サムネ第3回

なぜ楽天は最下位→翌年CS出場できたのか【投手編】

 お疲れ様です。ルパン22世です。

 前回、「なぜ楽天は最下位→翌年CS出場できたのか【打者編】」という記事を書き、多くの方に見ていただくことができました。

 今回はその続編となる投手編です。
 今季の投手陣の印象は、開幕から則本選手・岸選手の両エースを欠くなど苦しい先発事情を抱えたものの、抑えの松井選手森原投手などの中継ぎ陣が踏ん張ったというイメージが強いです。
 なんとなく皆さんが感じているであろう投手事情をデータを使って実証します。 

 今回の構成は以下の通りです。

1. 昨年との違い

 昨年との違いを明確にするために、昨年度・今年度・2015年から2019年までの楽天平均、そして2019年のリーグ平均成績を比較します。特筆すべき指標を色付けしてあります。

 以上の表から次のことが分かります。

結果① 完投数・完封勝利数が減少した
結果② ホールド・HPなど中継ぎに関する指標が改善された
結果③ 三振数が減少した
結果④ 与四球数・暴投数が減少した

 ①に関しては、昨年10あった完投勝利数が3まで減少しているため、完投できる投手(≒イニングイーター)がいなくなったと考えられます。また②に関しては中継ぎ陣の成績が向上したと読み替えることができます。

 そして、上記から考えられる仮説はこちらです。

仮説①「チーム方針として先発陣を早めに下ろすようになった」
仮説②「中継ぎ陣が安定し、先発陣を上回る活躍をした」

 結果③、④に関しては上記2つの仮説の仮説(なぜ仮説のようになったのか?)と関わってしまうため今回は考慮せず、機会があれば分析したいと思います。

 今回はこの2つの仮説をデータを用いて分析していきます。また今回も*WARという指標を使って分析していきます。

*WAR (Wins Above Replacement):
 打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して選手の貢献度を表す指標である。同じ出場機会分を最小のコストで代替可能な控え選手(リプレイスメント・レベルの選手)が出場する場合に比べてどれだけチームの勝利数を増やしたかによって計算される。
 1.02 Essence of Baseball より参照 

2. 仮説①「チーム方針として早めに先発を下すようになった」 

 まずは「なぜ完投・完封数が減少したのか」を分析していきます。
 ここで考えられるのは、チーム方針によって早めに先発投手を下ろすようになったのではないかということです。

 メジャーリーグでは試合数の多さから「中4日・100球制限」というのが当たり前で、完投勝利がかなり少ないです。メジャーリーグを経験している石井GMの元では、早めに先発投手を下ろすという方針を打ち出しているのでは、と考えました。

 これをデータで考えると、以下のような仮説になります。

「QSの割合が高いが、先発平均イニング数が少ない」

 基本的にはQS(6回自責点3以下)であれば先発が試合を作ったと言われます。「試合を作った」とは何かとは思いますが、ここでは「野手が平均的な活躍をすれば勝てる試合にした」と定義します。

 では実際に検証していきます。
 全先発登板におけるQSの割合と先発平均イニング数を表にまとめました。

 表を見ると、約42%の割合でQSを達成しており、先発平均イニング数が5.5(5回と半分くらい)となっています。

 では約42%のQS率は良いほうと言えるでしょうか?
 2019年・2018年のデータは見つからなかったのですが(完全な調査不足)、2017年のセリーグQS率平均が52%、パリーグQS率平均が49%だそうなので、あまりいいほうではないと考えることができます。

 また平均イニング数はどうでしょうか。
 1年間ローテーションを守った場合、1人の先発投手が年間でマウンドに上がる回数は基本的には24回であり、143試合を24で割った値は5.96です。つまり、規定投球回(143イニング)に達するには平均5.96回を1年間守る必要があります。また昨季の先発平均イニング数が5.84なので、5.5という数字はあまり長くはないと言えるでしょう。
 ただしこれは先発投手の責任というより、*球界全体の潮流と言えるため気にしなくてもいい問題かもしれません。

*球界全体の潮流
 今季のパリーグの規定投球回を達成した投手は6人であり(うち1人は美馬選手)、これまでの最少記録となっています。
 full-Count より参照

 以上よりQS率も高くなく、平均イニング数も長くはないため「チーム方針として早めに先発を下すようになった」という仮説は立証できず、やむを得ず先発投手が降板してしまったことが多かったということが分かりました。

 ただし球界全体の潮流や日本ハムが今季から取り入れたオープナー制により、平均イニング数で投手を測るという考えがなくなる日も来るかもしれません。

 次に、先発陣が長くはないイニングで降板したにも関わらず、勝ち星を重ねることができたことに関して、仮説を立てて考察していきます。

3. 仮説②「中継ぎ陣が安定し、先発陣を上回る活躍をした」

 先発陣が長いイニングを投げられなかったが、中継ぎ陣の活躍によって勝利に結び付けたのでは、という考えです。

 この仮説をデータを用いて読み替えると、
 「先発陣のWARが昨年並み、または昨年より下がったものの、中継ぎ陣のWARが上昇した」と言えます。
 では、実際はどのような投手成績だったのかを見ていきます。

 〇先発投手

 先発投手のWARは昨年度より2.8下がっています。特に則本投手が-3.6、岸投手が-2.3とかなり下がってしまいました。
 しかし、ルーキーの弓削投手や昨年は登板のなかった石橋投手などの若手の台頭や、唯一の規定投球回に達した美馬選手の活躍もあり、なんとかシーズンを終えることができました。

 では次に中継ぎ陣の成績を見ます。

 〇中継ぎ・抑え投手

 昨年度よりWARが増加し、中継ぎ陣の指標が改善していることが分かります。今季から楽天に加入したブセニッツ選手や侍ジャパンにも選ばれた森原選手、また守護神としてセーブ王のタイトルを獲得した松井選手が活躍しています。
 しかし昨季との差を見ると1.5しか+になっておらず、先発投手の-2.8を埋められていないため、投手全体としては昨年より成績を落としてしまったと言えます。

 以上より、「中継ぎ陣が安定し、先発陣を上回る活躍をした」という仮説は正しく、厳しい先発事情の中でも中継ぎ陣が投手陣を引っ張っていったシーズンだったと言うことができます。

4. まとめ

 今回は「なぜ楽天は最下位→翌年CS出場できたのか【投手編】」を分析していきました。分析の結果、

先発投手のQS率、投球イニング回の指標が悪かったこと
中継ぎ陣がここ5年で最高の成績を残し、先発が早めに降板しても勝てたこと
③ 投手陣全体としてはWARが昨季より悪化してしまったこと

 の3点が判明しました。

 前回の【打撃編】と併せて考えると、今季のCS出場は野手の活躍のほうが投手の活躍より大きかったのではと分析できます。

 来年度は両エースの復活+今季の中継ぎ陣の成績の維持ができれば、優勝も夢ではないでしょう。
 来季は先発陣の活躍に期待したいところです。

 ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。
 ご意見・ご指摘などがあればどしどしコメントをお願いします。

 では、また次回。 

5. 参考

1.02 Essence of Baseball
sportsnavi



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