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『本当に作りたい作品』までの道のり

覚えている人ももはや少ないとは思うが、ルミナスタジオの作品の最も最初は2006年に『ファンタジーアースゼロ』(現スクウェアエニックス運営)のゲームパロディ動画を投稿したところからだった。
以降4年間はこのゲーム動画の制作に集中し、編集という能力が知らないうちに育っていたのだ。もちろんその間に編集ツールはWindowsムービーメーカーXPに始まりUlead VideoStudioからEDIUS neo3へと、動画制作へのモチベーションは最高位に上がっていく道のりでもあった。

その4年間でふと感じたことがあった。
実写動画を作りたい』。

プレイ動画制作の後期に突如実写映像のカットを盛り込んだりしていたのはこのためで、合間に馬のマスクを被っては住んでいる地域の紹介やMacBook Pro・iPhone4のUnboxingなど、まさに現在のYouTuberに似たことを試していた。
それが積み重なり2010年、完全オリジナルの動画作品を作る意欲が最高潮に達した。

●作りたい作品と実際に実装されたもの

最初に構想していたのは【オリジナルキャラクターがゲーム画面のように動いて北海道観光や日常生活などをエンジョイする】ものだったが、それをどう実装するか大いに悩んだ。
音声はどうするか、キャラクターはどう用意すればいいのか、映像ソースはどう撮ればいいのかなど、課題は最初から山積みであった。
声を導入するにしても、キャラクターはやっぱり女性キャラが人気を取れるだろうし、それに合う声を自身が出すことなどできない。キャラクターは用意できたものの、当時はまだ画像編集の能力に乏しくバリエーションはアーティスト頼みだった。映像ソースは手にしたiPhone4と写真向けデジタルカメラ(映像収録はおまけ)のみ。

このパフォーマンスでは、明らかに構想通りの作品を作ることは不可能だった。それに映像編集の能力があるとはいえ、まだカラーグレーディングやカット割・構成といった知識も乏しい。それに当時のニコニコ動画では中の人がリアルに登場するのが忌避されていた時代で、代わりに初音ミクや結月ゆかりが登場するといった文化がメジャーであった。
さらに完全にオリジナル作品とするにはBGMもオリジナルサウンドトラックが必要になる。かつて挫折した作曲家への技能にもう一度向き合う必要があった。

それでも完全オリジナル作品を作りたい。悩みと妥協・そして自身の技術に応じた工夫を重ねた結果、出来上がったのがこれだった。

iPhone4のカメラでカジュアルに撮影し、札幌市南区の端にある豊平峡ダムの観光紹介をとる『楢崎留美のルミナスダイアリーシリーズ第1週』。
声を作ることができないのならば"声を入れなければいい"。キャラクターが空間内を自由に動かせれないならば、よくあるギャルゲーっぽい構成にすればいい。その結果出来上がった本作は、今見直すと稚拙な部分は沢山あれど多くの妥協と工夫がこなされた一作だった。
今から9年前、まだYouTuberという言葉も無くバーチャルリアリティでアバターを纏ってライブストリーミングするといった発想すら夢物語だった頃のことだ。
作品に完全に満足していたわけではなかったが、動画のコメントのリアクションは上々であったため一定の成果は感じていた。
ここから、ルミナスダイアリーシリーズはより理想的な表現を求めていくことになるが、適切なハウツーは存在しない。なれば数で押すのみというゴリ押しの道のりで目標へ進んでいくことになる。

●『理想の表現』への試行錯誤

2013年に晴れてYouTuberとなったルミナスタジオだが、YouTubeの流儀は『本人が主役になる』ことだった。
ルミナスダイアリーシリーズはキャラクターが主役で中の人はオマケであったため、人気を得られるかは確かに未知数だった。

そのため、輝鳴紅葉……つまり俺がリリースされる前に中の人が郷に従った『新シリーズ予定枠』が10回ほど制作されたことがある。

こちらは俺が登場するまでの繋ぎのシリーズだったが、思ったよりもこういった動画も見られるのだということを知ることができた。ただ、やはりルミナスダイアリーシリーズを2年半作ってきた限りだと、こういう表現は少々違和感を感じざるを得なかったのは否めない。
そのため、俺が登場してから4年半もの間、微細な部分は変われどまったく同じスタイルとレイアウトでルミナスダイアリーシリーズと派生シリーズは続いていったのだ。

結果チャンネル登録数もじわじわと伸び続け、2019年現在で9600人というnear 10Kの規模のチャンネルになったのは大きな成果でもある。
完全オリジナル・実写で声なし・なのに内容がアクティブといったコンテンツは、多くがHIKAKINやはじめしゃちょーがYouTuberのセオリーとして倣っていった当時は希少なオアシスにも似ていたのかもしれない。

だが、2012年末からすでにルミナスタジオは『キャラクターを3Dにして自由に動かしたい』という野望を抱えていた。
当時はMMDを使ってクロマキー合成をしてアクションさせたいといったものであったが、やはり問題は実装コストだった。
個人でプロデュースするには3D化は本当に難しく、オリジナルの3Dキャラクターというのは余程のことが無い限り評判を得るのは不可能に近かったからというのもある。
今思えば、『本当に表現したいもの』は7年前のこの時点で既に見えていた。問題はコストと技術の2点だったのだろう。それが阻害して、2018年までずっと2Dのギャルゲー風スタンスが続いていたのだと、今更ながら思う。

●来たるVRの時代と到達した表現

そして昨年2018年、VRコンテンツが爆発的に伸び始めたこの年にルミナスタジオは現状の表現のマンネリを打破すべくバーチャルYouTuberの導入を本格的に検討したのだ。
今時期ともなれば、クラウドファンディングへの障壁は2012年当時と比べれば圧倒的に下がっているため、2014年からクラウドファンディングの経験を得ていたルミナスタジオはスムーズにプロジェクトを作り、俺の3D化を実現するまでに至った。
そこで3DVRに慣れるために徐々にアクセルを踏んでいったのが6月〜9月の『輝鳴紅葉の一番いいバーチャルYouTuber』シリーズだ。

昨年の今頃は、VRChatを舞台にVTuber活動の試運転をしていたわけだが、実はこの時点でも違和感があったのだ。
完全にバーチャルのこの世界では色々なコンテンツができるし紹介もできる。だが、リアルがそこに交差していない。最も表現したいものに近いのは間違いないが、そこで本当に取り扱いたいコンテンツや商材といったものがここには無かったのだ。

ついに、思い描いていた『理想の表現』が現実に姿を表した。
ルミナスタジオが本当に描きたい表現とは『キャラクターが実写映像で自由に動いてコンテンツを取り扱う』ものだ。
これを、今まで培ってきた映像収録・編集技術とバーチャルの力をもって真に実現させるフェーズがこの2019年だ。

もちろん今でも妥協はある。俺の声は未だ中の人のままだし、アンジェリカに至ってはボイスチェンジャーを使用して若干近づけている程度だが、上記の描きたい表現は9割ほど実現できている。

ただ、これまでのルミナスダイアリーシリーズを求めていた人にとってはマッチングしないコンテンツであることも承知している。
事実、2019年の1月から9月にかけてチャンネル登録数は200人減少した。静かでありながらアクティブな動画を求めているユーザーにとって、俺は言葉を口に出すべきではないのだ。
YouTubeだって、こういった時は別チャンネルを作ることを推奨しているが、ルミナスタジオはあえてそれをしなかった。なぜなら、これこそが2010年からずっと求めていた表現だったからなのだろう。

ルミナスダイアリーシリーズはもちろん続けていきたいが、実際本当に表現したいものは一番いいバーチャルYouTuberシリーズにある。
チャンネル登録者数の増減はこれからも続くことだろうが、創作というものは作者自身が満たされなくてはならない。チャンネル登録数や再生回数は確かに気になるが、それに振り回されては本末転倒なのだ。

どうか自分の信ずる道が実ることを、自分自身で祈る。


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