同調率99%の少女(21) :少女たちの試行錯誤

# 3 少女たちの試行錯誤

 公開訓練は翌日再び、とはならなかった。教師陣の都合もあるからだ。とはいえ那珂たちは初回に出しあった案の訓練をひとまず全部こなすことを決めたので、教師が来ない日でも取り組む。
 全く監視の目がないわけではない。教師陣が来られない場合は明石と提督が、そして主婦のため毎回出られるわけではない妙高が大人代表追加として少女たちの訓練の様を第三者視点で観察に参加することになった。
 提案された訓練の2案目を那珂たちがこなした日の夕方、訓練を記録した艦娘たちのビデオを見返していた提督は確認のために残っていた那珂・神通・時雨・明石に告げた。

「数値化すると言うならさ、防衛省が配布している艤装装着者の評価チェックシートじゃダメなのか?あれなら国の管理システム使って簡単にできるぞ?ていうか最終的にあれに直しているの俺なんだけどな。ぶっちゃけ二度手間になるの、嫌なんだよ。」
 愚痴混じりに提督が紹介するシートを那珂は以前一度だけ見せてもらったことがあった。淡白で変に小難しい表現で評価項目が列挙されている記入式のシート用紙だった。普通に読んでもわかりづらいし、そんな大事な内容を未だに紙で記入させるなよと言いたくなるアナログ式のものだ。国のチェックシート用紙は、まだまだ現代ITっ子気分な提督はもちろん那珂たちですら、その記入が煩わしいものだった。
 しかし艦娘の管理者としては国に提出するのにそれを使わないといけないのが辛い。彼の気持ちとしては、様々な表現で報告してくる艦娘たちの自己評価を、いかにしてチェックシートに合わせて意訳するかが辛いので、どうせ数値化すると決めたのなら国のデフォルトフォーマットであるそれに従ってくれよというのが本音である。しかし一度艦娘たちに自由に報告していいと言った以上はそれを守り通すのが筋という思いは譲れない。その本音をわかっていたのは、明石だけあった。那珂たち三人は今この場でそれを初めて聞いた。

「……というわけさ。だから本音としては、君たちの段階からデフォルトのフォーマットに従って欲しいんだ。けどこんなわかりづらいシートを記入させるのは心苦しい。俺の矛盾する気持ち、わかってくれるかい?」
 わざとらしく泣き真似をして那珂に泣きつく提督。それを見て苦笑していた那珂はしばらく唸ったのち答え始めた。
「ん~~。確かにあのシートをあたしたちが付けるってなったらあたしはもちろん嫌だけど、夕立ちゃんや川内ちゃんあたりが猛反発しそうだよね~?。」
 那珂の想定に全員がウンウンと頷く。もはや件の二人の反応は好例なのだ。
「今までのままやるとなると、結局のところ提督の負担が地味に大きいってことなんですよね?」
 そう明石が尋ねると提督は首を縦に振った。次に時雨が口を開いた。
「僕達が実際にやってみて評価しやすいチェック表とかのほうがいいですよね?評価項目がわかりやすくないと数値化できないし、かといって変なチェック項目にすると本当のチェックシートと違いが出来てしまって提督が大変になってしまいますし。」
 ずっと俯いて思案していた神通が顔と片手を上げた。那珂は言葉で触れて促す。
「はい、神通ちゃん。」
「あの、提督の……本業の方でそういうある内容から別の内容に置き換えるシステムってないのでしょうか。私、ITとかよくわからないので上手く喩えられないのですが、例えば私達がこれから作るチェックシートの内容を、自動的に国のチェックシートに置き換えてくれる仕組みとか……あればいいなって。」

 神通の発言に那珂たちはポカーンとした。
 言い終わってから神通が那珂たちの顔を見渡すと、唖然としている。何かまずいことを言ったのかもと不安がもたげてくるが、その不安はすぐに解消される。
「そっか!そーだよ!あたしたちはあたしたちでチェックシートを付けて、それを自動的に変換できればいいんだよ!」
「そうですね。そういうのがあれば提督の負担も減るでしょうね。」
 那珂の反応に続いて時雨もニコリと笑顔になって相槌を打つ。
 少女たちに続いて好反応を示したのは明石だ。
「そうですねぇ。そういうのはむしろ提督の本職ですし、ていうか提督ご自身が作ればいいんじゃないですか?」
「おいおい。そう簡単に言わないでくれよ。」
「だったらさ、提督の会社の人に手伝ってもらえばいいんじゃないの?」
 サラリと案を出す那珂。提督はその案に低い唸り声を短く発して考えこみ、そして再び口を開く。
「まぁ、どうせやるんだったらうちの会社の利益になるようなことをしたいな。つうか俺が営業かぁ……。はぁ。苦手なんだよなぁ~。」
「何言ってるんですか提督。西脇栄馬支局長が、西脇さんの会社にとってお客様になるんですよ。」
「いやだから、俺が自分の会社の立場では営業となって、なおかつお客様の立場にもなってるって、すごく複雑な気持ちだよ。うちの社員とやりづれぇよ。」
「提督ぅ~!そこはどーんと構えて、ふんぞり返るくらいの勢いでイこーよ、ね!?」
 提督の反応に面白みを感じたのか、那珂はノッて茶化した。
 ノリノリで提督を茶化す那珂と明石のことを、神通と時雨は苦笑いを浮かべて眺めていることしかできないでいる。しかしさすがに話の逸脱に若干の苛立ちを覚えた時雨がピシャリと言葉で三人を叩く。

「三人とも!そろそろ話を進めましょう。提督も、押されてないでちゃんと言い返してよ。」
「あぁ、ゴメンゴメン。まぁ冗談抜きの話、もしうちの会社に仕事としてくれるんなら、ちゃんと発注するし、俺が橋渡しとなって話を進める。ただその前に、お客様である俺らの要件、つまりやりたいこと、俺の会社にお願いしたいことをまとめておかないといけないんだ。那珂だったら生徒会の仕事で似た経験あるんじゃないかな?何か仕事をお願いされるにしたって、まずは相手が何をしたいのかはっきり言ってくれないと困るよってこと。」
「うん。なんとなくわかるよ。」
「俺の会社だって、相手が自分のやりたいことをハッキリ言ってくれないようだと、受注の返事を出せないし見積もり……つまり相手からの依頼を受けるかどうかの調査をすることすらできないんだ。だからこそ、まずはすでにやった2つの訓練で君たちが求める評価のチェックシートを作り上げて欲しい。まずはそれがたたき台。開発会社に発注するための材料となるんだ。今日以後は、国のチェックシートと違う違わない等はひとまず気にしないでいい。わかったね?」
「うん、わかった。」
「「はい。」」
 提督が真面目な様相になったので那珂たち三人も気持ちを切り替えて返事をした。残る明石もその様子を柔らかい笑顔を浮かべつつも真面目に視線を向けている。

 これからやるべきことの道筋が見えてきた。それは今まで自分たちだけ決めようとしていた道ではあり得なかった明確さが見えてきたため、那珂たちは俄然やる気に満ちる。
 那珂は相談役の時雨と神通に早速指示を出した。
「それじゃー二人とも。ひとまず今日までの2つの訓練の評価ポイントを自分の考えでいいからザッとメールでもレポート用紙でもなんでもいいからまとめて書き出しておいて。時雨ちゃんは秘書艦の五月雨ちゃんと話し合っていいからね。神通ちゃんは……五十鈴ちゃんに相談しちゃうと迷惑かけちゃうかもだから、まずはあたしと。報告だけは五十鈴ちゃんにする形で。」
 再び二人からの返事を聞いた那珂はその言葉のあと、ウンウンと頷いて満足気にパタリと雰囲気を変えてだらけモードに切り替わった。神通と時雨が苦笑して、提督と明石がニヤケ顔で見ている。
「ハハッ。三人ともご苦労様。今日はこの辺でいいから、帰って休みなさい。」
「「「はい。」」」
 提督が優しく声をかけると那珂はもちろん、神通と時雨も照れを浮かべてはにかんだ。
 三人は提督から促された通り、この日は打ち合わせが終わると三人揃ってすぐに帰路につく。結局、作業の本格始動は翌日からとなった。

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 翌日、公開訓練を見に来た教師たちは艦娘たちの砲撃する光景を見学した。艦娘たちは先日一度行っているが、これもまた基本の技術なので、改めて教師たちの前で披露したいという願いから率先して取り組みがされた。
 一通り砲撃を見せた後、打ち合わせの段になり那珂は先日提督らと話し合った内容を全員に伝えた。ただし評価チェックシート変換のシステム開発云々の話については提督から待ったがかかったため、那珂が伝えることができたのはあくまでも自分たち独自の評価チェックシートのたたき台公開までだ。
 那珂が代表してそれらを説明し、時雨と神通が作った仮のチェックシートは全員(教師含む)に配布され、それぞれの視点からの確認が始まった。
 なお、この日は五十鈴ら三人の姿はなかったため、時雨と神通は最終的には那珂を頼ることになる。

「ねぇ神通さ。ここの評価の言い方、あたし嫌いだなぁ。できれば***ってしてほしい。」
「えっ? ……うー、は、はい。変えてみます。」
「あ~ついでにここも。てかこういう評価のされ方嫌い。これやめて。それとね……」
「コラコラ川内ちゃん、そんなに挙げると全部消えちゃう勢いだよ!好き嫌いはいけません!」
「うえぇ~。は~い。」
 率直な意見をぶつける川内に慌てて対応する神通の姿があり、そんな意見をぶつけまくる川内を那珂が叱るところまでが一連の流れとして繰り返しあった。
 また別の光景では夕立が不知火を巻き込んでコソコソ話し、突飛な批判を時雨に思い切りぶつける姿もあった。
 そして艦娘ら生徒たちが話し合う脇では教師たちが生徒たちの様子を監視し、かつ自身らも意見をかわしあっていた。

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 ある項目を見ていた川内が神通に意見を言っている。またふざけた意見なのかと那珂は勘ぐって注意しようと身を乗り出す。
「コラー!川内ちゃん、またぁ?」
「うわぁ! 違います。違いますって! 今度は真面目な意見。」
「ホントーにぃ?」
 目をひそめてジトリと川内を見つめる那珂。川内は先輩のややマジ怒りが混じっているかもしれない視線を受けて焦りながら説明する。
「いやぁ、ここの言い方なんですけどね。“水上航行、直進”の欄。やや駆け足とか全速力とか書いてありますけど、速度の言い方は艦船にはちゃーんとあるんだって言いたかったんですよ。」
 川内のゲーム・漫画由来知識が発動した瞬間だった。那珂はやや憤りを交えていた視線を解消し、興味深々に川内を見ることにした。先輩の態度が変わったことを見届けると、川内はコホンと咳払いをしてから続けた。すると自然と那珂以外の艦娘たちの視線も集まる。

「150~60年前の日本海軍の艦船や、ちょっと前の海自の護衛艦って、微速とか原速とか、第○戦速とかそういう言い方でスピードを表していたんですよ。」
「ほ~、それもゲームで知ったの?」と一言で那珂が確認する。
「はい。ゲームならこの手の用語は当たり前のように使われてますし。ちなみに船のスピードはノットで示すのって那珂さん知ってました?」
 那珂は頭を横に振って言葉なく否定を示す。
「す、すごいわね……川内ちゃん、もしかして軍事物のマニアだったりする?」
 さすがに明石もあっけにとられるほどの偏った知識だった。普通の人ならば絶対知らないであろう艦船に関する知識をその後もペラペラと口にし始める。
「ほ、ホラホラ川内。そのへんでやめとこう。君がすごいってのはわかったから、な?」
 これは止まらないということを、自身もそういう傾向があるゆえにいち早く気づいた提督が川内を止めるべく慌ててやんわりとしたツッコミを入れた。

 落ち着いた川内が那珂の再確認の意味が込められた視線を受けて、提案する。
「えーと、つまりあたしが言いたいのは、そういうスピードとか動き方を示す合図をあたしたちも決めようってことです。」
 川内の周囲がざわつく。そのざわつきの声色は反対ではなくあきらかに賛成的な良い質だった。最初に口を思いっきり開いて意見を述べたのは夕立だ。それに時雨も続く。
「賛成賛成! 川内さんやっぱさすが~っぽい!絶対楽しそ~!!」
「いいですね、そういう言い換える表現。」
「でしょ~!単に数値でスピード言われるより絶対良いと思わない!?」
 好評な声ばかりのためもはや興奮状態でノリノリの川内。そんな川内に村雨が問うた。
「それで、その本当の艦船の用語をそのまま使うんですかぁ?」
「あたしとしてはそれがいいかなって思うんだ。だってさ、一般人のあたしたちが急に15ノットで進むよ!とか言ったって、すぐに対応できないじゃん。それにあたし数学マジ苦手だし、数字っぽいの見聞きするのだけで、も~嫌。そこでさ、原速で進むよ!とか言ってみんな切り替えたらかっこ良くない!?」
 夕立はわかるわかると激しく頷く。二人は苦手分野まで気が合うのか……とツッコミ役の時雨と神通は密かに頭を悩ます。しかし二人ともツッコミ&心配役なぞ一切気にしない性格なのは誰の目にも明らかだった。

 那珂も概ね川内の案に賛成だ。艦を模した機械を身につけ、艦の記録情報由来の能力を発揮する自分たちの存在としてはこの上なくフィットする用語だ。
 しかしその“艦”に縛られすぎるのを懸念していた。
「うんうん。いいと思うね~。さすが川内ちゃん、その手の知識では頼もし~。でも一つあたしの考え言っていいかな?」
「おぉ!はい、お願いします!」
「ぶっちゃけさ、いくら艦娘とはいえ、ただのJKやJCなあたしたちや時雨ちゃんたちがさ、その第○戦速で!とか言うのってなんかしっくりこないというか、女の子らしくないっていうか……うーん、この気持ち分かってもらえるかなぁ~~?」
 わざとらしく頭を揺らして腕を組んで身体を揺り動かして悩むフリをする。変に勘ぐられるかと若干の不安を持っていたが、その意見は満場一致で受け入れられた。言い出しっぺの川内も同意見だった。
「あぁ~確かにそうかも。」と川内。
「……はい、私も、そのまま使うのはどうかと思ってました。」と神通。
「なんか私たちの秘密の暗号みたいにするってことですよね~~?」
 と、五月雨も理解できたようで、若干の喩えを交える。
「まぁそんなとこ。あたしたちが使いやすい言い方に変えるってことで分かってもらえれば。」

 那珂の補足を受けて、ワイワイと意見を出し合う艦娘たち。
 しばらく案が飛び交うがその表現方法や由来とするイメージが中々定まらない。そのような時、ある発言で話し合いの方向は一気に光を見出す。
 そのきっかけを作ったのは不知火だった。那珂や川内・夕立たちがワイワイ話し合う最中、彼女の簡潔な意見が響き渡った。

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「乗り物が、分かりやすい。」

 那珂たちの話し合うはしゃいだ軽い声がピタリと止まる。注目が一身に集まるも不知火は一切微動だにせず再び口を動かす。
「あるスピードまでを、連想。例えるのは乗り物。」
 相変わらずの断片的な区切り区切りの言葉。不知火のその発言をフォローすべく神通が口を開いた。
「なるほど。例えば……バイクとか車とか、でしょうか。」
 不知火はコクリと頷く。続いて五月雨がさらに喩えて言い出した。
「わぁ~なんかわかりやすくていいですね~。それじゃあたとえば、自転車ってしたなら、普段の1.2倍くらいのスピードを出して進むようにするとかかな~?」
「あ~なるほど。それいいわねぇ。自転車が1.2倍なら、バイクが1.5倍のスピードとか決めておけば、相対的になってすぐにスピードを調整しやすいかもしれないわねぇ。」
 五月雨の案に賛同して村雨がさらに表現を広げる。それに時雨もウンウンと頷いて賛同を示す。夕立も
「そーたい?なにそれ?」
と理解できてないながらもどうにか賛同を示そうとする。
「……授業で習ったはずだよゆうも。絶対と相対。相対っていうのは他との関係で成り立つ物事のことだよ。」
「あは~。時雨サンキュー。あったまいいっぽい~。」
「ゆうちゃん……さすがに私だってわかるよそれくらい。」
「さみうっさい!」「ふえぇ!!?」
 時雨から丁寧な説明を受けて呆けたままではあるが、ようやく感心を見せる夕立。五月雨も時雨に乗って突っ込んでみたが、逆に牙を剥かれて脅かし返された。

 そんな中学生組のやり取りを見て苦笑を浮かべる那珂が最後に口を開いた。
「アハハ。皆不知火ちゃんのその例え、気に入ったみたいだね。あたしもそれでいいと思う。後は実際のスピードをどんな乗り物に例えるかだよね。あたしとしては……」

 そうして再び活発化した話し合いの末、評価チェックシートに合わせて艦娘のスピード表現・指示の形も定まっていく。

--

 西脇提督は、まだ艦娘が時雨・村雨たち駆逐艦艦娘4人程度までしかいない頃に海自由来の指示・号令系統を一通り調べて教えたことを思い出した。皆パッとした反応を見せず、一斉に拒否してきたためにそれ以上教えることはしなかった。
 今の今まで五月雨たちは単純な知識としての指示・号令を忘れていたが、もはや誰も気にしない。今回の言い換えの提案によって、その知識は興味津々なもので上書きされようとしていた。
 少女たちの打ち合わせを外野で見ていた提督は、
((きっと五月雨たちは完全に忘れてるんだろうな。))
というズバリ正解を心の中で苦笑いながらも思って、温かい視線を送ることにした。

 その後は各乗り物の速さのイメージに合わせて、どのくらいの速度に相当させるかが話し合われた。神通は那珂の指示でこれまで出た案をまとめて述べつつ、最後に提案を付け加えた。
「……このようになりました。あの……私思ったのですが、この中で基準を決めませんか?」
「基準?」川内がすぐに反応して聞き返す。
「はい。私たちが出撃して、普通に移動するときの速度を決めて、そこから分けたほうが使いやすいと思うのです。」
「ほほぅ、なるほどねぇ。神通ちゃんってば鋭くて良い視点~。」
 茶化し気味の那珂の評価ではあるが、神通の指摘は本当に的確だと感じていた。神通はやや照れながら続ける。
「ここで出てきたスクーターが一番真ん中だと、思うんです。自転車よりも早くて、車やバイクよりも遅いかと。なんとなく、真ん中かな……と。」
「なんとなくって。神通にしては曖昧なイメージだなぁ~。」
「う……。」
「でもぉ、いいですよね~スクーター。確かにこの乗り物の中では中間なイメージありますぅ。」
「うん、いいと思う。そんな感じだね。」
「私は、もともとそう思ってた。神通さんは、さすが。」
 村雨が感想を言うと時雨と不知火、そして他のメンツも次々に頷いて賛同していく。

 それをきっかけに他の候補である乗り物もスクーターから何倍にするのか、相対的な速度のイメージから案が出され、練りこまれて定められていった。
 ただひとつ、最上位の速度表現としたリニアに相当する速度については、当初那珂が4~5倍と提案したが明石からストップがかかった。
「え~なんでなの、明石さん?」
「艤装のメンテをする私たちからするとですね、あまり何倍とか勝手に決められても正直困るんです。艤装の主機、つまりエンジン部分には一応限界となる最大速度とか出力値が定められています。那珂ちゃんたちが等倍速を実際は厳密にどのくらいの速度で表現したいのかわかりませんけど、あまりに倍数を高めてくれちゃうと、意外と最大速度に達しちゃうと思うんです。それに艦によって最大速力は異なります。技師である我々からお願いしたいのは、あまり最大の出力をするような分類やシーンを設けないで欲しいんです。最大出力を続けると、機械には悪いんですよ。」
 明石の指摘は正論だった。機械系統はまったくわからない那珂たちだったが一応理解できた。
「え~う~。それじゃあもっとぼかして可能な限りの全速力とか?」
「いえいえ。そこはもうちょっと言い表してもいいですよ。」
 それでも悩む那珂に対して、見かねた提督がフォローの提案をする。
「なぁ明石さん。そこは逆に提案してもいいんじゃないかな。艤装の最大出力に対してどのくらいまでOKです、とかさ。」
「そうですねぇ……。」

 提督の機転もあり、明石から告げられたのは、“主機の最大速度(出力)の80%”だった。
「……くらいですかね。この程度ならかなり高出力ですし、なおかつエンジン部分への負担も通常は気にしないでいいレベルまで抑えられます。」
「わかりました。それじゃあ、その80%というのにします。いいかな、みんな?」
 那珂が返事を求めると、川内たちは全員肯定の返事を出した。

 そうして、鎮守府Aにおける速度指示・表現の原案が決まった。そしてそれは評価チェックシートにも反映される。
「それじゃあ、随分脱線したけど、水上航行の評価では、この速度指示を適切に反映して実際に出して使い分けることができるかどうか、という項目もいれよっか?」
「はい。」
 水上航行のチェックシートを作った神通がメモ書きして、案をまとめ直した。

 すなわち、
 停止=停止
 徐行=限りなく停止に近い速度
 歩行=1/4
 自転車=1/2
 スクーター=10ノット(1倍)
 バイク=1.5
 車=2
 電車=2.5
 リニア=艤装の主機の最大速度(出力)の80%
 となった。

 等倍つまり通常速度の区分たるスクーターは、10ノットと決められた。計算あるいは明石や教師陣からスクーターの一般的な速度を確認した結果、大体このくらいの速度で問題ないだろうと那珂たちは踏んだためだ。

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 艦娘の艤装は脳波制御により考えたことを様々な思考パターン毎に判断して出力を変える、まさに人体のように動的に出力が調整可能な代物である。考えて出した速度はスマートウォッチ等の艦娘制度用のステータスアプリで数値化されるため確認できるが、大半の鎮守府の艦娘はなんだかんだと理由を付けてそれを見ない。おおよそ本人同士の感覚で合わせているのが現状である。
 もちろん厳格に規定されて運用しているケースもある。鎮守府Aの面々も、その例に入ろうとしていた。

 艦娘はあくまで実際の艦船相当の能力を発揮する機械を装備した人間であって、本当の艦船ではない。当然主機も本当の艦船のそれとは根本から異なるため、本来の主機に由来する指示・号令系統は艦娘の艤装の使用方法と艦隊運用にはそぐわない。
 海上自衛隊と合同の任務をする可能性が全ての鎮守府の艦娘の艦隊にありうるため、海自の指示系統・号令も教育上一応教えられるが、それはあくまでも補助的な知識程度であり、通常の艦娘の運用上の必須項目ではない。
 そもそも艤装装着者に応募して着任する人間は鎮守府で基本訓練を終わるまでその手の知識には馴染みがない一般市民である。そのため習いたての高揚感に任せて最初の数回の任務で使ったり、普段の会話に混ぜる冗談・その場のノリで使うなどでしかない。そう言ったまれなケースでない限りは海自由来の指示系統・号令はほとんど意識されないのが現状である。
 結果として、艦娘の行動のための指示や号令は各鎮守府に任されている。国としても、深海棲艦を領海のギリギリまでに押しとどめておけるなら、現場の戦闘技術・方針までは問わないことにしている。そこには艤装装着者の集団はあくまで軍ではないという日本政府のアピールが見え隠れしていた。

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 この日、案を揉まれて形を見せた評価チェックシートはまず水上航行と砲撃の二つ向けのものだけだが、早速そのチェックシートを用いた訓練、評価チェックシートの評価をすることになった。
 砲撃の評価チェックシートを用いた砲撃訓練は、滞り無く進んだ。
 チェックシートはそれぞれの教師が手に持ち、明石や技師達に砲撃時のポイントと見方を教わりながらつけ進められた。一番頼りなさげな阿賀奈を含めて、曲りなりにも教鞭をとったことのある三人のため、艦娘となった生徒たちの砲撃の評価をスラスラと進めていく。

 評価が出された。砲撃では、那珂・時雨・不知火が最上位点数組だ。次点で川内・妙高・村雨・五月雨。最下位組は夕立・神通という順位付けだ。
 なお、五十鈴はこの日は不参加のため後日となったが、最上位組の時雨と不知火の間に位置する総合的な出来だった。

「ん~~、神先さぁん。もうちょっと頑張ってほしいなぁ~。」
「は、はい……申し訳ございません。」
 集まってきた艦娘のうち神通に、チェックシートを付け終わった阿賀奈がほんわかと鼓舞する。そんな先生を見て普段の倍は申し訳なさそうに悄気げる。
「ううん。次頑張ってくれればいいのよ~。それにしてもみんなが作ったこのチェックシート、なかなか分かりやすくていいと思うわ~。まだちょっと荒いところがあるけど、艦娘になってない先生でも、神先さんたちをあっという間に評価できたし。あなた達が主役なんだから、これからもこのチェックシートと一緒に頑張っていってね?期待してるわよぉ~。」
「はい!」
 自分のできの悪さを指摘される一方で褒められる・気をかけてもらえる面もある。神通はまるで学校で成績を褒められたかのごとく感じ、気分が良くなった。やはり先生が鎮守府、艦娘がらみでもいてくれると非常に張り合いが出て個人的にはやりやすい。
 神通は自分でも気づかぬうちに自然な笑みをこぼしていた。それを川内の指摘で気づく。
「お、神通ってば嬉しそ。先生に褒められるのそんなに嬉しかったんだ。」
「……(コクコク)」
 そのやり取りを見た阿賀奈が今度は川内に矛先を向ける。
「内田さんは結構いい点なんじゃないかしら。このままがんばってね。」
「お~、はいはい。」
「学校の勉強も成績もこれくらい熱心で点数よかったらいいのにねぇ~。ゲームで歴史や軍事の知識たくさん持ってるんだからさぁ~?」
 阿賀奈の評価のあと、すかさず茶化しを入れたのは那珂だ。雰囲気と流れ的に茶化さずにはいられなかったからだ。そんな先輩に川内はハッキリと言い返す。
「あのですね、歴オタや軍オタの皆がみんな、学校の成績もいいわけじゃないですからね! 好きな分野が出てきたって学校の勉強は別です。あ・た・し・はぁ~……ハッキリ言って日本史も世界史も苦手だぁ!!」
 ビシリッと、人差し指を立てて天を指して言う川内。
「ちょ、ちょっと川内ちゃん!先生がいる前でその発言はいけませ~ん!」
「い、威張って言うことではないかと……。」
 さすがに後輩の今の言葉は教師のいる前ではまずいと思い咎める那珂と、苦手教科を堂々と教師の前で宣言するなどなんて人だと呆れる神通の二人だったが時すでに遅し。阿賀奈は那珂のノリを意識してかせずか、似た雰囲気(多大にふんわり成分がトッピングされた)でわざとらしくて微塵も怖さを感じさせない叱り方で川内を責めるのだった。

 そんな那珂たちの一方で、五月雨や不知火らとそれぞれの教師も似たようなやり取りで評価をしあっていた。

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NISHIWAKI

同調率99%の少女14~24

那珂が主人公のオリジナル小説。 鎮守府Aの物語 14~24巻分まで
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