー食べて順調だったでしょうが。それに水を差すな。

「私もそういう気満々で来ました。もちろん。そんな軽い気持ちじゃあないです。でも、私40です。40と付き合うってことは、その・・・生半可な覚悟じゃないよ?」

 あー、何を言っているのだ。しかもそういう気満々ってバカ女みたいじゃん。

「え、40?そうなんだ。結構年上とは思ったけど、40ってなかなかだね」

 え?そこ?まさか、「若く見えるなー、でも実際の年齢聞いたらドン引き、やめとく」ってパターン?(若く見えると勝手に付け加えたことは無視)

「でも、同い年だからって適当に付き合って適当に恋愛してもオッケーってことないでしょ?別に変わらないよ」

 牧野ー!!!美弥子は感動にむせび泣く。


 久しぶりの恋愛はほろ苦い味がした。

 なんてチョコレートのコマーシャルぶりたくなるぐらい、美弥子は気持ちの浮き沈みに振り回された一日となった。

 あれから牧野のカレーアゲインして(ナンで食べると全然違うでしょ、にはあまり賛同できなかったけど)、タッパウェアに入れられた「明日が美味しいんだよね」のカレーをお土産に持たされて、今1人電車に揺られている。

 本日土曜日。

 恋愛の滑り出しにしては数時間の逢瀬と、かなりのスロースタートな気がしたけれど、牧野だから仕方がない。慰めに、恋愛ボイスに浸ろう。思い切り、牧野の顔を重ねて。

 恋愛という事象に、果たして今自分は本当にちゃんと巻き込まれているのだろうか。実感があるような、ないような、欲しいような、そうもっとちゃんとしたシルシみたいなものが。

 キス、とか。抱擁、とか。

“待ってるなんて図々しい。自分からしちゃえばいいのよ”

 山瀬、それは怖いだろう。

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