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同調率99%の少女(20) :説教の先にあるもの

--- 6 説教の先にあるもの

 飛び出していった川内が向かったのは本館裏口からグラウンドをまっすぐ突っ切った先にある、地元の浜辺だった。深海棲艦出現関係なく、設置当初から県によって遊泳が禁止されているため泳ぐ者の姿はいない。マリンスポーツは深海棲艦出現以後に制限されているため当然ながらその手のプレイヤーもいない。
 真夏の浜辺は照りつける太陽の光と熱で熱せられた砂が踏み込む者の侵入を拒むように反射熱を放出している。川内は履いているスニーカーの上からでも感じるその熱さを我慢して浜辺に立ち入り、入り口付近の石壁によりかかる。

「うわっちち!」
 当然石壁も熱せられておりうかつに触れられぬ熱さのため瞬時に川内は身を離れさせる。

「あっつつ!ここあっついねぇ~」
 2~3分ほどして川内は背後からすっとぼけた感じのふんわりした声を聞いた。しかし誰だと尋ねるつもりなく黙る。相手はそれを見越してか知らずかそのまま喋り続ける。
「内田さん速いね~。先生今日はパンプスじゃなくて運動靴履いてきてよかったかも。」
「……先生だって速いじゃん。結構運動得意なんだ?」
「エヘヘ。先生ね、運動は陸上だけは得意だったんだ。若い子には負っけないよ~?」
「おっぱいでかいのに?」
「うぇ!? そ、そんなこと言うなら内田さんだって大きいじゃないの。女同士とはいえセクハラ発言はメッ!ですよ~。」
 本気ではない怒りを言葉と口の当たりまで振り上げた拳に含めて阿賀奈が言うと、川内はアハハと乾いた笑いを発した。

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 数分いれば十分熱中症になりかねない砂浜とアスファルトの反射熱を避けて話を続けるため、二人はグラウンドの端にある木陰に移動して会話を再開する。その後口火を切ったのは阿賀奈だ。
「内田さんはどのくらい強い艦娘になれたのかな?先生見てみたいなぁ。」
 その言葉の約1分後に川内は口を開いた。
「多分、那珂さんの足元に及ばないと思います。下手すりゃ夕立ちゃんにだって勝てるとは思えない。」
「それじゃあ、さっきのは?」
「……ついカッとなって、言っちゃいました。」
 そうぼやいてしょげる。それを聞く阿賀奈は聞こえない程度のため息をついた。
「そっかそっか。光主さんの何かにイラっときちゃったんだね。でもなんだかアレだねぇ~。青春って感じで先生心踊っちゃったぁ。」
 パツンパツンに張った薄手のブラウスの前でやや苦しそうに腕を組みつつウンウンと阿賀奈は頷いて続ける。
「内田さんのあれがやりたい、これがやりたいっていう気持ち、先生わかるわ。でもね、希望とわがままは違うのよ。さっきの内田さんのアレは、単なるわがまま。」
「わがままって!あたしは思ったことを言っただけなんですよ!?」
「何でも素直なのは良い事だと思うけど、内田さんはもうちょっと人の話を我慢して聞いたほうがよかったかな。」
 川内は視線を阿賀奈に向けないで言い返す。
「あたしはちゃんと那珂さんの話を最後まで聞きましたよ。そしたら那珂さんが変な事言い出したから気になって言っただけですもん。」
「そーお? 先生にはあの後光主さんが何か続きを言おうとしたように見えたんだけどなぁ。」
 川内は阿賀奈のセリフに一切反応を示さずに聞く。

「内田さんさ、深呼吸して落ち着いてみましょ? 勢いあるのは大いに結構。先生そーいう元気な子好きよ。でもね、興奮してたら見えるものも見えないと思うわ。落ち着いてみて、まずったかなぁ~って思っちゃうなら、素直にゴメンなさいするのもアリだと先生は思うなぁ。」
「……でも、あたしは間違ったことは言ってないですよ? それなのにゴメンなさいって謝るのって。……言い出しづらい、じゃないですか。負けを認めたようで。」
「内田さん、あんまり聞き分け悪いと光主さんに見捨てられちゃうわよぉ?あの娘、意外とサッパリしたところあるから。」
 見捨てられる、その言葉に川内は心臓を鷲掴みにされたようにドキリとする。ふと阿賀奈の顔を見ると、そこにはふわふわ頼りなさげではなく、教師らしい真面目さ凛々しさ20%増しの彼女がそこにあった。そのあまりの教師らしさと自身の生徒らしさの思い出しっぷりに思わず本音を口にしてしまった。
「いやだ。見捨てられたくない。」
「うんうん。基本的には優しくて面倒見のいい娘だものね、光主さん。」
「あたしは、自由にやりたいだけ。提督が艦娘として一人前って認めてくれたんだから、その一人前の権利を行使したいだけです。」
「でも自由にするっていうことは、誰かしらが責任を持たないといけないんだよ?」
「だからそれは提督や那珂さんが持ってくれt
「違うよ。自分がしたいようにするその責任を持つのは他の誰でもない、内田さん自身。自分で言い出したなら自分でそのお尻を拭いて完結させないといけない。それが自由であって、それが日々連続するのが大人。確かに今の内田さんたちは最終的には提督さんたち鎮守府の大人の人が責任を持って守ってくれるんだろうけど、あなた達が決めてやろうとする訓練のことなんだから、そこではあなた達みんなで責任を持たないといけないの。もし内田さんが自分で自由にしたいなら、内田さんだけで責任を持たないといけないんだよ。本当なら皆で持ち合えばいい責任を一人で持つその覚悟、それを内田さんは持ってる?」
 再びドキリとする。自分でも明確に認識できていないが踏み込まれたくない領域に踏み込まれた気がして口を噤む。ギュッと噛んだ下唇が前歯の圧力で痛む。
「内田さんの言う自由は、学校でいえば授業の自習時間みたいなものかなぁ? 誰かが責任を持っててくれる中での自由が欲しいとか。どう?」
 三度心臓がキュッとする。ドキリとする。もはや何も言えない。川内は初めてこの教師にらしさを感じた気がした。

「それを持っていてほしいのが光主さん。じゃあ後はよろしく~あたしは自分のやりたいことやってますので~って。もしそうだったのなら、やっぱり内田さんの意見は単なるわがまま。どーお? 落ち着いて思い返してみよっか?」
「……。」
 阿賀奈に言われて胸に右掌を当てて深呼吸する。それが思い返すトリガーになるわけではないが、形から入る。
 川内がした仕草を見た阿賀奈は続ける。
「一人前って同じ立場を認めて欲しいなら、同じ立場を主張するなら、同じ責任を持ち合って相手の意見も自由も尊重してあげるべき。それが気に入らないっていうなら、もうちょっと半人前でおんぶされるしかないよね。」
「そ、それは……恥ずかしい、です。」
「光主さんはそんなの気にしないと思うけどなぁ~。あの娘が考えてることとか今さっき話してたこと全部わかったわけじゃないから上手い事言えそうにないけど、あの娘は皆が考えてない先まで考えてるのかなぁって。」
「先?」
「うん。気が多いっていうのかなぁ。良く言えば面倒ごとぜーんぶ自分でやろうと背負ってるというか、悪く言えば余計なものまで見ようとしてるって言う感じ。」
「……先生、意外と人の事見てるんですね。びっくりですよ。」
「あ、これ先生が思ったことじゃなくてね、あの娘生徒会やってるでしょ?生徒会顧問の○○先生がおっしゃってたことそのままなんだけどね。でも先生の目から見ても、あの娘すっごい出来る娘なのはわかるよ。頑張りすぎてる感じあるけど絶対へこたれなそうな娘だから、もう色々任せちゃいえばいいかなって思うのね。何があっても策をちゃんと考えてるって頼れる感じね。だから先生は艦娘部設立の活動の時だって一切口を挟まずに安心して任せたのよ。」
「そ、そうなんですか。へぇ~。」
 川内は自分が入部する以前の艦娘部を巡る状況を一切知らぬため、阿賀奈の説明をそのまま受け入れるしかない。

「そんな光主さんだからさ、内田さんだって光主さんを信じて全部任せちゃえばいいのよ。まだ始まったばかりじゃないの。一人前にならなきゃって思うのはわかるけど、焦ることないと思うよ。もーちょっとだけ辛抱してのんびり強くなっていきましょ。短気は損気よ。」
 コクリと素直に川内は頷くもその表情は明るくない。
「わかります。なんとなくわかるんだけどやっぱり納得出来ない。あたしは……全員が全部の訓練をやるのが非効率だってのは曲げたくない。ゲームでは非効率な戦い方や育て方はミッションやクエストクリアに支障が出るんですよ。」
「先生ゲームとか詳しくないからわからないけど、光主さんが言いたいことはなんとなくわかったよ。」
「な、なんですか、それ?」
「ん~~~、それは内田さんが直接聞き出すことかなぁ。先生のが言ったら意味ない気がするの。」
 わざとらしくもったいぶらせたその言い方に川内はイラッとした。が、相手が阿賀奈とはいえ曲がりなりにも先生なので強く言い出せない。
「そういう言い方嫌いです。ずるいですよ。あたし、頭悪いからはっきり言ってくれないとわかりません。」
「まぁなんとなく言っちゃうとね、内田さんのことぜーんぶ教えてあげたらってところかな。私や黒崎先生や石井先生も知りたいし。」
「教えるって。何を?」
「だからぁ、内田さんが艦娘川内になった後のこと、何が得意で何が不得意なのか全部。そうじゃないと、先生たちだってアドバイスのしようがないわ。もー全部言っちゃってるようなものだから、ついでに言っちゃおうかなぁ。」
 川内は一瞬地面に向けた視線を再び隣りにいる阿賀奈に向ける。すると阿賀奈は普段のふんわりした柔らかい表情のまま、川内にピシャリと告げた。
「光主さんはね、みんなの得意不得意をみんなに知ってもらうために、テストをしたかったんだと思うわ。さすがの私でもそう気付いたよ。そう思うと、内田さんのあそこであのわがままな物言いは完全に的外れよ。やっぱり踏みとどまって続きを聞くべきだったと思うわ。五月雨ちゃんたち中学生の前であの振る舞いはちょーっとばっかし恥ずかしかったかもね、高校生として。」
 隣のいる教師の説教を聞き続けて川内はようやく理解できた。と同時に自分の行いが急に恥ずかしくなってきた。顔が猛烈に熱いのは真夏の高い気温や照りつける太陽光のためだけだと思いたい。

「じゃあ、じゃああたしはどうすればいいんですか?」
 涙声で問う川内に阿賀奈は顎に人差し指を当てて虚空を見ながら唸った後答える。
「んーー、そうだねぇ。まずは乱暴な物言いしちゃったことにゴメンなさいしよっか。お互いちょっと時間を置いて冷静になったんだから、ひとまずゴメンなさいして話し合いを再開すればいいの。」
「で、でもまた口喧嘩になっちゃうかも、しれません。」
「それはそれでお互いの形なんだからアリだと先生は思います。先生ホントーはさっき止めたかったんだけど、逆に私が提督さんたちに止められちゃった。だからまた喧嘩になったら、今度こそ先生が華麗に二人を仲裁してあげる。」
「ハ、ハハ。その前に多分気づいて自主的に止めますよ。」
 川内は学校内での阿賀奈の評判を知っている学年だけに、苦笑するしかない。

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「それじゃあ行きましょっか。」
「へ?どこへ?」
「もちろん、光主さんたちのところ。思い切って謝っちゃえば笑って流してくれるって。」
 川内は木陰から離れようとした阿賀奈に手を引っ張られて一瞬よろけつつも引っ張られるに任せてグラウンドを歩き始める。
「うー、あんだけ言った手前、謝りづらいー。」
「ウフフ。先生も妹達と喧嘩したとき、謝るの嫌だった時あるなぁ~。」
「先生って妹いるんですか?」
「うん。下に妹が三人いるんだけど、先生はしっかりやってるつもりなのに妹たちったらいっつもガミガミガミガミ口うるさく言うのよぉ。クスン。」
 わざとらしく泣き真似をして下瞼をそっとこする阿賀奈。
「でも、言ってくれるうちはまだ幸せなのよね。言われなくなっちゃったら先生きっとダメになっちゃうもの。見捨てられたら終わり。だから妹たちから見捨てられないように我慢して言うこと聞くの。そういう経験があるから、あなた達生徒には同じような不安な気持ちを抱いてほしくないから、先生は皆のことしっかり見てあげようって思って実践してるの。だから先生は何があってもあなた達を見捨てないよ。味方ですからね~。」
 苦笑いを浮かべっぱなしで黙って阿賀奈の言うことを聞いていた川内。(あ、この先生アレだ。ダメ姉ってやつだ)と気づくのはあまりにも簡単だ。と同時に確かな熱意も感じる。
 神通の言うことは一理あったかもしれない。
 なんだ。ちゃんと向き合って話してみれば、この先生いい人じゃん。ちょっと抜けてたりお節介なところあるけれど、生徒に親身になってくれる。大昔のドラマにあったような、熱血とまでは言えないも熱い心を持つ人なのは確かだ。全部頼るのはちょっと怖いから、学校生活含めて那珂さんの次に信じてちょっとだけ頼ってみてもいいかもしれない。

 川内は手を引っ張られての本館までの道のり、性別は異なるながらも感じる相手の手の平のぬくもりと雰囲気に懐かしい感覚を覚えていた。これがもし提督くらいの年上の男性だったら、思い出すものは完璧だったかもと頭の中でなんとなく思い浮かべる。
 ぼーっと考える川内は、暑さにやられたせいなのかもと握られてない方の手で やや熱を持った頬をパタパタと仰いで思った。

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 川内と阿賀奈が本館に裏口から入る直前、ふと視線を上に向けると、待機室のある3階の窓に人影を見た。
((あれは……那珂さん?))
 川内と視線が合う那珂。川内はジッと見ていたが那珂が先に顔を引っ込める。待機室の奥に戻ったのだろう。
 なんて言って謝るか、それともあえてそのまま言い張るか。川内は悩む。気まずさが心の中で肥大化していく。それは阿賀奈に握られている手を振りほどくという行為で示された。

「内田さん?」
「あ、あの……もういいですから。手をつなぐの恥ずかしいです。」
「あ、そっかそっか。アハハ!ゴメンね~。先生うっかりしてたわ。」宙ぶらりんになった手をパタパタと振る阿賀奈。
「ちゃんと先生の側歩きますから。ただもうちょっとゆっくり行きませんか?」
 川内がそう願うと、阿賀奈は言葉なくコクリと頷いて笑顔を見せた。

 待機室の扉の前に立った川内はすでに心臓が爆発しそうなくらい胸が苦しく、呼吸が荒くなっていた。右後ろに立つ阿賀奈が肩に触れる。そうっと右に振り向いた川内の不安げな目線と阿賀奈のたわやかな視線が交差する。緊張が小石程度の大きさ分消え去った気がするが、まだドキドキする。さながら、遅刻してしまい教室に入った瞬間同級生全員の視線が痛く突き刺さるのを恐れ教室に入るかどうかまごついている時のようだ。
 意を決して川内は扉を開けた。ガララと音を立てて川内の手によって引かれた戸の先には、彼女が恐れていた室内の人間全員の視線が集まるという事態が待ち構えていた。

「う……。」
 小さくくぐもった声で唸り声を一瞬上げる川内。もちろん誰にも聞こえない。
 明朗快活とした川内にしては珍しい俯いた姿勢。それを後ろから見ていた阿賀奈が再び肩に手を置いて鼓舞する。その励ましを受け取った川内は深呼吸一つして、顔を上げて歩み寄る。
 その足が向かう先は那珂だ。向かう途中に川内が見たのは、五月雨や時雨ら4人の側に移動していた黒崎理沙と、不知火の後ろにいる石井桂子、そして那珂の側に移動していた提督と妙高という構図だった。若干離れて五十鈴ら3人もいる。誰も口を開かない。その視線に嘲笑の意味が篭っているかもと被害妄想をしてみるが正直なところわからない。裁判される気持ちがなんとなくわかった気がした。

 那珂の3歩ほど手前に立った。まだ川内は目の前の先輩の顔を見られない。しかしいつまでも俯いていても仕方がないのでゆっくりと顔を上げると、そこには無表情にも見える微かに口端を上向きにした那珂がジッと川内を見ていた。
「あ、あの……。」
「ん?」
 ゴクリと唾を飲み込んで言葉を紡ぎ出す。
「さっきは、その。ゴメンなさい!言い、言い過ぎたって思ってます。」
 那珂は黙って川内の言葉を聞く。
「あたしのさっきのは、わがままだって反省しています。だから、許してください。あたしを……見捨てたりしないでください。」
「プッ! ……なんであたしが川内ちゃんを見捨てるの?」
「だ、だって!あたしだけ空気読まないで喧嘩腰に食いついちゃってさぁ。あ、呆れちゃってるんじゃないかって。」
 身長差的には川内のほうが若干高い目線ながらも、那珂に見下され、自身が那珂を見上げている感覚に陥っている。ビクついているのも自覚しているし、自分に非があることを自覚するとこういう感覚に陥るのは誰しもなんだろうかと頭の片隅で浮かべながら思いを打ち明ける。
「呆れてなんかないよ。むしろ嬉しかったかなぁ。」
「う、嬉しい?なんで?」
「あたしに思いっきりぶつかってきてくれたんだもん。これで川内ちゃんは二回もあたしに素直に打ち明けてくれたことが、とっても嬉しいの。」
 満面の笑みを浮かべて川内を見る那珂。川内もそれにつられて次第に緊張の顔をほぐし始める。
「許すも許さないも、呆れるもないよ。川内ちゃんはあたしの大事な後輩なんだから。もっとぶつかってきてもいいくらい。この鎮守府に必要な、良い意味で回りをかき乱す川の流れになってほしいな。そんでもって、そんな川内ちゃんの側には必ず神通ちゃんがいて、二人で協力して鎮守府に働きかけてくれるのが、あたしの考える○○高校艦娘部の形。あたしが仮にいなくなっても大丈夫なようにね。」
 那珂は自分に期待をかけてくれていた。それがわかった川内はますます自分の先刻の行いを恥じた。
 やはりこの人の言うことはちゃんと聞かないとダメだ。
 そしてこの人をいつか超えるためには、この人のありとあらゆる技を盗まないといけない。それには今の自分では確かに色んな物が足りない。自分でも自覚していないかもしれない、まだ見つけていないかもしれない強み弱み。言われて理解するのと、自分で理論立てて自分で気づいて理解するのは全然違う。脳にかかっていた靄が晴れた気がする。気持ちがいい。

 晴れ晴れとした表情を浮かべた川内は、那珂に返事をした。
「わかりました。あたし、那珂さんの期待に答えられるよう、頑張ります。言われたことはきちんとこなしますし守ります。馬鹿なあたしだからまた同じことをしでかしたら、きつく叱ってください。でもやっぱり見捨てないでください。」
「うんうん。見捨てたりしないよ。」
「はい!それじゃあ一つだけお願い、言っていいですか?」
 那珂は目をやや見開いて「?」を見るからに浮かべた顔をして川内を見る。

「さっきの喧嘩、買ってください。あたしと勝負してください。」
 川内のセリフに那珂以外の全員がハッとして驚いた。

「あたし……達が決めたことは守るんでしょ?だったらさっきの勝負はもー別にいい気がするけどなぁ。」
 那珂は驚きではなく、後頭部をポリポリ掻いておどけながらも燃えるような目つきをしている。どうでもいいとほのめかしておきながら、その表情は明らかにやる気に満ちたものだ。
「いいや。あたしなりのけじめです。ここで、やっぱなしってしたら女が廃る。この勝負で基本訓練の最後、デモ戦闘ってことにしてください。今のあたしの全てを出すから、那珂さんも全力を見せてください。あたしは食らいついてみせる。」
 目を鋭く細めてキリッと那珂を見つめる川内。その眼力に負けじと那珂も川内を見据える。
「おっけぃ。じゃあ改めて。その勝負、乗るよ。」
「あ、あの!その勝負、私も入れてください!」
「神通?」「神通ちゃん?」
 那珂が返事をした数秒後、今まで黙っていた神通が口を挟んだ。二人とも仰天して神通を見る。
「いや、これはあたしのけじめだからさ。神通は気にすること、ないんだよ?」
「いいえ。川内さんと同じことを見聞きして感じたい。私だって……○○高校艦娘部の一員です!」
 実のところ川内は自分で勢いで触れたことの仔細を一部忘れていた。そのため本気で神通を止めようとする。しかしその神通に普段ののそっとして気弱そうな気配はなく、その意志の強さが気迫に表れていたため、那珂も川内も彼女を認めることにした。
「いいよ。それじゃあ二人してあたしにかかってきなさい。叩きのめしてあげるよ。そんでもって、二人のすべてをここにいる皆の前にさらけ出してあげるよ。」
「「はい!!」」
 艦娘+艦娘になる少女ら+教師たちの目の前、那珂対川内・神通の演習試合が確約された。

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「よっし。早速やりに行きましょうよ。」
「まぁちょっと待って。川内ちゃんは今この場でやらなきゃいけないことがあるでしょ。」
 善は急げとばかりに那珂を急き立てる川内は那珂に止められた。川内を止めた那珂は後ろにいる提督と妙高、そして周囲にいる艦娘や教師たちに視線と手のひらで指し示しながら言い放った。
「え?なんでs
「皆さんに一言謝ってね。それから話の流れを曲げてくれたこと、ぜ~~ったい許さないからね。」
 ニコリと笑顔で締める那珂。その実めちゃくちゃ怒っていたことを川内は本能で理解した。思わずのけぞって鳥肌が立つほど震える。

 その後待機室では背筋をピンと伸ばした川内が律儀に全員の目の前まで歩んで深々と頭を下げて謝る姿があった。

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