海の底に眠る11
「前々から一度聞こうと思ってたんだよ。旦那以外に男いるなって言うの、なんか漏れ出てるって言うか、あなた」
本当だろうか。まりもは玉野さんをバリバリ警戒して眺めるけれど、本心は全くわからなかった。こんなにあけすけなのに。
「もう私、不倫の良し悪しとかってジャッジするのやめたの。自分が疲れるだけだし。不倫って悪気ない人がするもんじゃん?だからさ」
そんなことを語る合間にも、玉野さんの大盛りオムライスホワイトソースがけの山はどんどん崩されていく。それを呆然と眺めながら、まりもは自分の目の前のチキンオムライスが全く減っていないことに愕然とする。
「あなたさ、ちょっと心ここに在らずって感じだもんね。それを良しとしている感じとか、もろなんだよね」
何がどう「もろ」なのかわからないけれど、自分は思い切り不倫臭がするらしい。玉野さんの嗅覚によると。
「んー、こんだけ私もオープンにしてるわけだし、この際面倒臭い牽制とか、知らないふりとか知ったかぶりとかやめようか」
ふう、とため息をつくと玉野さんは行儀よく手を合わせてお辞儀をした。
「ああ美味しかった。って言うか全然減ってないじゃん。食細いと負けるよ」
「負ける?」
「そう、現実の残酷さに」
ずずーっとまた甘ったるいラテをすする玉野さんはその仕草に似合わず格好いいセリフをかます。
「奥さんに勝とうとかそんなのハナから思ってないでしょ。恋愛関係では自分の方が断然勝ってるって思ってるわけだし」
「・・・本当は負けてるくせにってことですか」
いつの間にかまりもは玉野さんのペースに乗ってしまっている。
「あのさ、事実とかどうでもいいのね。要はどう思ってるかってことなの。どうせあなたは負けてるわよって言ったって口ではそうですね、とか言いながら全然思わないわけじゃん。やめないじゃん。だから無駄なことはしない」
何をそんなに不倫臭についてやさぐれているのかわからないけれど、玉野さんはうんざりと言う体で話をする。
「で?最近その彼氏が冷たい、とか別れたいみたいな感じ、とかそう言うの?」
やっぱりこの人侮れない。まりもは胸がざわざわして来る。
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