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同調率99%の少女(20) :本当の訓練終了

--- 9 本当の訓練終了

 明石から判定の声を聞いた那珂は遠く離れた水面でしゃがんでいた川内を呼び戻した。彼女が戻ってくる間に那珂は神通を背中から抱えて優しくゆっくりと立ち上がらせた。
「ゴメンね、痛かったでしょ?」
「う……うぅ。」
 言葉をまだ出せない神通はコクリと頷いて仕草で肯定する。
 やがて川内が那珂と神通の側まで戻ってきた。それをチラリと見て那珂は二人に声をかけた。
「二人とも、ご苦労様。正直言って、あたしが本気の本気を出すには二人はまだまだ実力が足りなすぎた感じかな。あたし自身まだ手探り状態だけど、もっともっと、もーっと、動けたよ。あと制服が濡れるのを気にしなければ、やりたい動きもあったし。」
「……那珂さん。それじゃあ手を抜いてたってことですか?本気出すって言っておきながら!!」
 川内は水面を思いっきり蹴りながら叫ぶ。水しぶきが周囲に撒き散らされて那珂や神通の足を濡らす。川内は俯いていたのでその表情を那珂らが確認することはできない。しかし声に憤りを感じていたのでその表情も想像に難くない。
 那珂は落ち着いて語りかける。
「言ったでしょ?あたしも手探り状態だって。だからあたし自身本気って言えるのかわからない局面もあったってこと。あたしだってまだ訓練して、自分を理解しなくちゃいけないところもあるんだよ。あなたたちとの違いは、自分をわかっている練度が違うってことだけ。」
 その言葉に那珂の秘めたる思いを想像した川内と神通は口をつぐむ。自分たちはこの先輩をまだわかっていないのだ。それと同じかそれ以上に自分たちも艦娘としての自らの実力をわかっていない。
 今の演習試合で理解できたことはなんだったのだろうか。試合の結果として負けはしたが、それよりも大事にしたい経験を思い返す。

「あたしたちは……負けました。ねぇ那珂さん。あたしたちの何がダメだったんですか?教えて下さい。」
 川内がそう問いかけると那珂は頭を振って答えた。
「教えない。」
「そんなぁ!?」「そ、そんな……!」
「そもそも臨時でこういうことになったんだから、教えるためじゃないんだからね。川内ちゃんはちゃんと反省してね?」
「う……はい。」
 自分の巻いた種なので強く言えなくなってしまう川内。反省という名の沈黙を守ることにした。
「何が悪くて何が良かったかは、これから始める普通の訓練の中で順序立てて教えてあげる。」
 やや戸惑いを保ったままの二人を那珂はなだめつつプールサイドへと促して移動し始める。そこには五十鈴・明石はもちろんだが、試合が終わって庇の下から出てきた提督らが近寄ってきていた。
 そして那珂はチラリと提督に目配せをしたのち、振り返って川内と神通に伝えた。
「とりあえず今のあたしが言いたいこと。二人とも、ごくろーさま。あたしにあれだけ食ってかかれたなら、大丈夫と思います。今この時をもって、基本訓練に合格したことを認めます。ね、いいでしょ、提督?」
 川内たちの方を見てるがために那珂の顔が見えない。提督は那珂の背中を見、そしてその先にいる川内と神通に視線を向け、口を開いてやや脱力気味に言った。
「あぁいいよ。すでに修了証は渡してしまったから変な流れになってしまったけど、那珂の判定を承認します。川内、神通、改めて二人がここに基本訓練全課程を修了したことを、深海棲艦対策局○○支局長、西脇栄馬として確認しました。軽巡洋艦川内、軽巡洋艦神通、訓練ご苦労様。明日から我が鎮守府の本当の力となってくれ。」
「「は、はい!」」

「俺が急いて最後の試験を省いてしまって、二人には本当申し訳ないと思っている。でもこうして二人が立派に立ちまわって艦娘として動けるようになったことを直接見ることができて、俺は非常に嬉しいよ。数日前まで普通の女子高生だった娘たちとは思えないほどだよ。あと先生方にもお預かりしている生徒さんの姿を見せられてよかったとも思ってる。」
 そう言うと提督は側にいた阿賀奈、理沙そして桂子に視線を向けて促した。三人の教師はそれぞれ感想を言い合って提督の意見に概ね同意を示しあう。
 自校の生徒であるため代表して阿賀奈が二人に優しい声色で言葉をかけた。
「内田さん、神先さん、先生もちゃーんと見させてもらいましたよぉ。二人ともすっごいすごい!先生驚いちゃった。このことはちゃんと校長先生や教頭先生に伝えておきますからね。光主さんも合わせて、三人ともうちの学校の自慢の生徒よ~! 先生鼻が高いわ!」
 言い終わると阿賀奈はパチパチと拍手をし始めた。それにつられるように提督、二人の教師、そして艦娘たちが拍手をする。

「あ、アハハ。なんか試合に負けたのに変な感じ。恥ずかしいや。ね、神通?」
「う、うん。でも……気持ち良いです。」
「二人とも、これからも時々厳しくあたるかもしれないけれど、負けないでね。一緒に頑張っていこーね?」
 そう那珂が鼓舞すると、二人は顔を見合わせそして那珂にまっすぐ視線を向けて口を開いた。
「「はい!」」

 この時二人はこれから始まる本当の艦娘生活をようやく心から楽しんで期待できる心持ちになっていた。

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