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#87 買い物中毒の夫

自分のことは棚に上げて、夫の話をさせてください。
今日は夫の物欲について。

こんなにたくさん持っているのに、しかも仕事で使うわけでもないのに、
靴や洋服、趣味のグッズが毎日の様に宅配で届けられる。
チャイムが鳴っても「なんだろう」とさえ思わない。
「また宅配だろう」と思い、果たしてモニターの向こうには見慣れた制服の方が立っており、「いつもありがとうございます」と受け取る。
そしてそのまま玄関に置いておく。

もちろん彼のクローゼットはいつだって定員オーバーで、無理に押し込まれた洋服は皺になっている。究極のときめかない姿。購入ボタンを押し、箱から出した時がピークなのではと密かに思っている。引き出しの中でカチコチにひしめき合うポロシャツ達を見るにつけ、今年は何回広げてもらえるだろうね、と不憫になる。

靴はもっと厄介で、なぜかというとそれ以上小さくならないからだ。しかも夫の足は大きい。中に息子の靴がすっぽり収まるから、まぁ1足で2足分しまえる(冗談です、やってません)。棚板を増やしてもわたしと息子の靴が置けるスペースはごく限られている。申し訳なく思ってくれまいかと思うのだが、昨日届いた箱には「商品名;靴」と書いてあった。彼にはきっと脚が8本くらいあるのだろう。知らんけど。

我が家は小さいので、当然そんなものを沢山仕舞っておく為の場所はない。
すでにクローゼットの半分は夫が、残り半分をわたしと息子で使っている状態だ。わたしはあんまり買わないので困らないけど、良い気はしない。
そこで数年前、彼はわたしの実家をレンタルスペースにすることを思いついたらしい。実家の靴箱には彼のスニーカーや革靴がわんさか。空っぽだったはずの桐箪笥の中は嵩張るダウンコートやニットでいっぱいになっていた。(なぜわたしの実家なのかというと、自分の実家に置いておくとお義父さんが勝手に着るのだそうだ。いいじゃないか。どうせ着ないのだから!)


流石にわたしも堪忍袋の尾が切れた。

「いい加減にして。ここはあなたのうちじゃないし、不要なら処分すればいいでしょう。どうせ半年後には忘れて新しいのを買うんでしょう」
と捲し立てて整理するよう迫った。

結果、売ったり譲ったりして半分くらいになった。
息子の使っていたベビーグッズが姪っ子のところへ行くまで、しばし待機するスペースも確保された。
でもまだ半分。わたしの父もまた違ったタイプのモノを捨てられない人で、夫に小言を垂れることはない。しかしわたしと母は増え続けるモノの狭間で喘ぐのには耐えられない。ぎゅうぎゅうにものが詰まった場所は空気が薄い。


服も靴も、腐らないので捨て時がわからないとよく聞く。
確かに腐りはしない。
良いものは手入れをすればうんと長持ちするし、味が出て使い込むほどに良さも増す。でも手入れを怠れば、それはただのくたびれた古着・中古品になってしまう。それはとても悲しいと思う。

夫は良いものを手に入れたがる割にはあまりお世話をしなくて、わたしはそれに腹を立てているのだと気がついた。結婚したての頃、買ったばかりの良質なニットを平気で普通の洗剤で洗濯し、ハンガーにかけてしまったのを見て言葉を失った。
きっとそのものの価値を理解して購入しているわけではないのだろう。
夫が手に入れるとか所有する喜びを満たし続けている限り、わたしとの戦いは終わりそうにない。家族として同じ屋根の下で暮らすのに、戦いはない方がいいに決まっている。そのためにはわたしも彼の心理を理解する必要があると思い、以前はそうでもなかったのにどうして買い物を止められないのか聞いてみた。
答えはこんな感じだった。

  1. ネットでいつでも買えるようになったから

  2. 要らなくなったら売れるから

  3. 自由なお金が増えたから(2の売り上げも含む)

完全に買い物中毒だった。SNSで自ら物欲を刺激し、一生ECサイトやフリマサイトを眺めている。見なければ欲しくならないのに、アプリから発売開始のリマインドがご丁寧に通知される。なんだこの恐ろしいシステムは… 

完全に沼に首まではまっている夫に「ねぇまずいんじゃない」と言ったところでわたしの声も虚しく、どうやったら「あなたが今買おうとしているものがなくても、明日からも元気に平和に幸せに暮らせるよ」と伝えられるのだろう。
カードを止めたり、アプリを消したりしても、本人に意思がなければ止められない。子供じゃないし。その欲望を他に向けるのも、わたしがどうこうして変えられるものでもない。それらよりもずっと強力で魅力的な購買意欲を掻き立てさせる広告もシステムも、この世界には溢れすぎている!


せめて「買う、売る」のサイクルを回せないか。
今は「買う、買う、買う、買う、売る」くらいで溜まっていく一方だから、「一つ買ったら一つ売る/手放す」をルールにしようよ、と提案してみた。
理論的にはものが増えなくなるはずだから。

夫は「ふん、やってみるよ」と案外すんなりと受け入れてくれた。売るのは手間がかかるけど、まだ綺麗な服を捨てるのは申し訳ないし、誰かに使ってもらいたいということで、ちまちま暇を見つけては売っているようだ。後生大事にとってあったと思っていた漫画の類もあっさりと手放したので驚いた。モノに執着があるわけではないらしい。読み終わってもなぜ置いていたのか訊ねると「溜まっていっただけ」とのことだった。

売れるという事実が嬉しくて楽しんでいるご様子なのだが、いかんせん売り上げを使ってまた購入もしているのでイタチごっこだ。
買い物中毒は全く治っていないけど、減らす手伝いは喜んで引き受けることにした。そしていつか、夫本人が新たにモノを買おうとした時「あれ、これって本当に欲しいのかな」と考える日が来ることを切に、切に願ってわたしは今日も隣で囁いている。


るる


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