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海の底に眠る12

「ほお、そう言う男の変化の機微については無頓着なタイプだと思ってたけど・・・ってことはよほどの変化ってことなんだねぇ」

 玉野さんはすっかり無くなったラテの、氷の溶けたところを未練たらしくずっとすすっていた。

「無頓着って」

「私さ、あんたの旦那ってすごい鈍感なのか、もしくは・・・」

 ちらっと視線を上げて玉野さんは言い淀む。

「何ですか」

「あなたに興味がないのかどっちかかなって勝手に思ってた」

 ううむ、これは傷つくべきなのだろうか。保くんは程よく放任主義だし、程よく自分に関心があると思っていたのだけれど。

「ごめん、傷つくようなこと言うの趣味じゃないんだけど、あなた大丈夫そうだから、ちょっと言い過ぎた」

 これまでもずんずん心の奥に踏み込んで来ていると思うのだけれど、彼女なりの境界線があるらしい。

「あなた、女の中でもすごくわかりやすい方だと思うんだよね。ところがさ世の中の男は奥さんの変化にまぁ気づかない鈍感な奴多いんだけどさ」

 でも分かれるんだよね、あるか無いかで。

「あるかないか?」

「そ、執着って奴。これ厄介なんだよ」

 執着。確かに保くんには無い。これと言う趣味もなく、一時期急にジョギングを始めたと思ったら、次の時には犬を飼って散歩したいと言い出す。かと思えばスポーツクラブに入会する素振りを見せて、その次の日にはバランボールを買って来る。執着がないと言うか、ただの飽き性というか。

「だからうまくいってんのかもね。あなたたち。この関係に変化があったらまた変わるかもよ、旦那。その時いい方に転ぶかどうかは・・・わかんない」

 玉野さんはむっちりした腕に巻かれた腕時計を見て、

「とにかくその彼は所詮他人のモノ。心変わりなんて別に珍しいことじゃ無いんだから、さっさと真相確かめてそのモヤモヤした顔早く治した方がいいわよ」

 と立ち上がった。この人に言われると、ここ数日間の悩みなど、塵よりもつまらないことに思えて来る。

「真実なんて大抵つまんないものよ。幸せなんてハリボテの作り物なんだから」


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